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第27話 僕の服ポリエステル100%なんですけど?!
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「あの吹き溜まりのおばさん、一体なんでオーガストなんか攫って行ったんだろう?」
雪の上に残ったそりの跡を睨み付けながら陸人は言った。
「河童の肉なんてスープの出汁にもならないよね?」
「そうね…」
エレミアがシメオンを横目で見やる。
「食用に向いてるのはどちらかと言えば彼の方だし…」
彼女は言葉を切り、「でも…」と思い出したように付け足した。
「古代から河童の肉は不老不死の妙薬になると言い伝えられているのよ」
「ええ?!本当?!」
「なわけねーだろ!」
すかさずシメオンが突っ込んできた。
「不老不死の妙薬は河童じゃなくて人魚の肉だろ。いや…そんな話はどうでもいい」
彼は急に真面目な表情になり、声のトーンを落として陸人に問いかけた。
「お前、あの女王の頭を見たか?」
「頭…?うん、見たよ。マリー・アントワネットも顔負けの、すごく気合いの入った髪型だったよ。ね、エレミア?」
「そうね。まるでケリュケイオンの杖―――いえ、食品サンプルの“持ち上げナポリタン”みたいだったわ」
「髪型の話じゃねーよ!頭にジャラジャラつけてた宝石の話だ!」
シメオンは再び声をひそめ、
「あの中に…あったんだよ、石が」
「え?デルタストーンが?!」
「馬鹿っ!声がでかいんだよ!」
「私のことならお構いなく。あなた達の事情はだいたい把握してるわ」
「は?なんだと?」
「ごめん、シメオン。さっき吹雪の中を歩いてる時、喋り続けなきゃ意識が飛んじゃうと思って、ずっとエレミアと話してたんだ」
「で…いつの間にか話さなくていいことまで話しちまってたのか?」
「うん…」
また怒鳴られると思い、陸人は慌てて耳を塞いだが、シメオンはただため息をついただけだった。
「あれ?いつもみたいに怒らないの?」
「そんなことより、今のこの状況の方が深刻だ。このまま檻から出られなかったら、俺達完全に凍死だぞ」
「そうだね…。何か方法を考えないと」
陸人は巻物を取り出し、久々にジャン・ダッシュとコンタクトを取った。
――――檻を壊したいんだけど、スコップとか斧とかに変形できないかな?
『できないこともないが、試すだけ無駄だぞ』
――――どういうこと?
『この檻はただの氷の塊ではない。魔力で作られた特別なものだ。物理的な打撃で壊すのは不可能だろう』
――――じゃあ、魔法攻撃ならいいんだね。一撃必殺剣は?
『確かにサーティーカリバーは魔剣だが、残念ながらあれは無生物には効かないのだ』
――――は?!じゃあ打つ手なしじゃん!
『まぁ、落ち着け。難しそうに見えるものほど、意外と単純に解決できるものだ。まずは檻をよく観察してみろ』
言われた通り、陸人は檻の周りをあらゆる方向からじっくりと観察していった。
その傍ら、シメオンは檻を壊そうと何度も氷の格子に頭突きしていた。
勿論、ヒビ一つ入ることはなかった。
「シメオン、ちょっとそこどいて。調べるから」
「待て…。もう少しで壊せそうなんだ…」
「気のせいだよ。物理的な攻撃じゃ無理なんだって。さっきジャン・ダッシュが言ってた」
「は?早く言えよ!」
陸人はシメオンと入れ替わるようにして格子の前に立ち、端の方から目を走らせた。
「あれ…」
足元の一部だけ、格子ではなく板状の氷が取り付けられている。
不思議に思い、顔を近づけて隙間から板の裏側を覗いてみると、さっそく大発見があった。
閂だ。とたんに喜びが込み上げてきた。
――――これをどうにか外せば…外に出られる…!
陸人は格子の隙間から手を入れ、外側の閂に指を伸ばした。
ところが隙間が狭く、途中で腕が閊えて指が閂まで届かない。
「くそ~!せっかく出られると思ったのに…」
挙句の果てに格子に腕が挟まり、抜けなくなってシメオン達に助けを求めるはめになった。
「ったく…何やってんだよお前は」
「だって、イケそうな気がしたんだもん」
ようやく抜けた腕をさすりながら、陸人はふと思いついてエレミアに聞いてみた。
「ねぇ、エレミアの魔法でこの檻壊せないの?炎とか雷とか、なんでもいいからさ」
「ごめんなさい。私、攻撃系の魔法はからっきしなの」
「だよね…。使えるならとっくに使ってるよね…」
「こうなったら、最後の手段を使うしかないわね」
「最後の手段?」
エレミアは首から十字架を外し、ニヤリと笑った。
「この十字架に貯まった“呪力”を活用して灰燼の呪いを発動させれば、檻を壊せると思うわ」
「本当?!そんな良い方法あるなら早く言ってくれればよかったのに…」
「じゃあ、始めるわね」
「いや、ちょっと待て」
シメオンはエレミアの前に立ちはだかり、鋭い視線を向けた。
「その灰燼の呪いとやらは、一体どんな技なんだ?」
「半径5メートル以内の物全てを灰と化させる呪いよ」
「なるほど、半径5メートル以内の物を全て――――って、それじゃ俺達もその呪いの餌食じゃねーか!」
「それに君自身もだよ、エレミア!」
「私は天馬の毛100%でできた呪い除けの衣服を着ているから大丈夫よ」
「なにそれ、ずるいよ!僕の服ポリエステル100%なんですけど?!」
「俺なんてウール100%だぞ!」
「あら、それはお気の毒ね」
エレミアはにこやかにそう言って、十字架を高く掲げた。
「おいっ、何してんだクソ女!俺達まで燃えカスにするつもりか!」
「大丈夫よ。痛みも苦しみもなく、一瞬で終わるから」
「やだよ!死にたくない!」
陸人はどうにか十字架を奪おうと手を伸ばした。が、ヒラリとかわされ、バリアを張られてしまった。
「酷いよ、エレミア!石化の呪いを解いてくれたときは天使だと思ったのに、今の君はまるで悪魔だ!」
「もうすぐ本物の天使と会えるわよ」
「くそ…。こうなったら―――」
陸人は最後の頼みの綱、ジャン・ダッシュに助けを求めた。
――――ジャン・ダッシュ!なんとかしてよ!
