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第46話 なんで南の島まで飛ばされなきゃなんないんだよ!

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 転送盤でワープしても、環境はさほど変わらなかった。

目の前に広がるのは果てしない砂漠と、灼熱の大気。

唯一異なるのは、巨大な円錐形の建物が聳え立っていることだ。

「あれがウチらの住処すみかっス」

サンディはさっそく建物の入口に向かって歩き始めた。

ちょうどタイミング良く建物の裏から、待ってましたとばかりに老爺ろうやが出てくる。

「おお、サンディ!戻ったか」

「ただいま、じいちゃん。ちゃんと連れてきたッスよ」

「おお、皆様よくぞおいでくださいました。ささ、中へどうぞ」

老爺は扉を開け、やや威圧感のある笑みで陸人達を促した。

「他の家族はすでに別の場所へ避難しておりますので、どうぞ遠慮なく戦ってくださいね。ちなみに建物は十階建てですが、エレベーターが使えませんので階段を使ってください。それじゃ、私とサンディは外で健闘をお祈りしておりますので、退治が終わりましたら教えてください」

「えっ…ちょっと――――」

老爺は陸人達を無理矢理家の中へ押し込み、バタンと扉を閉めた。

「おーいっ!客人に茶菓子の一つも出してくれないのかー!」

オーガストが扉越しに文句を言う。

勿論返事は返ってこなかった。

「おい、茶菓子どころの騒ぎじゃないぞ!」

シメオンの言う通り、玄関ホールで待ち受けていたのは想像も絶するほどの悲惨な光景だった。

床は勿論、壁や天井、窓――――至る所にゴブリンがうごめいている。

「おお…目眩がしてきた。少し外の空気を吸ってくる」

オーガストは早くも離脱しようとしていた。

「おい、何さりげなく逃げようとしてんだよ!」

シメオンが後ろから彼の首根っこを掴む。

「そうだよ!攻撃魔法使えるのおじさんだけなんだからいてもらわなきゃ困るよ!」

陸人も腕を掴み、彼が出て行こうとするのを必死で止めた。

「二人共、止める必要はないわ」

扉の横にしゃがみ込んだまま、エレミアがさらりと告げる。

「すでに外側から鍵を掛けられているから、外へ出ることはできないわ」

「「「なんだって?!」」」

シメオンは扉を蹴って怒声を上げた。

「おい!ふざけんじゃねーぞ、てめーら!」

しかし、いくら怒鳴っても扉は開かなかった。

「やっぱり僕らまた騙されたんじゃないかな…?」

「くそっ…。なんか胡散臭そうなジジイだと思ったら…」

「だけど石は本物だったよ。渡す気があるかどうかはわかんないけど」

「チッ…。こんなことならさっき無理矢理にでも奪っておけばよかったぜ…」

「まったく酷い待遇だ。せめて茶菓子くらいあればやる気もでるんだがな…」

「ねぇ、おじさんの魔法でゴブリンを宇宙まで吹き飛ばしてよ」

「宇宙?!馬鹿を言うな!」

「そうよ。たとえ宇宙でも、不法投棄は立派な犯罪よ」

「いや、エレミア…。そもそも宇宙まで吹き飛ばすとかさすがに無理なんだが…」

「はぁ、やっぱおじさんでも無理か…。なんかこう、ゴブリンを一網打尽にできるゴブリンホイホイとかあればいいのになぁ…」

「ゴブリンホイホイ…?ああ、そうだ!」

何か閃いたかのようにオーガストが拳で手のひらを叩く。

「封印魔法を使えば簡単に片付くではないか!」

「えっ、本当?!そんな良い方法があるなら早くやってよ!」

「ああ、さっそく準備する。エレミア、君も手伝ってくれ」

「オーケー」

オーガストは全員にテキパキと指示を送った。

「取り合えずマトン君、君は玄関ホールのゴブリンを倒して魔方陣を描くためのスペースを作ってくれないか?」

