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第二章 本物と偽物

08 偽物と真犯人と本物

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「伯爵の暴走を止めるため、貴族たちと護衛兵が立ち上がったらしい」

「聖女に恨みをもっていた護衛兵たちから、貴族が聖女を守ったらしい」

「二年前に闇属性の治癒を暴走させたのは、伯爵の仕業らしい」

 王宮の廊下を歩いていると、あちこちから、伯爵襲撃事件のウワサ話に興じる貴族や使用人たちの声が聞こえてくる。

 全て、根も葉もないウワサ話である。

 ◇

「伯爵を刺した男爵は、闇属性での魅了を研究していたため、意識が暴走したと捜査結果が出た」

 国王が、納得いかない様子で吐き捨てた。

 男爵の部屋からは、深層魅了を可能にする研究をしていたとの、物的証拠が見つかった……

 でっちあげだ。そんな勉強熱心な男ではない。


「男爵や、伯爵にも家族がいる。トカゲの尻尾切りをした真犯人を捕まえて、真実を公表したいものだ」

 国王は、私に、真犯人を捕まえろと言っている。

「承知しました」

 彼の意志に沿うため、そして、私の正義を貫くため、真犯人を捕まえてみせる。

 ◇

 私は自分の執務室へと戻り、一人考える。

 証人は消され、捜査している護衛兵は節穴同然の目だ……たぐる糸が無い。

「何かを見落としているのか、騙されているのか」

 事件を最初から洗い直す必要がある。


 二年前の闇魔法暴走事件は、計画的な犯罪の匂いがプンプンする。

 闇属性を使う侯爵たちを失脚させたかったのか……
 特に、夫人を失ったチョビ侯爵は、今も公の場に姿を見せない。

 先日の伯爵襲撃事件も、計画的な犯罪の匂いがするが、荒っぽい手口だった……
 闇魔法暴走事件ほどではないが、二人の命を奪っている。

 護衛兵の不可解な最後、彼の同僚に刺客を送ったこともそうだ……
 犯人は、人の命を何とも思っておらず、正義感が全くない!

 証拠はないが、これまで多くの犯罪者を天界に導いた私の……そう、勘というやつだ。


 襲撃予告はどうだ?

 男爵を魅了し、伯爵に何かの公表を迫った……
 犯人の怒り、いや、焦っていたのか?

 人の命を重んじ、犠牲者を出さないようにと、何かを成そうとする……
 子供っぽく青臭いが、正義感らしきものを感じる。

 これも……私の勘だ。


 正義感が無い犯罪と、正義感がある犯罪か……
 相反している。これまでにない犯罪心理なのか。

 動機は、恨みか、金か、愉快犯か。

 誰が得をしたのか……

 二年前から、光属性が主流を占めるようになった。しかし、光属性の貴族なんて相当数いる。絞り切れない。

 聖女はどうだ? まだ十歳だぞ。
 しかし、王弟殿下のように大人びた十歳もいるか……


 もしかして、犯人は複数犯なのではないか?
 それなら、相反する犯罪も説明がつく。

 二年前の闇魔法暴走事件、その真実を隠蔽するための事件……
 真実を公表しようとする事件だ。


「証拠はない、執行聖女としての……勘だ」


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