乙女ゲーのモブに転生した俺、なぜかヒロインの攻略対象になってしまう。えっ? 俺はモブだよ?

水間ノボル🐳

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第1章

シドさんは好きな子いるのかな? アリシア視点

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【アリシア視点】

「あと少しでボスですね……っ!」

 コクリと、シドさんがうなずく。
 あたしたちはダンジョンのボスフロアの近くまで来た。
 雑魚モンスターのゴブリン・ゾンビを狩りながら、少しずつレベルを上げる。
 それで魔力を上げて、結界魔法の持続時間を伸ばした。
 でもそんなことより、あたしが気になるのは――

 (あたしの胸を見てくれたかしら……?)

 上手く手をつないで、上手くコケたつもりだ。
 ……いや、ちょっとわざとらしかったかもしれない。

 (ファルネーゼ様には、絶対に負けないんだから……っ!)

 ファルネーゼ様は、シドさんに興味を持っている。
 100%間違いない。
 シドさんを嫌っているように見せながら、実はシドさんのことを――
 これは乙女の勘だ。
 たぶんファルネーゼ様は、自分に立ち向かってくるシドさんに、特別な感情を抱いた。
 だからシドさんを、自分の物にしたいのだ。

 (シドさんは……あたしが手に入れる)

 あたしがファルネーゼ様に勝っているところは、「ここ」だ。
 自分の胸をあたしは触る。
 ここは絶対に勝っている自信がある。
 これは乙女の戦いだ。
 もっと胸をシドさんに近づけないといけない。
 それと……もっともっとシドさんにあたしをアピールしないと!
 あと、賭けにシドさんが勝ったら、ファルネーゼ様には「土下座」してもらおう。
 そのために、ファルネーゼ様の外堀をどんどん埋めなきゃいけない。

 (絶対に逃がさないわ……っ!)

 ファルネーゼ様が誓約を破れないようにするためには……
 誓約の代償をとても大きくすればいい。
 たしかにシドさんの言う通り、誓約は破ることができる。
 でもその時は、代償を支払わないといけない。
 そして代償は、こちら(シド)が設定できる。
 ファルネーゼ様に課す代償を、あたしはコッソリいじっておいた。
 絶対に失うわけにはいかないものを、代償にしておいた。

 それは――爵位だ。
 ファルネーゼ様にとって一番大事なものは、「公爵令嬢」という地位。
 シドさんは100万ゴールドを代償にしていたけど、ファルネーゼ様は爵位を大切にしている。
 今まで侯爵令嬢の地位を振りかざして、人をいじめてきた。
 だが、侯爵令嬢の地位を失えば、取り巻きの人たちも離れていくだろう。

 (絶対に裸で踊ってもらうんだから……っ!)

 何があっても、シドさんをファルネーゼ様に勝たせる。
 そして、恋もあたしが勝つんだ……っ!

 (シドさんは今、好きな女の子いるのかな……?)

 すごく聞きたいけど、怖くて聞けない……
 もしもシドさんに他に好きな子がいたとしても、あたしは大丈夫。
 すごく、すごく辛いけど……
 あたしは二番目でも構わない。
 シドさんだけが、あたしを助けてくれた。
 だからあたしはシドをずっと側で守り続けたい――

 ★

【シド視点】

「あれがアンデッド・キング……っ!」

 一言で言うと、でかいゾンビだ。
 背中に大きな剣をしょっている。
 ボスフロアに足を踏み入れた俺たち(シド、アリシア)は、アンデッド・キングの様子を伺っていた。
 アンデッド・キングは、まだ俺たちの存在に気づいていなかった。
 後ろの台座に、【聖なる杖】が見える。

「よし。ふいをつけるぞ」
「はい! やってしまいましょう!」

 やけにやる気満々のアリシア。
 負けそうな戦いのはずなのに、アリシアがいると勝てる気がしてきた。

「ふふふ……愚かな人間よ。我はもう気づいているぞ」

 ドンっ! 
 アンデッド・キングは飛び上がって、俺たちの目の前に来た。

「きゃあああああっ! シドさん助けて……っ!」

 アリシアが俺に抱き着く。
 ふにょん!

 (背中に柔らかいものが……!)

 ていうかアンデッド・キングってしゃべるんだな。
 ゲームだと特に会話なく、戦闘が開始したから、アンデッド・キングがしゃべって少しびっくりだ。

「むむ……貴様ら、レベルが低すぎるぞ。我と戦うには雑魚すぎるのではないか?」

 うん。ずばり正解だ。
 シナリオ後半のダンジョンだから。
 低レベルクリアとか縛りプレイでもしない限り、俺たちのレベルじゃ来ない。

 (しかも乙女ゲーで縛りプレイなんて誰もしないし……)

 だがこのゲーム、乙女ゲ―でありながら、戦闘システムはかなり本格的だ。
 きちんとレベルを上げて、装備を整えないとボスを倒せないようになっている。
 だからアンデッド・キングさんが驚くのは、ゲーム的に正しい態度だ。

「ふっふっふ! 我の養分となれい……!」

 アンデッド・キングはいかにも悪役っぽく笑って、でかい剣を振り上げる。

「死ねっ! 死狼剣……!」

 でかい剣を振り下ろす――
 死狼剣は、アンデッド・キングの必殺技。
 今の俺たちが喰らえば即死だ。

 だがしかし。

「ぐ……がはァ!!」

 アンデッド・キングの足が崩れる。

「な……なんだ?! いったい何が起こって……?」

 動揺するアンデッド・キング。
 顔はゾンビだから表情はわからないが。

「やりましたね! シドさん!」

 アリシアがすげえ喜ぶ。

「ああ。引かってくれてよかった」
「貴様ら……何をした?」

 さっきのアリシアの悲鳴は演技。
 隙をついて、足元に聖水を撒いておいた。
 聖水がアンデッド・キングの足を溶かしたのだ。

 あとは、少し離れたところから――

「聖水を投げまくる!」
「ぎゃああああああああああああ!!」

 (ヤバい……ちょっと楽しいんだが)

 無抵抗のアンデッド・キングに、聖水をぶつけまくる俺たち。
 これじゃ、どっちが悪役かわからないな……

「があああああァ……」

 アンデッド・キングは倒れた。

【レベルアップしました!】
【レベルアップしました!】
【レベルアップしました!】

 鳴りやまない、レベルアップ音。

 (すげえ気持ちいい……!)

「やった! すごくレベルが上がりますね……っ!」

 またアリシアが俺に抱き着く。
 ふにょん! ふにょん!
 さっきよりも強く、アリシアの胸が俺に当たりまくる……!

 (やっぱりアリシアの胸はでかいな)

 俺はアリシアの胸の豊かさを実感するのだった。

「かなりレベルアップできたな」

 まだ序盤でスライムを倒しているような段階なのに、後半のダンジョンボスを倒した。
 あり得ない量の経験値が入ったから、だいぶ強くなった。

「よし。あとは聖なる杖をゲットしようか」
「はい!」

 俺たちは聖なる杖のある台座に近づく。
 聖なる杖は主人公専用アイテムだ。
 装備すれば、味方全員の魔力を大幅に強化できる。

「これでクロード王子をボッコボコにできますね……!」



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