乙女ゲーのモブに転生した俺、なぜかヒロインの攻略対象になってしまう。えっ? 俺はモブだよ?

水間ノボル🐳

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第1章

これでグランディを虐殺できるわ ファルネーゼ視点

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【ファルネーゼ視点】

「で……グランディたちの動きは?」

 あたしは寮の部屋で、獣人奴隷の報告を聞く。
 アリシアとグランディの部屋に、盗聴魔法を仕掛けた。
 あたしが負けるなんて100%あり得ないけど、念のため保険をかけておいたのだ。

「どうやらこの学院の地下にあるダンジョンに潜るそうです」
「えっ? この学院の地下にダンジョンが……?」

 学院の地下にダンジョンがあるなんて驚きだ。

 (どうしてグランディがそんなこと知っているのかしら……)

 すごく気になるところだけど――グランディには確信があるみたいだ。

「ダンジョンのボスは、アンデッド・キングです。そしてアンデッド・キングを倒すために聖水が大量に必要なようです」
「潜ったことのないダンジョンのボスを知っている……?」

 ますます、グランディがわからない。
 いったいどこでその情報を知ったのか……
 そう。まるで最初から全部知っているみたいに。

「……まあいいわ。とにかくグランディのやることは邪魔してやるんだから。あいつに監視をつけて、王都中の聖水を買い占めなさい」
「かしこまりました。お嬢様……」

 獣人奴隷は姿を消した。
 お父様が買ってくれた優秀な獣人奴隷。
 本当の名前は忘れたけど、あたしはテキトーに「ティム」と呼んでいる。
 黒い犬耳と、鋭い黄色の目――
 あたしが命令すれば、人だって躊躇なく殺す。

「ふう。あとはグランディがダンジョンに潜る現場を押さえて、獣人奴隷に襲わせればいい……」

 獣人奴隷によれば、学院の中央講堂にある、聖女像の下にダンジョンの入口があるらしい。

 (罠でも仕掛けようかしら……)

 召喚魔法のトラップがいいかもしれない。
 グランディがダンジョンの入口にやってきたら、Aランクモンスターが召喚される。

「これでグランディを虐殺できるわ……」

 グランディは追い詰められて、わたしに許しを請うことになる。
 それであたしの足を犬のように丁寧に舐めさせて、あたしの奴隷にするのだ。

「グランディ……待ってなさい。あたしの犬にしてやるわ……っ!」
 
 ★

【シド視点】

「……ありがとう。ハルク。これは謝礼だ」

 ここは学院近くの森――
 俺はティム――本当の名前は「ハルク」に銀貨を渡す。

「グランディ様……わたしを本当の名で呼んでくれるのはあなただけです」
「ああ。人間にとって、名前は大事だからな」

 獣人は奴隷に堕とされる時に、名前を奪われる。
 ティムの場合は、「ハルク」という本当の名前を奪われていた。

「……本当にいいのか? ファルネーゼを裏切っても?」
「ええ。あんなゴミクズクソ女――失礼。あんな横暴な主人に仕えることはできません」
「そうか……。協力に感謝するよ」

 ハルクには、ファルネーゼに「偽情報」を流してもらった。
 実はダンジョンは、学院の地下にはない。
 学院の近くにある、黒き森【ブラック・フォレスト】にある。
 つまり、ファルネーゼのトラップは空振りということだ。

「わたしはグランディ様に、忠誠を誓います」

 ハルクは俺に深々と頭を下げて、臣下の礼をとる。

「ありがとう。今後も頼むよ」
「はっ! ではまた!」

 ハルクは姿を消した……
 ハルクはファルネーゼの獣人奴隷で、ファルネーゼにボロ雑巾のごとくこき使われる。
 実は原作の設定では、ハルクは誇り高い獣人族の貴族だった。
 だが人間族との戦争に負けて、奴隷の身分に堕ちる。
 だから自分たち獣人族を奴隷にした、人間族の貴族を恨んでいた。