『ここは美しい雪原だな』
――――感慨に浸ってる場合じゃないだろ!
『そう焦るな。このような雪原でしか発動できないとっておきの技がある。その名も“超絶必殺剣【無穢の雪蕾】”だ』
――――その無駄にカッコいい技名からして、また呪いをかける魔法剣なの?
『然り。お前にしては勘がいいではないか』
――――呪いはダメだよ!エレミアは呪い除けの服を着てるんだ。天馬だか海馬だかの毛で作られた特別なものらしいよ。
『天馬の毛が寄せ付けないのは近代魔法による呪いだけだ。対して私の呪いは古代魔法によるものだから、関係ない』
――――そっか…それならよかった。じゃ、そのムエタイなんとかって技を発動してよ。
『御意』
巻物が光り、剣へと変形していく。
その透明な剣身は細い筒状で、中には色とりどりのキャンディが詰まっており、本来鍔があるべき場所には白い両翼が付いている。
陸人はまるで女児用のおもちゃのようなそれを右手に握りしめ、刃のないその剣先を真っすぐエレミアに向けた。
「君の思い通りにはさせないぞ!“きらきら・ぴゅあぴゅあ真っ白ハート!ミルキー・トゥインクル!”――――あれ…?僕何言ってんだろ…?」
次の瞬間、剣先からキャンディが次々と飛び出してきた。キャンディは空中で弾け、辺りはダイアモンドのような煌めきに包まれる――――
雪の上に残ったそりの跡を睨み付けながら陸人は言った。
「河童の肉なんてスープの出汁にもならないよね?」
「そうね…」
エレミアがシメオンを横目で見やる。
「食用に向いてるのはどちらかと言えば彼の方だし…」
彼女は言葉を切り、「でも…」と思い出したように付け足した。
「古代から河童の肉は不老不死の妙薬になると言い伝えられているのよ」
「ええ?!本当?!」
「なわけねーだろ!」
すかさずシメオンが突っ込んできた。
「不老不死の妙薬は河童じゃなくて人魚の肉だろ。いや…そんな話はどうでもいい」
彼は急に真面目な表情になり、声のトーンを落として陸人に問いかけた。
「お前、あの女王の頭を見たか?」
「頭…?うん、見たよ。マリー・アントワネットも顔負けの、すごく気合いの入った髪型だったよ。ね、エレミア?」
「そうね。まるでケリュケイオンの杖―――いえ、食品サンプルの“持ち上げナポリタン”みたいだったわ」
「髪型の話じゃねーよ!頭にジャラジャラつけてた宝石の話だ!」
シメオンは再び声をひそめ、
「あの中に…あったんだよ、石が」
「え?デルタストーンが?!」
「馬鹿っ!声がでかいんだよ!」
「私のことならお構いなく。あなた達の事情はだいたい把握してるわ」
「は?なんだと?」
「ごめん、シメオン。さっき吹雪の中を歩いてる時、喋り続けなきゃ意識が飛んじゃうと思って、ずっとエレミアと話してたんだ」
「で…いつの間にか話さなくていいことまで話しちまってたのか?」
「うん…」
また怒鳴られると思い、陸人は慌てて耳を塞いだが、シメオンはただため息をついただけだった。
「あれ?いつもみたいに怒らないの?」
「そんなことより、今のこの状況の方が深刻だ。このまま檻から出られなかったら、俺達完全に凍死だぞ」
「そうだね…。何か方法を考えないと」
陸人は巻物を取り出し、久々にジャン・ダッシュとコンタクトを取った。
――――檻を壊したいんだけど、スコップとか斧とかに変形できないかな?
『できないこともないが、試すだけ無駄だぞ』
――――どういうこと?
『この檻はただの氷の塊ではない。魔力で作られた特別なものだ。物理的な打撃で壊すのは不可能だろう』
――――じゃあ、魔法攻撃ならいいんだね。一撃必殺剣は?
