54 / 55
第54話 チンケなヒトデの分際で!
しおりを挟む
「アラクネばあちゃん、そのテナって妹さん、きっと僕のばあちゃんだよ!」
陸人はアラクネを見据え、語気を強めた。
「実は僕、ここじゃない別の世界から来たんだ。アラクネばあちゃんの妹と同じように、朔の書の【今すぐココをクリック】を触っちゃったせいで。テナとテナ子って、名前も似てるし、年齢も一致するし、巻物がばあちゃんの家の床下から出て来たのが何よりの証拠だ」
陸人の衝撃の告白で、神殿内にはどよめきが起こっている。しかし意外にもアラクネは驚いていなかった。
「ふん…やはりそういうことじゃったか」
「え…?知ってたの?」
「朔の書を駆使できるのはギッフェル一族の血を引く者だけじゃからな。しかしそんなことなどどうでもよいわ」
アラクネは吐き捨てるように呟くと、陸人を押しのけて円卓の方へと歩み寄っていった。
「あ、待って…!」
阻止しようとしたが、間に合わなかった。
「精霊王よ、わしの願いを叶えてくれ!異界に飛ばされてしまった妹を、再びわしの元に返してくれ!」
ところがギャラクシアスは渋い表情を浮かべた。
「申し訳ございませんが、あなたの願いを聞き入れることはできません」
「な…なぜじゃ!」
「あなたには権利がないからです。権利があるのはデルタストーンを魔法陣に置いた者だけなのです」
「なんじゃとぉ!チンケなヒトデの分際で!」
アラクネは激怒し、両手に巨大な光の球を宿して陸人達にくるりと向き直った。
「お前達、わしの願い事をこのヒトデに言え!さもなくばこの“メテオライト・ボム”をぶちかましてくれようぞ!」
「おいおいおい…!なんかヤバそうだぞ、あの技!」
シメオンが数歩後退る。
「ああ、とてつもない魔力を感じる…」
オーガストもすっかりアラクネの貫禄に圧倒されている。
「うーむ…さすがラスボス。これはお手上げだな。言う通りにした方が賢明かもしれない」
「そんなの絶対駄目だよ!ばあちゃんは向こうの世界で幸せに暮らしてるんだから!」
「それなら良い解決方法があるわ」
声を落としてエレミアが提案する。
「精霊王に頼んで、今すぐあのおばあさんを冥土送りにすればいいのよ」
「なるほど、そりゃあ名案だ」
シメオンに続き、オーガストも深々と頷く。
「そうだな、我々の安全のためにもそれが一番良いだろう」
その一方で、陸人だけは反対の声を上げた。
「ちょっとみんな!いくらなんでもそれは酷いよ!一応アラクネばあちゃんは僕の血縁者なんだよ?」
「確かにそうね。それじゃ、できるだけ楽に死なせてあげましょう」
「ちょっ…そういう問題じゃないよっ!」
「ええい、早くせんか!」
アラクネがしびれを切らして陸人達を促す。
「はいはーい!ちょっと待ってくださーい!」
オーガストはアラクネに返事をしてから、声を低くして陸人にこっそり囁いた。
「陸人、先にお前の願い事を叶えてもらえ」
「え…?でも――――」
「心配するな。アラクネのことは俺達がどうにか説得する。まぁ、最悪の場合は精霊王に頼んで冥土送りにしてもらうかもしれんが…」
「ええ?!」
オーガストは陸人が返事をする隙も与えずに、背中を押して精霊王の前へと行かせた。
「二つ目の願い事は決まりましたか?」
「うん…」
陸人は一瞬黙りこみ、少し考え込んでから、息を大きく吸って一気に言った。
「僕を元の世界へ戻してもらいたいんだ。できたらここへ飛ばされる直前くらいの時間に戻してもらえると有難いな。きっと捜索願いとか出されてると思うし、色々言い訳するのも面倒だからさ…。それからついでに三つ目のお願いも言うね。そこにいるアラクネばあちゃんから魔力を全部奪って普通のおばあちゃんにしてあげて!」
「畏まりました。では同時に叶えます」
「はぁ!?何が“畏まりました”じゃ!そんなことをしようものなら今すぐこのメテオライト・ボムを―――――」
言い終わる前にアラクネの魔力はギャラクシアスに奪われてしまった。
そして陸人の体もこの世界から消えかけていた。
「今度こそ、本当にさよならだね」
最後は振り向かずにさよならしようと思っていたが、結局陸人は三人を振り返ってしまった。
「ったく…。貴重な最後の願い事まで使っちまいやがって…」
シメオンは呆れたように吐息をつき、「元気でな」と付け足した。
「まぁ、助かっただけでもよしとしましょう」
エレミアはにこやかに送り出してくれた。
「そうだな。本音を言えば億万長者になりたかったがな」