「チッ…。仕方ねぇな」

シメオンは渋々剣を抜き、ゴブリンを退治し始めた。

「で、陸人。君は封印に使う容れ物を探してきてくれ。壺とか花瓶とか適当な物でいい」

「うん、わかった」

 陸人はゴブリンを蹴散らしながらどうにか談話室まで辿り着き、棚から手頃な白銀製の壺を手に入れて、また玄関ホールに戻ってきた。

シメオンの奮闘の甲斐あって、玄関ホールはすっかり綺麗に片付いたようだ。

「おお、戻ったか陸人」

完成した魔方陣から顔を上げ、オーガストが陸人を手招きする。

「それじゃ、容れ物をそこに置いてくれる?」

エレミアが魔方陣の中心を指差す。

陸人は言われた通り壺をそこに置いた。

「じゃあ始めよう」

オーガストとエレミアが呪文を唱え始める。

詠唱が終わると共に魔方陣がカッと光り、壺が勢いよく回転し始めた。

壁や天井に張り付いているゴブリン達が、驚きの吸引力で壺に吸い込まれていく。

その吸引力で上階のゴブリン達も次々と吸いこんでいき、ものの五分で建物内のゴブリンの退治は完了した。

「すごい、あっという間に終わっちゃったね」

「ああ、信じられないほどあっさり終わったな」

「それじゃ、サンディ達に退治が完了したと知らせよう」

オーガストは壺を持ち、早足で玄関の方へ向かった。

「おい、その壺も持っていくのか?」

シメオンが訝しげに眉を寄せる。

「勿論よ」

代わりにエレミアが答えた。

「ここに置いておくわけにはいかないわ。一刻も早くどこか遠い南の島にでも捨ててこないと」

「え?どういうこと、それ?」

「この封印は一時的なものなの」

「ってことは、ある程度時間が経ったらまたゴブリンが出てきちゃうってこと?永遠に封印することはできないの?」

オーガストはエレミアと視線を通わせ、苦笑いした。

「完璧に封印するには相当な魔力が必要になるんだ。例えるなら、ベテラン魔法使い百人分くらいの魔力だ。俺達二人じゃこれくらいが精一杯なんだよ」

「ったく、そんなことだろうと思ったぜ…」

シメオンは呆れてため息をついた。

「で、封印はどのくらい持つんだ?」

壺をいったん床に置き、オーガストが指を一本立てる。

「一週間か?」

「うーん…」

「なんだよ、一日しか持たないのかよ?」

「いいや、一時間だ」

「は?!一時間?!早く言えよ、それを!」

シメオンは玄関扉をドンドン叩き、外にいるであろう老爺とサンディに大声で呼び掛けた。

「おい、退治が終わったぞ!さっさとここ開けろ!」

ガチャリと鍵穴の回る音が響き、扉の向こうから老爺とサンディがおずおずと顔を覗かせる。

すっかり綺麗に片付いた室内を見て、二人は感嘆の声を上げた。

「おお、本当にありがとうございます!このご恩は決して忘れません!」

「礼はいいからさっさと例のものよこせよ」

シメオンが右手を出してサンディを促す。

「あ、了解ッス。だけど一つだけ約束してほしいッス」

手渡す前に、サンディは深刻な表情で訴えた。

「石を瓶から取り出すのは、ウチらの家を離れてからにしてほしいッス。今転送盤で皆さんをどこか遠い南の島へ送りますから――――」

「おいおいおい!なんで南の島まで飛ばされなきゃなんないんだよ!」

「じゃあ北の極寒地が良いッスか?」

「そういう問題じゃねーよ!石を瓶から取り出したらどんなヤバいことが起こるんだよ?」

「ヤ…ヤバいことなんて起こんないッスよ?取り合えず約束してくれないと石は渡せないッス」

「チッ…。何か怪しいけど仕方ねぇな。わかったよ」

「あざーッス!」

何はともあれ彼らはようやく全ての石を手に入れた。

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