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2章

あたしの陣営に来れば、アルくんを国王にします

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「大人しく神剣デュランダルを渡せ……っ!」

 ファウスト将軍――長い金髪を後ろで結んだじいさんのはずだが……
 大柄で威厳があり、とても老人には見えない。
 しかし、歴戦の戦士の風格がある。
 腰には炎剣イフリートを下げている。
 そして、ファウスト将軍の隣にいるのが――
 シャルロッテ・フォン・アルトリア第1王女殿下。
 深い黒髪に、優しげな瞳。
ドレスから豊かな胸が覗けて……

「わが妹、オリヴィア。神剣デュランダルを渡してください。あたしは争いたくありません。ユリウス兄さまと一緒に、わたしの陣営に下ってください」

 シャルロッテが澄ました顔で言う。

「……お姉さま。神剣デュランダルは渡せません。なぜなら……神剣デュランダルの所有者は、このアルフォンスだからです」
「なるほど……この方が神剣デュランダルに選ばれし者ですか……」

 俺をじっと見つめるシャルロッテ。
 実は……シャルロッテも攻略対象だ。
 原作の設定では、シャルロッテは主人公より3歳年上のお姉さんキャラだ。
 大人の余裕と色気があって、そこが人気で。

「アルフォンス・フォン・ヴァリエ侯爵令息……聞いていた評判とはずいぶん違いますね。キモブタクズ貴族という噂でしたのに。なんというか……すごくイケメン」

 (やっぱりひどい評判だな……)

「シャルロッテお姉さま……っ! アルフォンスはあたしの陣営にいますっ! あたしのアルフォンスを取らないでください!!」

 オリヴィアが俺の腕を掴む。

「あたしのアルフォンスって……。アルくんはオリヴィアの【物】じゃないでしょう? 誰の陣営に来るかは、アルくんが決めることじゃない?」
「あ、アルくんって……っ! いきなりそんなふうに呼ぶなんて! 馴れ馴れしいです!」
「あらあら。顔を真っ赤にしちゃって。オリヴィアはアルくんが大好きなのね」
「あ、あたしがアルフォンスを好き……?!」

 顔が赤くなって、動揺しまくるオリヴィア。
 目がグルグル回っている。

 (シャルロッテは、原作の性格と同じだな……)

 原作のシナリオでも、シャルロッテはジークのことを「ジクくん」と呼んでいたが、

「コホン……っ! 真面目に言いますと、アルフォンス・フォン・ヴァリエ侯爵令息に我が陣営に来てほしいのです。もしわたしの陣営に来てくれたら、ヴァリエ侯爵令息にアルトリア国王の座をお約束します」
「俺を国王に……?」
「ええ。アルくんのことはわたしの諜報部隊がこっそり調査していました。アルくんの実力ならアルトリア国王にふさわしいです」

 (これも原作の展開の同じだ……)

 シャルロッテは主人公のジークを「アルトリア国王」にすると言ってスカウトする。
 しかし、ジークは断る。
 そして戦闘開始となるのだが――

「ま、待ってください。アルフォンスをアルトリア国王にするということは、シャルロッテお姉さまとアルフォンスは――」

 オリヴィアがまた顔を赤くする。

「そうよ。あたしはアルくんと結婚するの」
「ええっ?! シャルロッテお姉さまとアルフォンスが結婚?!」

 叫び声を上げるオリヴィア。

「アルトリア国王は、最も有能な人物がなるべき。だから、アルくんが国王に一番ふさわしいと思って」
「だ、だからって……アルフォンスとシャルロッテお姉さまが結婚して……夜にあんなことやこんなことを……!!」

 オリヴィアの顔はもっと赤くなって、頭から湯気が出ている。

「オリヴィアは相変わらず、ムッツリさんね。そういうこと可愛い」

 ふふふと、シャルロッテが笑う。

「か、からかわないでください……っ!」

 ぷんぷん怒るオリヴィア。

「アルくん以外にもほしい人材がいるわ。クレハさんやガイウスさんも、我が陣営に高待遇で迎えましょう。どんなギルドよりも高い報酬を支払いますし、爵位も与えましょう」

 (爵位で釣る気か……)

 クレハもガイウスも、Sランク冒険者だ。
 だからダンジョン攻略で金はいくらでも稼げる。
 だが、爵位は別だ。
 どんなに冒険者として実力があっても、平民は爵位を得られない。
 貴族至上主義のアルトリア王国で、平民に爵位が与えられることはなかった。

「アルフォンスさまのお側が、あたしの居場所です」

 クレハはシャルロッテに答える。

「俺も、アルフォンスくんに着いていくよ」

 ガイウスさんがニヤリと笑う。

「なるほど……すべてはアルくん次第ということですね。アルくん。どうしますか? もし断れば、どうなるかわかりますね?」

 ファウスト将軍が炎剣イフリートに手をかける。

「あの……俺は……?」

 ジークが俺の後ろから、シャルロッテに言う。

「えーと……あなたは……どなたかしら?」

 シャルロッテは首をかしげる。

「な、なに……っ! 俺を知らないだと?! 俺は、ジーク・マインドだっ!」
「ジーク・マインド……? ファウスト将軍、知っていますか?」

 シャルロッテは、ファウスト将軍に尋ねるが、

「いいえ。まったく知りません。王位争いの重要人物は、諜報部隊が調査しております。諜報部隊の報告にないということは、どうでもよい人物なのかと……」
「わかりました。……ジーク・マインドさん、あなたは我が陣営に要りません。オリヴィアのところでも、ユリウス兄さまのところでも、どこへ行っても構いません」

「俺はジークなんぞ要らん!」

 ユリウスが憤慨する。

「あたしは……ジークさんはいてもいなくてどちらでもいいです……」

 オリヴィアがため息をつく。

「く……っ!」

 ジークの顔が歪むが、

「ジークさんのことはともかく、アルくん、どうしますか? あたしの陣営に来て、あたしと結婚しますか? もちろん初夜では、あたしを好きにしてくれて構いません」

 (今、さらっとヤバいこと言わなかったか……?)

「……断る。俺はオリヴィア王女殿下の陣営にいる」
「アルフォンス……っ! ありがとう……っ!」

 オリヴィアが俺の腕を掴んで喜ぶ。
 だが、俺はオリヴィアを喜ばせるために断ったわけじゃない。
 シャルロッテの背後には、黒幕のバッキンガム公爵がいる。
 バッキンガム公爵は魔王ゾロアークと通じているのだから、シャルロッテ陣営を勝たせてしまえば、この世界は崩壊してしまう。
 だから、シャルロッテ陣営に味方するわけにはいかなかった。

「わかりました……アルくんがあたしの陣営に来ないのなら、仕方ないですね……」

 シャルロッテは、神剣デュランダルを指さすと、

「封印魔法、マジャスティス……っ!」
「く……っ! やっぱりか……!」

 マジャスティスは、魔族が使う闇魔法だ。
 あらゆる魔道具の効果を封じることができる。
 神装武具も例外じゃなかった。

 (勇者の武器だから封印魔法も無効でいいと思うけど、エロゲだからそこらへんは設定がガバガバというか……)

 とにかく……神剣デュランダルの効果は無効化されてしまう。

「……では、ファウスト将軍。お願いします。ボッコボッコにしちゃってください!!
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