幼馴染みは鬼畜変態男子

obbligato

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#04 アイツにあんまり近付くなよ

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 その夜。私はどうにもムラムラする気持ちを抑えきれず、ベッドの中で自分のカラダを慰めた。

 橘くんに大事な部分を弄ばれた時の事を思い出しながら……。

「はぁ……はぁ……」

 


 翌朝。ぼうっとした思考のまま、私はいつものようにバスに乗って登校した。

 昨夜、全身汗だくになりながら自慰に励んだせいか、寝ても怠さと疲れが取れなかった。

 今日は朝から雨が降っており、バスはいつもより混んでいたが、私は始発のバス停から乗るので、幸い座る席がなくて困ることはない。

 バスの適度な揺れが妙に心地よく、睡魔がじわじわと襲ってくる。

 気付けば私は舟を漕ぎ、体が傾いた拍子に傍に立っていた男子生徒に寄りかかってしまった。

「あっ…すみません」

 慌てて体を起こし、体勢を整える。

 男子生徒と目が合った瞬間、眠気はどこかへ吹き飛んでいった。

 生来の目付きの悪さにピアスと茶髪が加算され、ヤンキーのお手本みたいな外見になってしまったが、それは見紛うことなく氷室くんだった。

 普段は自転車通学をしてるみたいだけど、今日は雨だからバスに乗ったのだろう。

 小学校の時のことを思い出したのか、彼は決まり悪そうに視線を背けた。

 別の場所へ移動しようにも、車内が混雑しているので無理そうだ。

 氷室くん…接近禁止令のこと、まだ気にしてるのかな。

 それとも、私のせいで問題児のレッテルを貼られたから、恨んでる…?

「あのさ」

 思いがけず彼が声を掛けてきた。

 口調は高圧的だが、表情はどことなくぎこちない。

「俺……ずっと謝りたかったんだ」

「え…?」

「小学生の時のこと。あの時は…ごめん。ちゃんと謝ろうって思ってたんだけど、なんかきっかけ逃しちゃってさ……」

 言葉は尻すぼみにフェードアウトしていった。 

「ううん。全然気にしてないから」

 私は精一杯の笑顔で返答した。

 乱暴者の氷室くんがそんなことを考えていたなんて全然知らなかった。

 ただ短気で不器用なだけで、根は優しい男の子なんだ。

 こうしてまた話すことができて嬉しい反面、彼が普通ノーマルであるとわかって私は少しがっかりした。

 不良とケンカはしても、女子に暴力をふるうようなことはもうしないだろう。

「なぁ。花宮の連絡先、聞いてもいい?」

「え?」

「あ…無理だったら別にいいけど」

「ううん。大丈夫」

 私はカバンからスマホを取り出した。

 男子の連絡先登録するの、何気に初めてかも。

 連絡先聞いてくるってことは、少しは私に興味を示してくれてるってことなのかな。

 もしくは、悪い仲間に女を紹介しろって強要されてる?

 そのうちその連中のところへ連れていかれて、集団レイプとかされたり――――

 ――――ああ……。

 想像しただけで、背筋にゾクリと心地よい痺れが突き上げた。

 どうしよう…。私、どうなっちゃうの?

 もしかしたらとんでもなく酷い目に遭わされるかもしれない――――そんな状況に自分を追い込みたいと思う私は、本当にどうかしてる…。

 バスを降りた後、私は氷室くんと一緒に学校までの通学路を歩いた。

 隣りに立つと、彼の体格の良さがよくわかる。

 身長は軽く180は越えてそう。運動部にも所属していないのに、引き締まったいい体をしている。

 手も足も大きい。

 ってことは、やっぱりアレも大きいのかな…。

 学校へ到着し、氷室くんとは下駄箱の前で別れた。

 上靴を履き、二年二組の教室へと向かう。

 が、階段の手前で、思いがけず呼び止められた。

「おはよ」

 爽やかでありながらも、どこか湿ったような声音。

 振り返ると、橘くんが立っていた。

「ちょっと今話せる?」

 有無を言わさぬ口調で命じられ、人気ひとけのない廊下の隅へと連れていかれる。

「今日の放課後、旧校舎の前で待ってて」

「旧校舎?どうして?」

「昨日の続きやるために決まってるじゃん。美術室だと落ち着けないし」
 
「でも……旧校舎は鍵が掛かってるし、生徒は自由に出入りできないんじゃ――――」

「問題ないよ」

 ニヤリと笑って、橘くんはポケットから出した鍵を私に見せる。

「鍵を盗んだの?」

「違うよ。これは合鍵」

「合鍵?どうやってそんなものを?」

「実は弱みを握ってる先生がいてさ…。頼んで合鍵作らせてもらったんだ」

 弱みを握られているのは、私だけじゃないんだ。

 その先生って誰なんだろう。女の先生だったりするのかな…。

「花宮。聞いてる?」

「え…?あ…うん。わかった…」

 私は鞄を肩に掛け直し、彼に背を向けて歩き出した。

「必ず来てよ」

 念を押すように彼は言った。そしてさらに一言――――

「氷室にあんまり近付くなよ」

 思わず心臓が飛び上がった。

「ど…どうしていきなりそんなこと──」

「さっき君らが一緒に登校してくるとこ、教室の窓から見えたから」

「で、でも…私達、傘差してたし、三階からは姿なんて確認できないはずじゃ…」

「花宮の傘が紺地の花柄なのは知ってるし、氷室はビニール傘だったから普通にわかったよ」

 心なしか、口調が冷たいような気がする。

「一緒に登校する約束でもしてたの?」

「別にそういうんじゃないよ。偶々バスで居合わせたから……」

「ふーん。そう…」

 “近付くな”という言葉の真意は何?

 ただの嫉妬?それとも氷室くんが危ない人だから?

 だけど、“あんまり近付くな”という中途半端な物言いがどうも引っかかる。

――――あ、そうか…。

 橘くんは彼に対して嫉妬も警戒心も抱いてない。

 ただ単に、私を監視しているというアピールをしたいだけなのだ。
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