オーガストは苦笑混じりにこう続けた。
「伝説の魔法使いの秘宝を全て集めて精霊王まで呼び出したというのに、結局何も得た物がないなんてなぁ…」
「僕はちゃんと、宝物を見つけたよ」
陸人は気恥ずかしそうに言葉を継いだ。
「皆との冒険は、僕にとってはかけがえのない宝物だ」
「うむ…確かにそうだな」
四人は最後に微笑み合った。
そしてその直後、光に包まれながら陸人は消えた。
陸人はアラクネを見据え、語気を強めた。
「実は僕、ここじゃない別の世界から来たんだ。アラクネばあちゃんの妹と同じように、朔の書の【今すぐココをクリック】を触っちゃったせいで。テナとテナ子って、名前も似てるし、年齢も一致するし、巻物がばあちゃんの家の床下から出て来たのが何よりの証拠だ」
陸人の衝撃の告白で、神殿内にはどよめきが起こっている。しかし意外にもアラクネは驚いていなかった。
「ふん…やはりそういうことじゃったか」
「え…?知ってたの?」
「朔の書を駆使できるのはギッフェル一族の血を引く者だけじゃからな。しかしそんなことなどどうでもよいわ」
アラクネは吐き捨てるように呟くと、陸人を押しのけて円卓の方へと歩み寄っていった。
「あ、待って…!」
阻止しようとしたが、間に合わなかった。
「精霊王よ、わしの願いを叶えてくれ!異界に飛ばされてしまった妹を、再びわしの元に返してくれ!」
ところがギャラクシアスは渋い表情を浮かべた。
「申し訳ございませんが、あなたの願いを聞き入れることはできません」
「な…なぜじゃ!」
「あなたには権利がないからです。権利があるのはデルタストーンを魔法陣に置いた者だけなのです」
「なんじゃとぉ!チンケなヒトデの分際で!」
アラクネは激怒し、両手に巨大な光の球を宿して陸人達にくるりと向き直った。
「お前達、わしの願い事をこのヒトデに言え!さもなくばこの“メテオライト・ボム”をぶちかましてくれようぞ!」
「おいおいおい…!なんかヤバそうだぞ、あの技!」
シメオンが数歩後退る。
「ああ、とてつもない魔力を感じる…」
オーガストもすっかりアラクネの貫禄に圧倒されている。
「うーむ…さすがラスボス。これはお手上げだな。言う通りにした方が賢明かもしれない」
「そんなの絶対駄目だよ!ばあちゃんは向こうの世界で幸せに暮らしてるんだから!」
「それなら良い解決方法があるわ」
声を落としてエレミアが提案する。
「精霊王に頼んで、今すぐあのおばあさんを冥土送りにすればいいのよ」
「なるほど、そりゃあ名案だ」
シメオンに続き、オーガストも深々と頷く。
「そうだな、我々の安全のためにもそれが一番良いだろう」
その一方で、陸人だけは反対の声を上げた。
「ちょっとみんな!いくらなんでもそれは酷いよ!一応アラクネばあちゃんは僕の血縁者なんだよ?」
「確かにそうね。それじゃ、できるだけ楽に死なせてあげましょう」
「ちょっ…そういう問題じゃないよっ!」
「ええい、早くせんか!」
アラクネがしびれを切らして陸人達を促す。
「はいはーい!ちょっと待ってくださーい!」
オーガストはアラクネに返事をしてから、声を低くして陸人にこっそり囁いた。
「陸人、先にお前の願い事を叶えてもらえ」
「え…?でも――――」
「心配するな。アラクネのことは俺達がどうにか説得する。まぁ、最悪の場合は精霊王に頼んで冥土送りにしてもらうかもしれんが…」
「ええ?!」
オーガストは陸人が返事をする隙も与えずに、背中を押して精霊王の前へと行かせた。
「二つ目の願い事は決まりましたか?」
「うん…」
陸人は一瞬黙りこみ、少し考え込んでから、息を大きく吸って一気に言った。
「僕を元の世界へ戻してもらいたいんだ。できたらここへ飛ばされる直前くらいの時間に戻してもらえると有難いな。きっと捜索願いとか出されてると思うし、色々言い訳するのも面倒だからさ…。それからついでに三つ目のお願いも言うね。そこにいるアラクネばあちゃんから魔力を全部奪って普通のおばあちゃんにしてあげて!」
「畏まりました。では同時に叶えます」
「はぁ!?何が“畏まりました”じゃ!そんなことをしようものなら今すぐこのメテオライト・ボムを―――――」
言い終わる前にアラクネの魔力はギャラクシアスに奪われてしまった。
そして陸人の体もこの世界から消えかけていた。
「今度こそ、本当にさよならだね」
最後は振り向かずにさよならしようと思っていたが、結局陸人は三人を振り返ってしまった。
