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第1章

フラグを立てまくる攻略対象たち クロード王子視点

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【クロード王子視点】

「サンダーボルト……っ!」

 わたしは右手から雷撃を放つ。

「ぎゃああああっ!」

 ここは学院のグラウンド。
 学院生たちが鍛錬する修練場として使われている。
 今、冒険者ギルドから来た冒険者を倒したところだ。

「さ、さすがクロード王子殿下……! Aランク冒険者を一撃とは――」

 従者がわたしを褒めた。

 もともと王族は、古いにしえの勇者の末裔だ。
 だからわたしは勇者専用の魔法である、雷属性魔法が使える。
 鍛錬のために、冒険者ギルドから高ランクの冒険者を学院に連れて来ていた。
 これも未来の王であるわたしのために、現国王――つまりわたしの父上が用意してくれたのだ。
 王たる者、常に強者であらねばならぬ――父上の口癖であり、我が王家の家訓でもある。

「さすがですわ。お兄様……っ!」

 我が妹――リーザロッテ・フォン・ルクスランドが駆け寄ってきた。
 金髪の巻き髪と、ブルーの瞳が麗しい。

 (我が妹ながら……かなりの美少女だ)

 王位継承順位は、2位。
 わたしの王位継承順位は、1位だ。
 わたしにもしものことがあれば、リーザロッテが女王になる。

 (まあこのわたしに、「もしものこと」なんてあり得ないが……)

「お兄様と戦うシド・フォン・グランディ準男爵令息ってどんな方なのかしら……? 準男爵令息でお兄様と戦うなんて――」

 実力至上主義のルクスランド王国では、魔力の強さで爵位が決まる。
 だから強さの順番は、王族が最高であり、準男爵が底辺だ。
 準男爵の下に騎士爵があるが、騎士爵は功績のある平民に与えられる特別な爵位。
 つまり貴族の中では、準男爵が一番弱いことになる。

「まったく無謀なヤツだ。王族のわたしと戦おうなどと……」
「でも……少し興味がありますわ。そんな無謀なことをする人が、どんな人なのか……?」
「いや、リーザロッテが興味を持つようなヤツじゃない。ただの愚か者だ。わたしが瞬殺してやるさ」

 リーザロッテは昔から好奇心旺盛だ。
 珍しいものを見つけては喜ぶ。
 グランディのバカさは珍しいとも言えるが、王族が相手にするレベルのヤツじゃない。
 
「きっと何か、勝算があるんじゃないかしら?」
「勝算だと……?」
「準男爵令息が王子に戦いを挑むのですもの。何かすごい策があるに違いありません」

 (グランディが勝つ策だと……)

 あるはずがない。
 わたしに勝つことなど、1%もないからだ。

「リーザロッテ。グランディが勝つ可能性などないよ。あのバカに策があるはずない」
「そうかしら……?」

 リーザロッテは首を傾げた。

「お兄様……妹として忠告しますわ。グランディさんは、きっと何か隠しています。油断してはいけません」

 リーザロッテが人差し指を立てる。

「ありがとう。気持ちだけ受け取っておこう。だが、わたしがグランディごときに負けることは、絶対にあり得ない。油断もなにも、あの雑魚が勝つ可能性なんて、最初からないのだから」

 わたしはリーザロッテの頭をなでた。
 リーザロッテは優しい性格だ。
 わたしのことを心配してくれているのだろう。

 (気持ちはすごく嬉しいが、グランディに負けるなんてあり得ないからな……)

【きゃああああ! フェルド魔術師長よ!】
【ユリウス騎士団長もいるわ……っ! イケメン!】
【スリーローズが揃ったわ!】

 修練場にいた令嬢たちが黄色い声を上げる。

 フェルドとユリウスが、修練場へやって来たのだ。
 スリーローズ「3本の薔薇」は、わたし、フェルド、ユリウスの3人を指している。
 3人とも親友であり――いわゆる「イケメン」だ。
 自分でイケメンと言っているが、実際に令嬢たちからそう言われているから仕方ない。

「やっと来たか……冒険者たちはもう来てるぞ」
「すまん。クロード。魔術師団の仕事があって」
「俺もだ。騎士団の仕事で遅れた」
「……まあいい。さっそく戦闘を始めるぞ」

 わたしとフェルドとユリウスは、3人とも幼馴染だ。
 フェルドとユリウスは、公爵令息であり、王族の親戚。
 一緒に王宮で育ったから、お互いにタメ口で話す仲だ。

「フェルドさん、ユリウスさん、久しぶりです!」

 リーザロッテが2人(フェルド、ユリウス)に挨拶する。

「リーザロッテ。しばらく見ないうちにキレイになったな!」

 女たらしのフェルドが、調子のいいことを言って、

「ふっ……! 久しぶりだ」

 クールなユリウスが、塩対応ぎみに言う。
 わたしのチームは、グランディとアリシア以外のクラス全員がメンバーだが、代表して3人(クロード、フェルド、ユリウス)で戦うことにした。
 グランディごとき虫ケラを潰すのに、他のクラスメイトの手を借りる必要はない。
 わたしたち3人の圧倒的な力でグランディを粉砕し、アリシアには降伏を促すのが作戦だ。

