乙女ゲーのモブに転生した俺、なぜかヒロインの攻略対象になってしまう。えっ? 俺はモブだよ?

水間ノボル🐳

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第1章

もしも負けたらヤバいことに…… ファルネーゼ視点

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【ファルネーゼ視点】

「準男爵令息のくせに……っ!」

 放課後、寮の部屋——

 あたしは紅茶を飲みながらイラついていた。
 グランディごときと誓約魔法をしてしまった……
 まさかクロード殿下が負けるなんて絶対にあり得ないけど、あんな野良犬と「約束」したことがムカつく。

「セリス……っ! さっさとクッキーを出しなさい!」
「はい……! お嬢様!」

 メイドのセリスがビクビクしながら、クッキーを持ってくる。

 (あー! イライラする……っ!)

 グランディのあの顔。
 準男爵の底辺貴族で、しかも今までクラスの「モブ」だったくせに、あたしに偉そうに要求するなんて……
 
 (絶対に足を舐めさせてやるわ……っ!)

 あたしの犬にして、徹底的にわからせてやる。
 あたしだけの玩具にしてやるんだから……

「グランディ……死ねっ!」

 あたしはクッキーを掴んで、セリスに投げつける。

「きゃあああ……っ! お嬢様、やめてくださいっ!」
「クソ、クソ、クソ! クソグランディっ!」

 セリスをいじめても、全然気が晴れない。
 グランディのことが気になって仕方ない。
 あのゴミクズが、あたしの頭から離れないのだ……

 ——コンコンっ!

 ドアを叩く音がした。

「はあはあ……。誰か来たわ。早く出なさいよ」
 
 泣いていたセリスは涙を拭くと、ドアを開けた。

「……! 当主様……っ!」
「えっ? お父様が……?」

 あたしのお父様——ハンシュタイン侯爵が寮を訪ねてきたのだ。
 なぜか立派な燕尾服を着ている……

「お、お父様……どうして学院に?」
「実は王室財務官に任命されてな。それで王都に来た」
「王室財務官……?! すごいですわ!」

 王室財務官は、王国の財政を預かる役職。
 選ばれることは、かなり名誉なことだ。
 王室財務官になれば、次は六元老——国王の側近になれる。
 つまり王室財務官になることは、王国の最上層への足がかりとなる。

「今日はお前に、忠告をする」
「えっ? あたしに忠告……? お父様に心配をかけることは——」
「あるだろう。準男爵令息との【賭け】のことだ」
「ど、どうしてそれを……?」

 お父様は、セリスへ視線を移す。

「セリス……。アンタ、お父様に告げ口を——」
「セリスを責めるな。セリスは必要なことをしたのだ。そんなことより、ファルネーゼ。お前はどうして、危険な賭けに乗ったのか?」
 
 ギロっと、お父様があたしを睨む。

「き、危険はありません……。だって、あのクロード殿下が、準男爵令息に負けるわけないですもの」
「たしかに、負ける可能性は低い。だが、1%でも負ける可能性があれば——」
「お父様、1%でも負ける可能性はありませんわ」
「……断言できるのか?」
「はい。断言できますとも!」

 あたしは自信満々で答える。
 万が一にも、クロード殿下があんなモブに負けるわけないからだ。

「……わかった。娘のお前を信じよう。しかし、もしも負けたら、王室財務官としてのメンツにかかわる。だからその時は——」
「その時は……?」
「お前をハンシュタイン侯爵家から——いや、何でもない。賢いお前なら、言わずともわかるな?」
「はい。お父様……」

 もしもグランディとの賭けに負ければ、あたしはハンシュタイン侯爵家から……追放される。
 お父様の目は本気だ。
 負けたら本当に、あたしを追放する気だ……

「ハンシュタイン侯爵家は、代々、国王陛下の重臣として名誉を守ってきた。娘のお前が、もし準男爵家に負けるようなことがあれば……我が家名は地に堕ちる。そんなことは、絶対にあってはならない」
「よくわかってますわ。お父様」
「ファルネーゼ、お前を信じているからな」

 お父様はあたしを抱きしめた。
 
「お父様。あたしを信じてください! 絶対に準男爵に負けませんから……っ!」


——————————————————
【あとがき】
さらにフラグを立てるファルネーゼであった……
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