上 下
18 / 28
2章

負けイベントに勝ってしまう

しおりを挟む
 「全員、死んでもらう……っ!」

 ファウスト将軍が、炎剣イフリートを抜く。
 深紅の刀身が鋭く光る。
 炎剣イフリートは、神装武器のひとつ。
 炎神の意思が宿る剣だ。
 原作の設定では、神剣デュランダルの次に強力な装備。

「焼き尽くしてやる……」

 ファウスト将軍は、炎剣イフリートを掲げる。
 炎剣イフリートが炎を纏って、

「煉・獄・斬――」

 俺に向かって、突進してきた……!
 この戦闘は、いわゆる「負けイベント」だ。
 どんなにこちらのレベルが高くても、ファウスト将軍に負ける。
 ファウスト将軍のステータスは異常に高く、原作のシナリオで主人公たちはボコられる。

 (見えるぞ……っ!)

 ファウスト将軍の動きはかなり早い。
 俊敏のステータスは、全キャラの中で最高の数値。
 クレハとの修行の成果だ。
 学園入学前に、剣聖と毎日のように手合わせした。
 クレハの剣速が俺の中で「標準速度」になっていたから、ファウスト将軍を目で追える。

 ——ガキンっ!

 俺は自分の剣で、炎剣イフリートを受け止める。

「なに……っ! わたしの剣を受け止めるだと……!」

 ファウスト将軍がかなり驚く。
 まあ無理もない。
 原作の設定では、絶対に防御できない攻撃だから。
 普通にストーリーを進めていけば、だいたいレベル20くらいになっている。
 この「負けイベント」の後に、ファウスト将軍と終盤で再戦することになる。
 再戦時のレベルは50くらいだ。
 
 (レベルをどうやら上げすぎたらしい……)

 学園に来る前にダンジョンでレベリングをしてきたから、俺のレベルは――

「貴様のレベルはいくつだ……ステータス表示っ!」

 ファウスト将軍が、魔法を使う。
 【ステータス表示】は、敵のステータスを見抜く魔法だ。

「……れ、レベルが……99!」

 (バレてしまったか……)

 俺のレベルは99だ。
 つまり、レベルは「カンスト」している状態。
 クリア後に行く隠しダンジョンでも、レベルはせいぜい60ぐらいだろう。

「いったいどこでその力を手に入れたのだ……?」

 (仕方ない。もう開き直るか……っ!)

「普通にレベリングしただけだ」
「レ、レベリングとは……?」
「ダンジョンで魔物の笛を吹いて、モンスターを呼び寄せる。それから全体攻撃魔法で、一掃する。それを繰り返して――」
「ちょっと待て。魔物の笛を持っているのか?」
「ああ。たまたまキング・オークがドロップして――」

 このゲームでは、モンスターがアイテムをドロップする。
 ただ……そのドロップ率はかなり低い。
 ドロップ率は、10008分の1だ。
 だからドロップアイテムは、この世界で超貴重なわけで……

「ファウスト将軍、ここは撤退して――」

 シャルロッテがファウスト将軍に言うが、

「いえ……わたしは負けるわけにはいかないのです」
「でも、アルくんのレベルは99です。とても今のわたしたちでは勝ち目がありません」
「し、しかし……わたしは負ける気がしないのです。【お前は勝つ】という声が聞こえるのです……っ!」

 (まあ原作だとファウスト将軍が勝つからな……)

 原作のシナリオが、キャラクターを拘束しているということだろうか……?

「俺も無用な争いは避けたいです。だから、ここは撤退してもらって――」

 俺はファウスト将軍に、撤退を促すが、

「ぐ、ぐ、ぐ……わたしは負けるにはいかないのだ……っ! ああああああっ!!」

 ファウスト将軍が、炎剣イフリートで斬りかかる。

「く……っ!」

 俺は剣で受け止める。

 (ヤバい……っ! 剣にヒビが……!!)

 俺の剣は、実家に置いてあった「鋼の剣」だ。
 つまり、ごく普通の剣なわけで。
 神装武具の炎剣イフリートの斬撃に耐えられない――

 (仕方ない……こうするしかない!)

 バリン……っ!!

「な……っ!」

 俺は拳で炎剣イフリートを叩き折った。

 (レベルが低いキャラは、動きが早すぎて見えないはずだ……っ!)

