13 / 30
第二章 本物と偽物
13 地下室
しおりを挟む(この地下は、錆びた鉄の匂いがする)
薄暗い地下には、複数の部屋があった……
◇◇
薄く曇った空の下、王宮は、一辺が6キロ程度の大きな敷地に作られた巨大な建造物であり、周りは堀と城壁で囲まれている。
ここでは一万を超える人たちが働いている。
昨日、王宮の外れで、血の匂いがすることに、庭師が気付いた。
◇
そして今朝のことだ。
執務室で、国王は、沈んだ表情で、私に命令した。
「王宮で神隠しがあった」
神隠しの犯人を突き止めろと言っている。
王都の貧民街では、食う事にも困り、家族を売る話があると聞いている。しかし、王宮内で、人身売買などありえない。
「庭師からの報告は聞いておりますので、そこから糸をたぐります」
庭師は、血の匂いとともに、悪魔を見たとも言っているのが気になった。
◇
まずは、庭師から報告があった王宮の外れにきた。
「ここから先は、立ち入り禁止だ」
すでに、護衛兵が現場を封鎖していた。横柄な態度で、動きも鈍い。
やる気がないことが一目瞭然だ。このあたりを探しても、何も出てこないだろう。
護衛兵が探して見つかるくらいの物なら、たくさんいる庭師が、匂いの元を、すでに発見しているだろう。
こいつらは、何もなかったと、庭師の気のせいだと報告書を書いて、終わりにする気だ。
「この立ち入り禁止は、公爵様の命令で、神隠しの犯人を捜すためですか?」
血の匂いではなく、神隠しの話題で、カマをかけてみた。
「ゼブル公爵様は、消えたのはゴミだから、捜す必要はないという命令だとさ」
人をゴミと呼んだ!
「消えたのは、俺たちの同僚の娘なのにだ!」
公爵の言葉に、この護衛兵も怒りを隠していない。
神隠しと、血の匂いの二つの事件がつながっていると、恐ろしい考えが頭をよぎる。もう、手遅れかもしれない。
小さな事件が、大きな事件の始まりという事が往々にしてある。その小さな芽を摘むのが、私の役目だ。手遅れにならないうちにだ……
「護衛兵の配置が、少し甘いようだけど?」
血の匂いがしたのなら、風上の方向を怪しむべきなのに、明らかに事件性がない庭に配置されている。
「公爵様の命令だし、護衛兵にも危険な仕事など、やりたくないヤツは多いのさ」
「そうね、老後と……家族は大事にしなさい」
横柄だと思ったが、少しはまともだった護衛兵から、踵を返し離れた。
◇◇
王宮の地下には、隠された部屋、秘密の通路がある。
しかし、王族以外、一部の貴族を除き、知られていない。
私は、非常事態が発生した時に、国王を逃がすため、地下の存在を知っている。
地下通路をとおり、錆びた鉄の匂いをたどって、意外と早く地下室をみつけた。
人の声が聞こえる。
「まさか、血を吹き出すとはな。治癒魔法だったよな?」
「また、失敗したんだろ、あの聖女様」
ん、聖女が関係しているのか?
「お前らも、聖女の治癒は受けるなよ。深層魅了されて、捨て駒として使われるぞ」
「もちろんだ、恍惚な気分になれるのはいいが、窓から飛び降りるのはゴメンだ」
笑いながら話しているが、とんでもない内容だ!
(ここは、聖女の治癒魔法の試験場なのか?)
「不完全だから、闇属性の治癒魔法から技術を盗むんだってさ」
「治癒したヤツを深層魅了できるんなら、逆に便利じゃん、ヒャハハ」
吐き気のする内容だ。
どうしようか? 出て行って拘束するか。しかし、私の技は、天界へと送るもので、拘束は得意ではない。
「アン様によるカップの受け皿型の爆弾製造も、もうそろそろ終わりか?」
「あぁ、十分な数がそろった」
爆弾の製造現場でもあるのか。ここで暴れると、爆弾が暴発する恐れがある。
「お前は誰だ」
突然、後ろから声がした。
振り向くと、真っ黒なカゲが立っていた。しまった、気配にまったく気が付かなかった。
危険だ。狭い通路を避けて、室内へと逃げ込む。
「アン様」
他の奴らにも気付かれた。このカゲが、爆弾を製造したアンのようだ。
ローソク魔法で、地下室が明るくなった。カゲは、聖堂で元女王を襲った傭兵だった。顔は女性のように見えるが、筋肉質な体は男性のようだ。
傭兵アンが、攻撃を仕掛けてきた。仲間など、まったく気にしていない。逃げる私の周りで、次々に悪党が吹っ飛ばされる。
私は、傭兵の力に逆らわず、その力を利用し、関節をキメて投げる。久しぶりに、意識がヒリヒリする感じの格闘戦を味わう。
傭兵が業を煮やして、地下室内でファイヤーボールを発動させた。自爆するつもりか!
