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第一章 伯爵脅迫事件

06 幕引き

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「襲撃を未然に防げなかったか」

 国王の口が重い。

 いつもは派手な雰囲気の国王執務室も、空気が重く沈んでいる。今は、国王と私の二人きりで、少し緊張を緩めている状況なのに。


「申し訳ありません」

 私は、襲撃を防ぐ責任者ではないが、国王を危険にさらした責は負わねばならない。


「いや、アルテミスを責めているわけではない」

 国王に届いた報告では……

 救護室の少し硬いベッドで横たわる伯爵は、命に関わるキズではなかったが、口を閉ざしたまま、何も答えないそうだ。

 投獄された男爵は、何も記憶がないと、喚き散らしているそうだ。

 そして、狂った護衛兵や貴族たちも投獄されたが、会場での記憶はないそうだ。

 不思議なのは、公爵と聖女に、ケガひとつないという事だ。まるで、襲撃内容を知っているかのように、会場から逃げ出せていた。


「集団を魅了したことから、犯人はS級魔導士だと思われます」

「しかし、会場の中にS級魔導士はいませんし、そんな膨大な魔力も感じませんでした」

 私の考えを国王へ報告する。


「ただ、集団が魅了される直前、私には、耳障りな高音が聞こえました」

「耳障りな高音? 聞こえなかったな」

 現場にいた近衛兵にも聞いたが、私以外には聞こえない高音だった。

「それが引き金になる『深層魅了』だと思われます」

「深層魅了? 聞かない言葉だな」

「何らかの方法で、自分自身が認識できない深層へ、魅了魔法を隠しておき、引き金によって発動させる禁呪であります」

 そう、「禁呪」である。

 クーデターや集団テロなどの組織的大規模犯罪に使われる恐れがあるため、一般には知られていない技術である。一説には、異世界から来た技術だと言われている。

「隠すための何らかの方法とは?」

「不明です。今後は、そこに焦点を当てて捜査することに致します。まずは、伯爵と男爵を尋問する許可をください」

「分かった、許可する。くれぐれも、危険のない範囲で行なうのだぞ」

 国王の心遣いが、身に染みる。


  国王とは、王立学園の高等部の同級生だ。

 私は友好国からの留学生であり、何も分からない私を気にかけてくれ、卒業後の王宮メイドの職を世話してくれたのも、彼だった。

 二年前、彼も流行り病にかかってしまった時、私が闇属性魔法で治癒したことから、私たちの距離は急速に縮まった。

 彼は、十九歳という若さで国王という地位に就き、激務をサポートして欲しいと、私を専属メイドとしてスカウトした。

 専属メイドは、通常のメイドのように生活をサポートするのではなく、特殊な仕事を担当する、いわば便利屋だ。

 友好国で、中等部まで執行聖女になるために修行したが、まさか、メイドになるとは思っていなかった。

 彼のスカウトが無ければ、今頃は、友好国からもらった聖女の称号で、諸国の教会や聖堂をめぐって、布教活動をしていただろう。

 ◇

「コンコン」国王執務室の扉がノックされ、近衛兵が入ってきた。

「国王陛下に緊急の報告です。救護室で治療中の伯爵様と、投獄中の男爵が、息を引き取りました」

「!……」

 犯人へと、つながる糸が切れた。

「詳細は調査中ですが、刺客の仕業だと思われます」

 やられた……王宮に忍び込んだ犯人は、よほどの大物だ。


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