「すごいです……よくハルクさんを味方にできましたね……」

 隠れていたアリシアが姿を現した。

「名前を取り戻してやったからな」

 ハルクはファルネーゼに忘却魔法をかけられて、本当の名前を奪われていた。
 獣人族にとって、名前は神から与えられるものだとされる。
 一番、大切にしているものだ。
 本当の名前を記憶から消し去る――つまりファルネーゼは、ハルクから一番大切なものを奪っていたのだ。
 だから俺は、ハルクの一番大切なものを取り戻してあげた。
 ファルネーゼの近くにいる、ハルクを味方につけるために……

 (ただ本当の名前を教えただけなのだが)

「でも……どうしてシドさんは、ハルクさんの名前を知っていたのです?」

 もちろん原作をプレイしていからだ。
 だが……さすがに本当のことは言えない。

 (どうやって誤魔化そうか……?)

「剣を見たんだ」
「剣ですか……?」

 ハルクは腰に剣をつけていた。

「うん。剣の鞘に獣人語で【ハルク】って書いてあったから……たぶん本当の名前はハルクじゃないかって。ハルクは獣人族っぽい名前だし」
「シドさんはすごすぎます……そんな小さなことも見逃さないなんて! 観察が鋭すぎます……っ!」
「ははは……」

 ハルクには魔法で名前を見抜いていたと言って納得してもらった。
 一応、原作には透視をする魔法――イルパスがある。
 それで名前を見抜いたということにしておいた。
 もちろん、原作には名前を見抜く効果はないが……

 (かなり怪しまれたけど、とにかく味方にできてよかった)

「ファルネーゼ様は聖水を買い占めるみたいですね。どうしましょう……? あたしたちの作戦には聖水は必須なのに――」

 アリシアは不安げな表情をする。

「それは大丈夫だ」
「えっ……?」

 アリシアが目を丸くする。

「ちゃんと策があるからな――あれだ」

 俺は木の陰に空いてあった箱――リサイクルボックスを指さした。
 緑色の大きな箱だ。

「これは、リサイクルボックスですよね。2つの魔道具を融合させて、新しい魔道具を作り出す……あっ! まさかこれで?」
「そうだ。リサイクルボックスを使って、聖水を作り出す」

 ファルネーゼが聖水を買い占めるのなら、俺たちは聖水を作ればいい。

「でも……聖水を作り出す組み合わせがわかりません」
「大丈夫だ。俺が知っている」
「えっ……! シドさん。それも知ってるんですか……っ!」
「ああ。子どもの頃によくリサイクルボックスで遊んでたから……」

 アリシアに言ったことは、もちろん嘘だ。
 原作では魔道具の組合せは、ノーヒントだ。
 ネットでググらない限り、正しい組合せはわからない。
 俺は最速クリアをするために、聖水を大量にリサイクルボックスで作っていたから、組み合わせは覚えている。
 聖水には自分より弱いモンスターとエンカウントしない効果があるから、乙女ゲーをさっさと終わらせたかった俺には、必要なアイテムだった。

「で、聖水を作り出す組み合わせは……?」
「ポーションと、毒消し草だ」

 どちらもこのゲームのショップで、安く多量に手に入る。

「ここで聖水を作って……あっ! シドさん。学院の聖女像の下に、反魔法を仕掛けませんか?」
「なるほど……それもありだな」

 反魔法は、魔法を跳ね返す魔法のことだ。
 要するに、魔法版の「パリィ」みたいなもの。
 ファルネーゼが強力な魔法トラップを仕掛ければ、魔法トラップの威力を2倍にして反射することができる。

「ファルネーゼ様がAランクのモンスターを召喚するなら、反魔法を使えば……」
「Sランクのモンスターが召喚されることになる……か」

 いくら魔力の強いファルネーゼでも、Sランクモンスターが出現したら対処できない。

「Sランクモンスターが突然現れたら、学院は大混乱です。王国騎士団が出動する事態になるでしょう。で、その責任は――ファルネーゼ様にあることになります。もしそうなれば、ハンシュタイン侯爵家は……」

 アリシアはニコニコしながら言う。

「すげえヤバいことになるな……。間違いなく」

 (うん。想像したくない……)

 ファルネーゼは、たぶん破滅するだろう。

「さあ! シドさん! 聖水をたくさん作りましょう♡」


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