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第四章 執行
25 生き延びろ
しおりを挟む「アルテミスか? そのままで話を聞け」
元女王コノハ様の声だ。
秘密通路から、元女王の執務室に出た。部屋への出口を少しだけ開け、中を探る。
この出口を知っているのは、元女王コノハ様だけだ。
「私は、国王陛下を襲撃するなど、決していたしません。あれは深層魅了で操られた護衛兵による犯行です」
隙間から声を出し、濡れ衣だと説明する。
「私が現場にいなかったことは、近衛兵とチョビ侯爵が、証言してくれます」
逆に、現場にいれば犯行を防げただろう。
「だろうな。アルテミスがいない時を狙ったのだろう」
くそ! そこまで計画的な犯行なのか。
「ワガハイは、この部屋から出られない。公爵が非常事態を宣言し、部屋から出ることを禁止した」
国王に何かあった場合、その職務は、公爵が代行するルールだ。
元女王も軟禁状態で動けなかった。
「アルテミス、生き延びて、国王ニニギを支えてくれ」
逃亡してでも生き延びることが、国王のためだと言われた。
「分かりました。この命に替えても」
「まて、自分の命は大事にしろ。それがニニギの願いだ。近頃の若い者は、これだから困る。」
元女王の漏らすため息が聞こえた。
◇
(ここなら、しばらくは安全か)
ここは私の寝室だ。隣の執務室から廊下に出る扉には、廊下側からカギがかけられているはずだ。
寝室は、明るい色の木材をふんだんに使い、南の国のリゾートのような雰囲気だ。
国王の妻が使う予定で造られたことから、王族並みの作りになっている。
(敵が探し終えた場所に隠れるなんて、ありきたりだな)
隣り続きとなっている私の執務室へ、罠が無いか調べるために入る。
調度品は少ないが、白い壁の落ち着いた雰囲気の部屋だ。変わった様子は無い。
「護衛兵が入っていいエリアではないぞ」
廊下から近衛兵の声がした。
「近衛兵全員を拘束するよう命令が出ている」
激しく言い争う声が聞こえる。私の執務室の前で出入りを監視している護衛兵と、王族エリアを担当する近衛兵が言い争っている。
しかし、近衛兵を拘束する命令とは……これは、さすがにやり過ぎだろう。何を企んでいる?
(これではまるで軍事クーデターではないか)
扉のカギを開ける音がしたので、急いで自分の寝室へ隠れる。
「犯人は、この部屋に戻ってくると思うか?」
「そんな訳ないだろ、俺たち護衛兵が見張っているんだぜ」
「そうだよな」
私の執務室で何かを捜しているのか?
「チョビ侯爵は亡くなったそうだぞ」
チョビ侯爵が消されたという話が聞こえてきた。
用事が終わったのか、護衛兵は直ぐに出ていった。
残された私は、侯爵の無念を思い、枕に顔を埋めて祈った。
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