国王専属メイドは執行聖女 害なす者は天界でお幸せに

甘い秋空

文字の大きさ
上 下
25 / 30
第四章 執行

25 生き延びろ

しおりを挟む

「アルテミスか? そのままで話を聞け」

 元女王コノハ様の声だ。


 秘密通路から、元女王の執務室に出た。部屋への出口を少しだけ開け、中を探る。

 この出口を知っているのは、元女王コノハ様だけだ。


「私は、国王陛下を襲撃するなど、決していたしません。あれは深層魅了で操られた護衛兵による犯行です」

 隙間から声を出し、濡れ衣だと説明する。

「私が現場にいなかったことは、近衛兵とチョビ侯爵が、証言してくれます」

 逆に、現場にいれば犯行を防げただろう。


「だろうな。アルテミスがいない時を狙ったのだろう」

 くそ! そこまで計画的な犯行なのか。

「ワガハイは、この部屋から出られない。公爵が非常事態を宣言し、部屋から出ることを禁止した」

 国王に何かあった場合、その職務は、公爵が代行するルールだ。

 元女王も軟禁状態で動けなかった。


「アルテミス、生き延びて、国王ニニギを支えてくれ」

 逃亡してでも生き延びることが、国王のためだと言われた。

「分かりました。この命に替えても」

「まて、自分の命は大事にしろ。それがニニギの願いだ。近頃の若い者は、これだから困る。」

 元女王の漏らすため息が聞こえた。

 ◇

(ここなら、しばらくは安全か)

 ここは私の寝室だ。隣の執務室から廊下に出る扉には、廊下側からカギがかけられているはずだ。

 寝室は、明るい色の木材をふんだんに使い、南の国のリゾートのような雰囲気だ。

 国王の妻が使う予定で造られたことから、王族並みの作りになっている。

(敵が探し終えた場所に隠れるなんて、ありきたりだな)

 隣り続きとなっている私の執務室へ、罠が無いか調べるために入る。
 調度品は少ないが、白い壁の落ち着いた雰囲気の部屋だ。変わった様子は無い。


「護衛兵が入っていいエリアではないぞ」

 廊下から近衛兵の声がした。

「近衛兵全員を拘束するよう命令が出ている」

 激しく言い争う声が聞こえる。私の執務室の前で出入りを監視している護衛兵と、王族エリアを担当する近衛兵が言い争っている。

 しかし、近衛兵を拘束する命令とは……これは、さすがにやり過ぎだろう。何を企んでいる?


(これではまるで軍事クーデターではないか)

 扉のカギを開ける音がしたので、急いで自分の寝室へ隠れる。

「犯人は、この部屋に戻ってくると思うか?」

「そんな訳ないだろ、俺たち護衛兵が見張っているんだぜ」

「そうだよな」

 私の執務室で何かを捜しているのか?


「チョビ侯爵は亡くなったそうだぞ」

 チョビ侯爵が消されたという話が聞こえてきた。

 用事が終わったのか、護衛兵は直ぐに出ていった。

 残された私は、侯爵の無念を思い、枕に顔を埋めて祈った。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

とりかえばや聖女は成功しない

猫乃真鶴
ファンタジー
キステナス王国のサレバントーレ侯爵家に生まれたエクレールは、ミルクティー色の髪を持つという以外には、特別これといった特徴を持たない平凡な少女だ。 ごく普通の貴族の娘として育ったが、五歳の時、女神から神託があった事でそれが一変してしまう。 『亜麻色の乙女が、聖なる力でこの国に繁栄をもたらすでしょう』 その色を持つのは、国内ではエクレールだけ。神託にある乙女とはエクレールの事だろうと、慣れ親しんだ家を離れ、神殿での生活を強制される。 エクレールは言われるがまま厳しい教育と修行を始めるが、十六歳の成人を迎えてもエクレールに聖なる力は発現しなかった。 それどころか成人の祝いの場でエクレールと同じ特徴を持つ少女が現れる。しかもエクレールと同じエクレール・サレバントーレと名乗った少女は、聖なる力を自在に操れると言うのだ。 それを知った周囲は、その少女こそを〝エクレール〟として扱うようになり——。 ※小説家になろう様にも投稿しています

聖女召喚

胸の轟
ファンタジー
召喚は不幸しか生まないので止めましょう。

追放された偽物聖女は、辺境の村でひっそり暮らしている

ファンタジー
辺境の村で人々のために薬を作って暮らすリサは“聖女”と呼ばれている。その噂を聞きつけた騎士団の数人が現れ、あらゆる疾病を治療する万能の力を持つ聖女を連れて行くべく強引な手段に出ようとする中、騎士団長が割って入る──どうせ聖女のようだと称えられているに過ぎないと。ぶっきらぼうながらも親切な騎士団長に惹かれていくリサは、しかし実は数年前に“偽物聖女”と帝都を追われたクラリッサであった。

聖女なんて御免です

章槻雅希
ファンタジー
「聖女様」 「聖女ではありません! 回復術師ですわ!!」 辺境の地ではそんな会話が繰り返されている。治癒・回復術師のアルセリナは聖女と呼ばれるたびに否定し訂正する。そう、何度も何十度も何百度も何千度も。 聖女断罪ものを読んでて思いついた小ネタ。 軽度のざまぁというか、自業自得の没落があります。 『小説家になろう』様・『Pixiv』様に重複投稿。

国護りの力を持っていましたが、王子は私を嫌っているみたいです

四季
恋愛
南から逃げてきたアネイシアは、『国護りの力』と呼ばれている特殊な力が宿っていると告げられ、丁重にもてなされることとなる。そして、国王が決めた相手である王子ザルベーと婚約したのだが、国王が亡くなってしまって……。

ヒロインと結婚したメインヒーローの側妃にされてしまいましたが、そんなことより好きに生きます。

下菊みこと
恋愛
主人公も割といい性格してます。 小説家になろう様でも投稿しています。

聖女は魔女の濡れ衣を被せられ、魔女裁判に掛けられる。が、しかし──

naturalsoft
ファンタジー
聖女シオンはヒーリング聖王国に遥か昔から仕えて、聖女を輩出しているセイント伯爵家の当代の聖女である。 昔から政治には関与せず、国の結界を張り、周辺地域へ祈りの巡礼を日々行っていた。 そんな中、聖女を擁護するはずの教会から魔女裁判を宣告されたのだった。 そこには教会が腐敗し、邪魔になった聖女を退けて、教会の用意した従順な女を聖女にさせようと画策したのがきっかけだった。

だいたい全部、聖女のせい。

荒瀬ヤヒロ
恋愛
「どうして、こんなことに……」 異世界よりやってきた聖女と出会い、王太子は変わってしまった。 いや、王太子の側近の令息達まで、変わってしまったのだ。 すでに彼らには、婚約者である令嬢達の声も届かない。 これはとある王国に降り立った聖女との出会いで見る影もなく変わってしまった男達に苦しめられる少女達の、嘆きの物語。

処理中です...