「ったく…。貴重な最後の願い事まで使っちまいやがって…」
シメオンは呆れたように吐息をつき、「元気でな」と付け足した。
「まぁ、助かっただけでもよしとしましょう」
エレミアはにこやかに送り出してくれた。
「そうだな。本音を言えば億万長者になりたかったがな」
オーガストは苦笑混じりにこう続けた。
「伝説の魔法使いの秘宝を全て集めて精霊王まで呼び出したというのに、結局何も得た物がないなんてなぁ…」
「僕はちゃんと、宝物を見つけたよ」
陸人は気恥ずかしそうに言葉を継いだ。
「皆との冒険は、僕にとってはかけがえのない宝物だ」
「うむ…確かにそうだな」
四人は最後に微笑み合った。
そしてその直後、光に包まれながら陸人は消えた。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界転生ファミリー
くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?!
辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。
アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。
アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。
長男のナイトはクールで賢い美少年。
ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。
何の不思議もない家族と思われたが……
彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

のほほん異世界暮らし
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。
それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
2回目の人生は異世界で
黒ハット
ファンタジー
増田信也は初めてのデートの待ち合わせ場所に行く途中ペットの子犬を抱いて横断歩道を信号が青で渡っていた時に大型トラックが暴走して来てトラックに跳ね飛ばされて内臓が破裂して即死したはずだが、気が付くとそこは見知らぬ異世界の遺跡の中で、何故かペットの柴犬と異世界に生き返った。2日目の人生は異世界で生きる事になった

ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!
仁徳
ファンタジー
あらすじ
リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。
彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。
ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。
途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。
ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。
彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。
リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。
一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。
そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。
これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!
婚約破棄からの断罪カウンター
F.conoe
ファンタジー
冤罪押しつけられたから、それなら、と実現してあげた悪役令嬢。
理論ではなく力押しのカウンター攻撃
効果は抜群か…?
(すでに違う婚約破棄ものも投稿していますが、はじめてなんとか書き上げた婚約破棄ものです)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる