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第二章 本物と偽物
13 地下室
しおりを挟む(この地下は、錆びた鉄の匂いがする)
薄暗い地下には、複数の部屋があった……
◇◇
薄く曇った空の下、王宮は、一辺が6キロ程度の大きな敷地に作られた巨大な建造物であり、周りは堀と城壁で囲まれている。
ここでは一万を超える人たちが働いている。
昨日、王宮の外れで、血の匂いがすることに、庭師が気付いた。
◇
そして今朝のことだ。
執務室で、国王は、沈んだ表情で、私に命令した。
「王宮で神隠しがあった」
神隠しの犯人を突き止めろと言っている。
王都の貧民街では、食う事にも困り、家族を売る話があると聞いている。しかし、王宮内で、人身売買などありえない。
「庭師からの報告は聞いておりますので、そこから糸をたぐります」
庭師は、血の匂いとともに、悪魔を見たとも言っているのが気になった。
◇
まずは、庭師から報告があった王宮の外れにきた。
「ここから先は、立ち入り禁止だ」
すでに、護衛兵が現場を封鎖していた。横柄な態度で、動きも鈍い。
やる気がないことが一目瞭然だ。このあたりを探しても、何も出てこないだろう。
護衛兵が探して見つかるくらいの物なら、たくさんいる庭師が、匂いの元を、すでに発見しているだろう。
こいつらは、何もなかったと、庭師の気のせいだと報告書を書いて、終わりにする気だ。
「この立ち入り禁止は、公爵様の命令で、神隠しの犯人を捜すためですか?」
血の匂いではなく、神隠しの話題で、カマをかけてみた。
「ゼブル公爵様は、消えたのはゴミだから、捜す必要はないという命令だとさ」
人をゴミと呼んだ!
「消えたのは、俺たちの同僚の娘なのにだ!」
公爵の言葉に、この護衛兵も怒りを隠していない。
神隠しと、血の匂いの二つの事件がつながっていると、恐ろしい考えが頭をよぎる。もう、手遅れかもしれない。
小さな事件が、大きな事件の始まりという事が往々にしてある。その小さな芽を摘むのが、私の役目だ。手遅れにならないうちにだ……
「護衛兵の配置が、少し甘いようだけど?」
血の匂いがしたのなら、風上の方向を怪しむべきなのに、明らかに事件性がない庭に配置されている。
「公爵様の命令だし、護衛兵にも危険な仕事など、やりたくないヤツは多いのさ」
「そうね、老後と……家族は大事にしなさい」
横柄だと思ったが、少しはまともだった護衛兵から、踵を返し離れた。
◇◇
王宮の地下には、隠された部屋、秘密の通路がある。
しかし、王族以外、一部の貴族を除き、知られていない。
私は、非常事態が発生した時に、国王を逃がすため、地下の存在を知っている。
地下通路をとおり、錆びた鉄の匂いをたどって、意外と早く地下室をみつけた。
人の声が聞こえる。
「まさか、血を吹き出すとはな。治癒魔法だったよな?」
「また、失敗したんだろ、あの聖女様」
ん、聖女が関係しているのか?
「お前らも、聖女の治癒は受けるなよ。深層魅了されて、捨て駒として使われるぞ」
「もちろんだ、恍惚な気分になれるのはいいが、窓から飛び降りるのはゴメンだ」
笑いながら話しているが、とんでもない内容だ!
(ここは、聖女の治癒魔法の試験場なのか?)
「不完全だから、闇属性の治癒魔法から技術を盗むんだってさ」
「治癒したヤツを深層魅了できるんなら、逆に便利じゃん、ヒャハハ」
吐き気のする内容だ。
どうしようか? 出て行って拘束するか。しかし、私の技は、天界へと送るもので、拘束は得意ではない。
「アン様によるカップの受け皿型の爆弾製造も、もうそろそろ終わりか?」
「あぁ、十分な数がそろった」
爆弾の製造現場でもあるのか。ここで暴れると、爆弾が暴発する恐れがある。
「お前は誰だ」
突然、後ろから声がした。
振り向くと、真っ黒なカゲが立っていた。しまった、気配にまったく気が付かなかった。
危険だ。狭い通路を避けて、室内へと逃げ込む。
「アン様」
他の奴らにも気付かれた。このカゲが、爆弾を製造したアンのようだ。
ローソク魔法で、地下室が明るくなった。カゲは、聖堂で元女王を襲った傭兵だった。顔は女性のように見えるが、筋肉質な体は男性のようだ。
傭兵アンが、攻撃を仕掛けてきた。仲間など、まったく気にしていない。逃げる私の周りで、次々に悪党が吹っ飛ばされる。
私は、傭兵の力に逆らわず、その力を利用し、関節をキメて投げる。久しぶりに、意識がヒリヒリする感じの格闘戦を味わう。
傭兵が業を煮やして、地下室内でファイヤーボールを発動させた。自爆するつもりか!
激しい轟音で、耳が一時的にキーンとなった。
天井が吹き飛び、曇り空が見える。
今度のバリア魔法も、ところどころ壊れた。まだまだ改良の余地がある。まぁ、助かっただけでも、儲けものだ。
ガレキを使って外へ飛び出す。薄く曇った空の下……
あ、風上で、さっきの護衛兵が腰を抜かしている。まぁ、この距離なら、彼を守る必要はない。
傭兵アンも飛び出してきた。呆れるほどタフだ。
黒い衣装は燃えて、強化人間の異常な筋肉が見える。
でも、ここなら攻撃に集中できるから、昨日の私とは、切れ味が違う。
「ググ……」
ハイスピードな私の攻撃に、傭兵アンは翻弄された。
焦っている。彼女の心にスキが出来た。
チャンスだ。
傭兵の足元で、六芒星が輝く。
傭兵アンの体中の骨が砕け、断末魔も上げられないまま、肉の塊へと変化していく。
「痛みが強く長いほど、貴女の罪は浄化され、天界へと導かれます」
「お幸せに」
私が最後の祈りを捧げると、肉の塊はチリとなって天に昇っていった。
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