「あ、あり得ない……神装武具が破壊されるなど……」

 ファウスト将軍が、がくっと肩を落とす。

「あたしたちの負けね……。アルくん、強すぎよ」

 シャルロッテがつぶやく。

「いくらアルフォンスでも、強すぎますわ……」

 さすがのオリヴィアも、俺の強さに引いているようで。
 原作のシナリオでは、この戦闘は「負けイベント」だった。
 他のキャラたちも無意識に、負けることを察していたのだろう。

「……シャルロッテお姉さま。あなたの負けです。降参してください」

 オリヴィアは言うが、

「ふふ。アルトリアの英雄を倒すなんて……アルくんはすごいわ。でもまだ終わったわけじゃないわ。……またね。アルくん――」
「う……っ!」

 まぶしい光が放たれる。
 一瞬、目が見えなくなって――

「いなくなったのか……」

 シャルロッテとファウスト将軍は、消えた。

「アルフォンス、すごいわ! 神剣デュランダルを守ったのよ!」

 オリヴィアが、俺に抱きつく。

 (うお……っ! 胸が当たっている……!)

 勝てたのはよかったけど、また原作のシナリオを破壊してしまった。

 (……!)

 俺の背後から、嫌な気配がする……

「? アルフォンス? どうかしましたか?」
「いや……なんでもない」

 (誰かの殺気を感じたけど、気のせいだよな……)
 
 

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

序盤で殺される悪役貴族に転生した俺、前世のスキルが残っているため、勇者よりも強くなってしまう〜主人公がキレてるけど気にしません

そらら
ファンタジー
↑「お気に入りに追加」を押してくださいっ!↑ 大人気ゲーム「剣と魔法のファンタジー」の悪役貴族に転生した俺。 貴族という血統でありながら、何も努力しない怠惰な公爵家の令息。 序盤で王国から追放されてしまうざまぁ対象。 だがどうやら前世でプレイしていたスキルが引き継がれているようで、最強な件。 そんで王国の為に暗躍してたら、主人公がキレて来たんだが? 「お前なんかにヒロインは渡さないぞ!?」 「俺は別に構わないぞ? 王国の為に暗躍中だ」 「ふざけんな! 原作をぶっ壊しやがって、殺してやる」 「すまないが、俺には勝てないぞ?」 ※ カクヨム様にて、異世界ファンタジージャンル総合週間ランキング40位入り。1300スター、3800フォロワーを達成!

無能な悪役王子に転生した俺、推しの為に暗躍していたら主人公がキレているようです。どうやら主人公も転生者らしい~

そらら
ファンタジー
【ファンタジー小説大賞の投票お待ちしております!】 大人気ゲーム「剣と魔法のファンタジー」の悪役王子に転生した俺。 王族という血統でありながら、何も努力しない怠惰な第一王子。 中盤で主人公に暗殺されるざまぁ対象。 俺はそんな破滅的な運命を変える為に、魔法を極めて強くなる。 そんで推しの為に暗躍してたら、主人公がキレて来たんだが? 「お前なんかにヒロインと王位は渡さないぞ!?」 「俺は別に王位はいらないぞ? 推しの為に暗躍中だ」 「ふざけんな! 原作をぶっ壊しやがって、殺してやる」 「申し訳ないが、もう俺は主人公より強いぞ?」 ※ カクヨム様にて、異世界ファンタジージャンル総合週間ランキング50位入り。1300スター、3500フォロワーを達成!

漫画の寝取り竿役に転生して真面目に生きようとしたのに、なぜかエッチな巨乳ヒロインがぐいぐい攻めてくるんだけど?

みずがめ
恋愛
目が覚めたら読んだことのあるエロ漫画の最低寝取り野郎になっていた。 なんでよりによってこんな悪役に転生してしまったんだ。最初はそう落ち込んだが、よく考えれば若いチートボディを手に入れて学生時代をやり直せる。 身体の持ち主が悪人なら意識を乗っ取ったことに心を痛める必要はない。俺がヒロインを寝取りさえしなければ、主人公は精神崩壊することなくハッピーエンドを迎えるだろう。 一時の快楽に身を委ねて他人の人生を狂わせるだなんて、そんな責任を負いたくはない。ここが現実である以上、NTRする気にはなれなかった。メインヒロインとは適切な距離を保っていこう。俺自身がお天道様の下で青春を送るために、そう固く決意した。 ……なのになぜ、俺はヒロインに誘惑されているんだ? ※他サイトでも掲載しています。 ※表紙や作中イラストは、AIイラストレーターのおしつじさん(https://twitter.com/your_shitsuji)に外注契約を通して作成していただきました。おしつじさんのAIイラストはすべて商用利用が認められたものを使用しており、また「小説活動に関する利用許諾」を許可していただいています。