激しい轟音で、耳が一時的にキーンとなった。
天井が吹き飛び、曇り空が見える。
今度のバリア魔法も、ところどころ壊れた。まだまだ改良の余地がある。まぁ、助かっただけでも、儲けものだ。
ガレキを使って外へ飛び出す。薄く曇った空の下……
あ、風上で、さっきの護衛兵が腰を抜かしている。まぁ、この距離なら、彼を守る必要はない。
傭兵アンも飛び出してきた。呆れるほどタフだ。
黒い衣装は燃えて、強化人間の異常な筋肉が見える。
でも、ここなら攻撃に集中できるから、昨日の私とは、切れ味が違う。
「ググ……」
ハイスピードな私の攻撃に、傭兵アンは翻弄された。
焦っている。彼女の心にスキが出来た。
チャンスだ。
傭兵の足元で、六芒星が輝く。
傭兵アンの体中の骨が砕け、断末魔も上げられないまま、肉の塊へと変化していく。
「痛みが強く長いほど、貴女の罪は浄化され、天界へと導かれます」
「お幸せに」
私が最後の祈りを捧げると、肉の塊はチリとなって天に昇っていった。
0
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説
婚約破棄……そちらの方が新しい聖女……ですか。ところで殿下、その方は聖女検定をお持ちで?
Ryo-k
ファンタジー
「アイリス・フローリア! 貴様との婚約を破棄する!」
私の婚約者のレオナルド・シュワルツ王太子殿下から、突然婚約破棄されてしまいました。
さらには隣の男爵令嬢が新しい聖女……ですか。
ところでその男爵令嬢……聖女検定はお持ちで?
冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい
一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。
しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。
家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。
そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。
そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。
……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──
その聖女、娼婦につき ~何もかもが遅すぎた~
ノ木瀬 優
恋愛
卒業パーティーにて、ライル王太子は、レイチェルに婚約破棄を突き付ける。それを受けたレイチェルは……。
「――あー、はい。もう、そういうのいいです。もうどうしようもないので」
あっけらかんとそう言い放った。実は、この国の聖女システムには、ある秘密が隠されていたのだ。
思い付きで書いてみました。全2話、本日中に完結予定です。
設定ガバガバなところもありますが、気楽に楽しんで頂けたら幸いです。
R15は保険ですので、安心してお楽しみ下さい。
辺境地で冷笑され蔑まれ続けた少女は、実は土地の守護者たる聖女でした。~彼女に冷遇を向けた街人たちは、彼女が追放された後破滅を辿る~
銀灰
ファンタジー
陸の孤島、辺境の地にて、人々から魔女と噂される、薄汚れた少女があった。
少女レイラに対する冷遇の様は酷く、街中などを歩けば陰口ばかりではなく、石を投げられることさえあった。理由無き冷遇である。
ボロ小屋に住み、いつも変らぬ質素な生活を営み続けるレイラだったが、ある日彼女は、住処であるそのボロ小屋までも、開発という名目の理不尽で奪われることになる。
陸の孤島――レイラがどこにも行けぬことを知っていた街人たちは彼女にただ冷笑を向けたが、レイラはその後、誰にも知られずその地を去ることになる。
その結果――?
元聖女だった少女は我が道を往く
春の小径
ファンタジー
突然入ってきた王子や取り巻きたちに聖室を荒らされた。
彼らは先代聖女様の棺を蹴り倒し、聖石まで蹴り倒した。
「聖女は必要がない」と言われた新たな聖女になるはずだったわたし。
その言葉は取り返しのつかない事態を招く。
でも、もうわたしには関係ない。
だって神に見捨てられたこの世界に聖女は二度と現れない。
わたしが聖女となることもない。
─── それは誓約だったから
☆これは聖女物ではありません
☆他社でも公開はじめました
パーティー会場で婚約破棄するなんて、物語の中だけだと思います
みこと
ファンタジー
「マルティーナ!貴様はルシア・エレーロ男爵令嬢に悪質な虐めをしていたな。そのような者は俺の妃として相応しくない。よって貴様との婚約の破棄そして、ルシアとの婚約をここに宣言する!!」
ここ、魔術学院の創立記念パーティーの最中、壇上から声高らかに宣言したのは、ベルナルド・アルガンデ。ここ、アルガンデ王国の王太子だ。
何故かふわふわピンク髪の女性がベルナルド王太子にぶら下がって、大きな胸を押し付けている。
私、マルティーナはフローレス侯爵家の次女。残念ながらこのベルナルド王太子の婚約者である。
パーティー会場で婚約破棄って、物語の中だけだと思っていたらこのザマです。
設定はゆるいです。色々とご容赦お願い致しますm(*_ _)m
大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います
騙道みりあ
ファンタジー
魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。
その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。
仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。
なので、全員殺すことにした。
1話完結ですが、続編も考えています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる