上 下
11 / 27
第1章

バカ王子を倒す作戦会議

しおりを挟む
「さて、どうしようかな……?」

 学院の授業が終わった後、俺はアリシアの部屋に誘われた。
 1週間後に、【統率者の決闘】が行われる。
 その作戦会議を行うとのことだ。
 もしクロード王子に負けたら、学院を退学になってしまう……
 はっきり言って、かなりヤバい状況だ。

「紅茶を入れました。あとクッキーも」

 アリシアが紅茶とクッキーを出してくれた。
 俺はカップの紅茶を飲む。

「ありがとう。おいしいよ」
「ふふ。ありがとうございます!」

 (こんなことしてる場合じゃないのに……)

 ニコニコ笑うアリシアを見て、俺の緊張が解けていく。
 紅茶のリラックス効果か、なんだか暖かい気持ちになってくる。

「……やっぱり、あそこに行くしかないか」
「解決策があるんですね! さすがシドさん……っ!」

 アリシアが手を叩いて喜ぶ。 
 もともとこうなったのはアリシアが俺を推薦したせいだが、こんなに笑顔で喜ばれると俺は悪い気はしなかった。

「それで、あそこって言うのはどこですか?」

 キラキラした目で、俺の顔を覗き込むアリシア。
 俺が言う「あそこ」とは――ダンジョンのことだ。
 実は、この学院の地下にダンジョンがある。
 原作では、物語の後半に入ることになるダンジョンだ。
 そして学院ダンジョンには、主人公専用装備である【聖なる杖】が眠っている。
 聖なる杖は、主人公――つまり聖女であるアリシアだけが装備できる。
 味方全体のステータスを強化できる【軍勢魔法】の効果がついている。
 これがかなりのチート効果で、レベルが低くても聖なる杖のバフがあれば、終盤の敵相手でも無双できる。
 ただし、問題は――ダンジョンボスのアンデット・キングを倒さないといけないことだ。  
 強さはAランクであり、厄介なゾンビ系のモンスター。
 だが……勝てないことはない。
 策はちゃんとある。
 あるアイテムを「大量」に使えば――

「アリシア。この学院の地下に、ダンジョンがある。そこを攻略したいと思う」
「えっ? 学院の下にダンジョンが……?!」

 アリシアがひどく驚く。
 無理もない反応だ。
 原作のシナリオでは、後半になってやっと入れるダンジョンだからだ。
 この学院は、もともとは初代聖女【ジャンヌ・ダルク】が設立した学校。
 魔王が復活した時に備えて、聖女の資質がある者に武器を残した。
 それが聖なる杖と言うわけだ。
 この情報は、ジャンヌを女神として祭る【聖女教会】の大司祭に教えてもらう。 
 しかもこの情報は、聖女教会に敵対する邪教徒たちを倒した報酬だ。
 だから物語の序盤では当然、アリシアも攻略対象たちも知らない。

「アリシア……結界魔法は使えるか?」
「使えます。持続時間は短いですが……」
「よかった。使えるならそれで十分だ」

 HPも防御力も低い俺たちがアンデット・キングの攻撃を受ければ、100%ワンパンであの世逝きだ。
 だから俺の策には、結界魔法は必須だ。

「あと、貯金はいくらある?」
「貯金ですか……?」

 アリシアが怪訝な顔をする。

「ああ。実はアイテムをたくさん買う必要があって」
「何を買うのです?」
「聖水だ」

 アンデット・キングはゾンビ系のモンスター。
 弱点は聖属性魔法だ。
 アリシアは聖属性魔法を使えるが、まだアンデット・キングを仕留められる威力がない。
 要するに、火力不足だ。
 だが、聖水をアンデット・キングにぶっかければ、ダメージを加算できる。

 (なるべく多く聖水を買いたい。何が起こるかわからないからな……)

 他のモンスターとのエンカウントを避けつつ、なんとかアンデット・キングのところまでたどり着く。
 もしアンデット・キングを倒せれば、経験値も大量に入って一気にレベルアップもできる。

「二人のお金で、できるだけ多く聖水を買おう」
「わかりました……あたし、勝つためなら何でもします!」

 ふんすっと、アリシアがガッツポーズする。

「うん。絶対に勝とう」

 正直、勝てる可能性は低いと言わざるを得ない。
 冷静に考えれば、準男爵令息が王子殿下に勝てるわけがない。
 貴族の爵位は魔力の強さで決まっているからだ。
 もし賭けをするなら、誰でもクロード王子に賭けるだろう。
 しかし、薄い可能性だけど勝機はある。

「やるだけやってみよう……っ!」
「はい! シドさん! 2人の共同作業、すっごおおおく嬉しいです! 幸せです!」

 アリシアがぴょんぴょん跳ねる。

「共同作業……?」

 この絶望的状況に、ふさわしくない言葉だ。
 まるで恋人同士の男女が使うような言葉だし……

「はい! シドさんとあたしの、初めての共同作業です! 一緒にバカ王子をボコりましょう!」

 「初めての」をやたら強調して言うアリシア。

 (いろいろ違和感があるけど、まあいいか……)

「おう……!」

 ★

【アリシア視点】
 
 あたしの部屋で「作戦会議」をした後、シドさんは男子寮へ帰った。
 あたしは泊っていくように言ったんだけど、シドさんは顔を真っ赤にして断った。

「シドさんとなら同じベッドで寝てもいいのに……」

 もちろんそれ以上のことも、あたしはとっくにOKだ。

 (シドさんと、初めての共同作業だ……)

 シドさんと2人でダンジョン攻略できるなんて、すごく嬉しい。
 もし死ぬことになったとしても、シドさんと死ねるなら本望だ。

「作戦会議のシドさん……本当にカッコよかったな」

 学院の地下にダンジョンがあることも、アンデット・キングに聖水が有効なことも、シドさんは知っていた。
 シドさんはきっと、実力を隠していたに違いない。
 人知れず、影で努力するタイプだ。

 (あたしの見込んだ通りだ……)

 ファルネーゼ様に言い返す姿を見た時、「この人には何かある!」とピンっと来た。
 普通の人にはない、特別なものを持っていると――
 まるで別の世界から来た人のような気がする……

「さすがにそれはないか」

 うん。まさか異世界から来たなんて、そんなことないよね……っ!
 あり得ない、あり得ない。

 (そろそろお風呂入ろう……)

 バカ王子に触れられたところをよく洗わないといけない。

 (すっごく気持ち悪かった……)

 シドさん以外の男性に触れられるなんて、絶対に無理。
 バカ王子の「汚れ」をお風呂でしっかり落とさなくちゃ……っ!

「……シドさん。あたしが命に代えても、勝利に導きます!」

 シドさんへの忠誠を、あたしは固く誓うのだった。
しおりを挟む
感想 20

あなたにおすすめの小説

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。

狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。 街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。 彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第三章フェレスト王国エルフ編

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

処理中です...