「よし。まずはフェルドからだ。Aランク魔術師と戦ってもらう」
「了解!」

 オレンジ色の髪をなびかせて、元気よくフェルドが言う。
 ファルドは賢者の血筋である、アナスタシア公爵家の令息だ。
「紅蓮の魔術師」と呼ばれて、強力な炎属性魔法の使い手。

「やってやるぜ……っ!」

 ファルドが詠唱の準備をする。

「地獄の業火よ……我が敵を焼き尽くせ……っ! ヘルファイア!」
「く……っ! 結界魔法――ミラフォース!」

 ミラフォース――上級結界魔法。
 かなり強力な結界だ。ドラゴンのファイアブレスも防げる。
 Aランク魔術師はそんな結界を張るが――

「ぐわああああああっ!」

 結界を一瞬で焼き尽くし、Aランク魔術師に炎が襲い掛かる……!

「殺すなよ! フェルド!」

 一応わたしが、フェルドに注意する。

「はいはい。クロード。死なない程度にやるよ!」

 修練場に来る冒険者たちは、「死んでもいい」という誓約書にサインしている。
 大抵は罪を犯して、ギルドを追放された「はぐれ冒険者」たちだ。
 だから殺しても構わないのだが……令嬢たちの目がある。
 あまり派手にやりすぎるのは良くない。

「があぁ……」

 燃えながら倒れるAランク魔術師。

「はははっ! 俺の勝ちだな!」

 ファルドが勝利を宣言する。

「ファルドの勝ちだな。その魔術師には、治癒魔法をかけておけ!」

 すぐに治癒魔法をかけてやれば、火傷が少し残る程度で済むだろう。

「次は……ユリウスだな」
「ふ……っ! わたしの番か」

 くいっと、眼鏡を挙げるユリウス。
 紅い長髪が風にたなびく。
 ユリウスは剣聖の血筋である、バルトロン公爵家の令息だ。
 「光速の剣士」と呼ばれて、その剣速が目に見える者はいない。

「はあああああっ!」

 Aランク剣士が、ユリウスに斬りかかるが、

「遅い」
「がはぁ……っ!」

 瞬殺剣――バルトロン公爵家に伝わる秘伝の剣技。
 剣を抜く様さえ見えない、まさに光のごとき速さの剣だ。
 しかも威力も高く、Aランク剣士のミスリルの鎧を切り裂いた。

「……があ」

 Aランク剣士は膝から倒れてしまう。

「俺の勝ちだ……」

 ユリウスが勝利を宣言する。

「よし。その剣士に治癒魔法をかけておけ……!」

 あの剣士は、胸に傷が残る程度で済むだろう。

 (負けた冒険者のケアも怠らないわたし……なんて良い王子なのか!)

 胸中でついつい自画自賛してしまう。
 だが、実際にわたしは完璧な王族と言えるだろう。

【きゃあああ! フェルド様すごいわ!】
【ユリウス様あああ! 素敵です!】
【3人ともイケメンすぎます……!】

 観客の令嬢たちが歓声を上げた。

「やっぱり俺たちって、カッコイイんだな!」

 令嬢たちに手を振るフェルド。

「ふっ! まったくこれだから令嬢たちは……!(一番カッコイイのは俺だ)」

 くいっと眼鏡を直すユリウス。

「そうだな。わたしたちはイケメンだ」

 令嬢たちの嬌声を聞いて、わたしたちは自分が「イケメン」であることを再確認する。

 (わたしたちがグランディに負けるなど、やはりあり得ない)

「3人ともお疲れさまです。あ! 言い忘れてました! グランディさんとの決闘は……お父様も見に来るそうですよ!」

 リーザロッテが言う。

「国王陛下に俺の活躍を見てもらえるのか……! やったぜ!」

 フェルドが喜んでみせる。

「ふふ……国王陛下に我が剣技を披露しよう」

 ユリウスも内心、喜んでいるようだ。

「父上が来るならちょうどいい。わたしたちは王国の未来を担う身だ。わたしたちの活躍を見せて、父上を安心させよう」

「「「おう……!」」」

 わたしたち3人は、勝利を確信するのだった。

「ふふ! でも3人とも、油断だけはしないでね。勝負は何があるかわかりませんから……」


——————————————————
【あとがき】

フラグを立てまくる3人であった……
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