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第三章 闇属性による治癒
21 国王の危機
しおりを挟む「そいつを止めろ!」
元女王の執務室からの帰り道、廊下で近衛兵の怒号が飛び交っている。
「何をしている、ここは王族専用エリアだぞ!」
ここは、許可された者しか入ることができない場所だ。
正面から、近衛兵を振り切って、黒いカゲが迫る……目標は、私か!
「見つけた! アンと、ドウのかたき!」
傭兵二体を倒した報復? こいつが三体目の強化人間か!
迎え撃つ! 廊下での格闘戦が始まった。これまでの傭兵二体よりも、スピード、パワーともに上回っている。
「どうだ、トロ様の力! 邪魔者は消えてしまえ!」
「あたしたちの心は女性だけど、身体は男性ホルモンがいっぱいなんだよ、見なよこの筋肉。更にだ……」
「うぉ~!」
傭兵トロが、吠え始めた。体つきも、だんだんと異形化してきた。
身体増強剤を使っていたのか! このままでは押し込まれる。
「元気百二十%、リミッター解除」
身体強化魔法を上回る秘技を唱えた。魔法ではない。執行聖女だけが使える危険な秘技だ。
人間の体は、壊れないように無意識に負荷を制限している。それを、意識して無理やり解除することで、普段以上の力を発揮できる。
しかし、安全を無視しており、体へかかる負荷が異常に大きい。
これまでの傭兵との戦闘から、倒す準備はしてきた。
「元気百四十%、リミッター解除」
さらに制限を解除した。体がきしむ、苦しい!
傭兵トロのパンチを、正拳で迎え撃つ。
拳が激しくぶつかり合い、空気が燃え、ゆがんだ空気が輪のように広がり、廊下を破壊した。
スピードとパワーでは互角以上に戦っている。
しかし、傭兵は、すでに人間ではないため、心のスキが生まれず、執行魔法陣が発動しない。
「魅了!」
王弟殿下が駆けつけ、彼の魅了魔法で、光の粒が、傭兵を包む。
「なんだ?」
傭兵トロの動きが一瞬止まり、人間としての意識が戻った。
傭兵の足元で、六芒星が輝く。
「痛みが強く長いほど、貴女の罪は浄化され、天界へと導かれます」
傭兵の体中の骨が砕け、断末魔も上げられないまま、肉の塊へと変化していく。
「お幸せに」
私が最後の祈りを捧げると、肉の塊はチリとなって天に昇っていった。
◇
「アルテミス姉さま、ごめんなさい」
王弟殿下が、メイドである私に、頭を下げて謝罪した。
「俺が、男爵に魅了魔法を使ったから、図書館から治験者リストを持ち出したから、こんな大事に……」
王弟殿下が、脅迫とコソ泥の犯人だった。
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