乙女ゲーのモブに転生した俺、なぜかヒロインの攻略対象になってしまう。えっ? 俺はモブだよ?

水間ノボル🐳

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第1章

なぜかクロード王子が来た

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 俺がクッキーを手にした時——

 ——コンコン!

 ドアを叩く音がする。

「いったい誰かしら……?」

 ガチャ……っ!

 アリシアが部屋のドアを開けた。

「アリシア……大丈夫か?」

 クロード王子が入って来た。

「……クロード殿下。どうしたんですか?」

 突然の訪問に、アリシアは目を丸くしている。

「いや、その……わたしもグランディに礼をしたくてな。ケーキを持って来たのだ。ははは……」

 クロード王子の手には、ケーキがあった。

「シドさんにお礼……ですか?」

 アリシアは怪訝な顔をする。

「わたしの大切なアリシアを助けてくれたのだ。だからグランディにはちゃんと礼をせねばと思ってな……」
「そうですか……」

 納得しない顔をするアリシア。
 そんなアリシアの顔を見て、クロード王子が焦っている。
 
 (いったいなんだこれは……?)

 原作にこんなイベントはなかった。
 いや、似たようなイベントはある。
 アリシアが熱で寝込んだ時に、攻略対象たちが看病に来るイベントがあったっけ……
 とりあえず、ヒロインの部屋に来るのはそれぐらいだ。

「グランディ。改めて礼を言おう。アリシアを助けてくれて感謝する」

 クロード王子は頭を下げる。

「いえいえ。たいしたことは……」
「謙虚なヤツだな。おっ! このクッキーは……?」

 クロード王子がクッキーを触った。

「あっ! それはシドさんのために作ったクッキーで」
「アリシアの手作りクッキーか! 美味しそうだな」

 クロード王子はさりげなく、俺とアリシアの間に立つ。
 まるで俺をアリシアから遮るみたいに。
 クロード王子がクッキーを手に取る。

「殿下。そのクッキーはシドさんのために作ったものです! ですからクッキーを置いて——」
「かなり美味そうだ。パクっ!」

 クロード王子は、クッキーを食べた。

「で、殿下……っ!」

 アリシアがとても驚く。

「甘いクッキーだな……アリシアはお菓子作りが上手いよ。ははは…………」

 クロード殿下の目が虚になる。
 身体がふらつき始めて、椅子に座った。

「な、なんだこれは……? 急に眠くなってきたぞ。うううう……スースー」

 クロードは座ったまま眠り始めた。

 (急に爆睡した……? )

「大丈夫ですか? クロード殿下」

 俺はクロードの肩を揺らすが、クロードの身体がピクリとも動かない。

「何が起こったんだ……?」

 さっきまで普通に起きていた人間が、急に寝てしまうなんて異常だ。

「……治癒魔法を使いますね」

 アリシアはクロードの頭に手を当てて、治癒魔法の詠唱をする。

「…………俺はいったい何を?」
「お疲れのようですね。今日はもう休まれた方が」
「そうだな。すまない……」

 クロードの足はふらついている。

「俺、送って行きましょうか?」

 俺はクロードに肩を貸す。

「グランディ。ありがとう」

 俺はクロードを肩に抱いて、アリシアの部屋を出る。

「…………ちっ!」

 (……!)

 部屋の中から声が聞こえたような。


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