『確かにサーティーカリバーは魔剣だが、残念ながらあれは無生物には効かないのだ』
――――は?!じゃあ打つ手なしじゃん!
『まぁ、落ち着け。難しそうに見えるものほど、意外と単純に解決できるものだ。まずは檻をよく観察してみろ』
言われた通り、陸人は檻の周りをあらゆる方向からじっくりと観察していった。
その傍ら、シメオンは檻を壊そうと何度も氷の格子に頭突きしていた。
勿論、ヒビ一つ入ることはなかった。
「シメオン、ちょっとそこどいて。調べるから」
「待て…。もう少しで壊せそうなんだ…」
「気のせいだよ。物理的な攻撃じゃ無理なんだって。さっきジャン・ダッシュが言ってた」
「は?早く言えよ!」
陸人はシメオンと入れ替わるようにして格子の前に立ち、端の方から目を走らせた。
「あれ…」
足元の一部だけ、格子ではなく板状の氷が取り付けられている。
不思議に思い、顔を近づけて隙間から板の裏側を覗いてみると、さっそく大発見があった。
閂だ。とたんに喜びが込み上げてきた。
――――これをどうにか外せば…外に出られる…!
陸人は格子の隙間から手を入れ、外側の閂に指を伸ばした。
ところが隙間が狭く、途中で腕が閊えて指が閂まで届かない。
「くそ~!せっかく出られると思ったのに…」
挙句の果てに格子に腕が挟まり、抜けなくなってシメオン達に助けを求めるはめになった。
「ったく…何やってんだよお前は」
「だって、イケそうな気がしたんだもん」
ようやく抜けた腕をさすりながら、陸人はふと思いついてエレミアに聞いてみた。
「ねぇ、エレミアの魔法でこの檻壊せないの?炎とか雷とか、なんでもいいからさ」
「ごめんなさい。私、攻撃系の魔法はからっきしなの」
「だよね…。使えるならとっくに使ってるよね…」
「こうなったら、最後の手段を使うしかないわね」
「最後の手段?」
エレミアは首から十字架を外し、ニヤリと笑った。
「この十字架に貯まった“呪力”を活用して灰燼の呪いを発動させれば、檻を壊せると思うわ」
「本当?!そんな良い方法あるなら早く言ってくれればよかったのに…」
「じゃあ、始めるわね」
「いや、ちょっと待て」
シメオンはエレミアの前に立ちはだかり、鋭い視線を向けた。
「その灰燼の呪いとやらは、一体どんな技なんだ?」
「半径5メートル以内の物全てを灰と化させる呪いよ」
「なるほど、半径5メートル以内の物を全て――――って、それじゃ俺達もその呪いの餌食じゃねーか!」
「それに君自身もだよ、エレミア!」
「私は天馬の毛100%でできた呪い除けの衣服を着ているから大丈夫よ」
「なにそれ、ずるいよ!僕の服ポリエステル100%なんですけど?!」
「俺なんてウール100%だぞ!」
「あら、それはお気の毒ね」
エレミアはにこやかにそう言って、十字架を高く掲げた。
「おいっ、何してんだクソ女!俺達まで燃えカスにするつもりか!」
「大丈夫よ。痛みも苦しみもなく、一瞬で終わるから」
「やだよ!死にたくない!」
陸人はどうにか十字架を奪おうと手を伸ばした。が、ヒラリとかわされ、バリアを張られてしまった。
「酷いよ、エレミア!石化の呪いを解いてくれたときは天使だと思ったのに、今の君はまるで悪魔だ!」
「もうすぐ本物の天使と会えるわよ」
「くそ…。こうなったら―――」
陸人は最後の頼みの綱、ジャン・ダッシュに助けを求めた。
――――ジャン・ダッシュ!なんとかしてよ!
『ここは美しい雪原だな』
――――感慨に浸ってる場合じゃないだろ!
『そう焦るな。このような雪原でしか発動できないとっておきの技がある。その名も“超絶必殺剣【無穢の雪蕾】”だ』
――――その無駄にカッコいい技名からして、また呪いをかける魔法剣なの?
『然り。お前にしては勘がいいではないか』
――――呪いはダメだよ!エレミアは呪い除けの服を着てるんだ。天馬だか海馬だかの毛で作られた特別なものらしいよ。
『天馬の毛が寄せ付けないのは近代魔法による呪いだけだ。対して私の呪いは古代魔法によるものだから、関係ない』
――――そっか…それならよかった。じゃ、そのムエタイなんとかって技を発動してよ。
『御意』
巻物が光り、剣へと変形していく。
その透明な剣身は細い筒状で、中には色とりどりのキャンディが詰まっており、本来鍔があるべき場所には白い両翼が付いている。
陸人はまるで女児用のおもちゃのようなそれを右手に握りしめ、刃のないその剣先を真っすぐエレミアに向けた。
「君の思い通りにはさせないぞ!“きらきら・ぴゅあぴゅあ真っ白ハート!ミルキー・トゥインクル!”――――あれ…?僕何言ってんだろ…?」
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