18禁NTR鬱ゲーの裏ボス最強悪役貴族に転生したのでスローライフを楽しんでいたら、ヒロイン達が奴隷としてやって来たので幸せにすることにした

田中又雄
ファンタジー
『異世界少女を歪ませたい』はエロゲー+MMORPGの要素も入った神ゲーであった。 しかし、NTR鬱ゲーであるためENDはいつも目を覆いたくなるものばかりであった。 そんなある日、裏ボスの悪役貴族として転生したわけだが...俺は悪役貴族として動く気はない。 そう思っていたのに、そこに奴隷として現れたのは今作のヒロイン達。 なので、酷い目にあってきた彼女達を精一杯愛し、幸せなトゥルーエンドに導くことに決めた。 あらすじを読んでいただきありがとうございます。 併せて、本作品についてはYouTubeで動画を投稿しております。 より、作品に没入できるようつくっているものですので、よければ見ていただければ幸いです!

死んだら男女比1:99の異世界に来ていた。SSスキル持ちの僕を冒険者や王女、騎士が奪い合おうとして困っているんですけど!?

わんた
ファンタジー
DVの父から母を守って死ぬと、異世界の住民であるイオディプスの体に乗り移って目覚めた。 ここは、男女比率が1対99に偏っている世界だ。 しかもスキルという特殊能力も存在し、イオディプスは最高ランクSSのスキルブースターをもっている。 他人が持っているスキルの効果を上昇させる効果があり、ブースト対象との仲が良ければ上昇率は高まるうえに、スキルが別物に進化することもある。 本来であれば上位貴族の夫(種馬)として過ごせるほどの能力を持っているのだが、当の本人は自らの価値に気づいていない。 贅沢な暮らしなんてどうでもよく、近くにいる女性を幸せにしたいと願っているのだ。 そんな隙だらけの男を、知り合った女性は見逃さない。 家で監禁しようとする危険な女性や子作りにしか興味のない女性などと、表面上は穏やかな生活をしつつ、一緒に冒険者として活躍する日々が始まった。

【全話挿絵】発情✕転生 〜何あれ……誘ってるのかしら?〜

墨笑
ファンタジー
『エロ×ギャグ×バトル+雑学』をテーマにした異世界ファンタジー小説です。 主人公はごく普通(?)の『むっつりすけべ』な女の子。 異世界転生に伴って召喚士としての才能を強化されたまでは良かったのですが、なぜか発情体質まで付与されていて……? 召喚士として様々な依頼をこなしながら、無駄にドキドキムラムラハァハァしてしまう日々を描きます。 明るく、楽しく読んでいただけることを目指して書きました。

神様に転生させてもらった元社畜はチート能力で異世界に革命をおこす。賢者の石の無限魔力と召喚術の組み合わせって最強では!?

不死じゃない不死鳥(ただのニワトリ)
ファンタジー
●あらすじ ブラック企業に勤め過労死してしまった、斉藤タクマ。36歳。彼は神様によってチート能力をもらい異世界に転生をさせてもらう。 賢者の石による魔力無限と、万能な召喚獣を呼べる召喚術。この二つのチートを使いつつ、危機に瀕した猫人族達の村を発展させていく物語。だんだんと村は発展していき他の町とも交易をはじめゆくゆくは大きな大国に!? フェンリルにスライム、猫耳少女、エルフにグータラ娘などいろいろ登場人物に振り回されながらも異世界を楽しんでいきたいと思います。 タイトル変えました。 旧題、賢者の石による無限魔力+最強召喚術による、異世界のんびりスローライフ。~猫人族の村はいずれ大国へと成り上がる~ ※R15は保険です。異世界転生、内政モノです。 あまりシリアスにするつもりもありません。 またタンタンと進みますのでよろしくお願いします。 感想、お気に入りをいただけると執筆の励みになります。 よろしくお願いします。 想像以上に多くの方に読んでいただけており、戸惑っております。本当にありがとうございます。 ※カクヨムさんでも連載はじめました。

冤罪を掛けられて大切な家族から見捨てられた

ああああ
恋愛
優は大切にしていた妹の友達に冤罪を掛けられてしまう。 そして冤罪が判明して戻ってきたが

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。