3 / 30
第一章 伯爵脅迫事件
03 予告
しおりを挟む「部下である護衛兵が飛び降りた事件について、早急に原因を調べろ」
国王が命じた。国王は金髪碧眼で、二十歳と若く、イケメンである。
命じた相手は、護衛兵の上司であり、栗毛の伯爵である。年齢は三十歳くらいか。
伯爵の腰巾着である男爵も付き従っている。こちらも、栗毛で三十歳くらいに見える。
国王執務室は、意外と派手だ。壁や調度品に金の装飾が施され、落ち着きがない。
その中で、執務用の古い机だけが、質実剛健だと言わんばかりに、堅牢な存在を示している。
「申し上げます。あの護衛兵は、隣国のスパイによって魅了魔法をかけられていました」
男爵が、伯爵の代わりに答えた。
「国王陛下のお心を乱す事件ではないと思われます」
「……その隣国のスパイを連れて来い、尋問する」
国王は不満顔だ。
「それが、外交特権がありましたので、強制送還しております」
外交特権ということは、隣国の外交官ということであり、ずいぶんと高い地位のスパイだ。これでは、外交問題に発展するため、国王といえど、手出しが出来ない。
あれ? 男爵の具合が悪そうだ。急に、目の焦点が合わなくなった。
「う……伯爵、なぜ、黙っているのですか?」
男爵が伯爵に、無礼な態度で話しかけた。目はうつろなままだ。
「国王陛下に、全てを話しましょうよ」
「……何のことだ」
伯爵の顔色が変わった。
「貴方も、脅迫されているようですね」
男爵の目の焦点が、伯爵の目に合った。
「伯爵は、真実を知っていますよね……数日後に、聖女の活躍を祝うパーティーがあるそうですが」
言葉に出てきた「真実」とは何だ?
男爵が白目をむいた。眼球が正常に動かなくなっている……これは、強い魅了魔法への拒否反応だ。
「男爵、どうした、何を言っているんだ」
伯爵の顔に浮かぶのは、恐怖だ。「真実」という言葉に、心当たりがあるということだ。
「その時まで、真実を公表しないと……黒幕は地獄に落ちますよ……」
男爵は、自分の首に手を当て、斬る仕草をし、床に崩れ落ちた。
私は、扉の外の近衛兵を呼び、男爵を救護室へ運ぶよう依頼した。
「二年前の悪夢が、また始まるのか……」
伯爵は、ぼう然と立ち尽くしている。
1
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説

とりかえばや聖女は成功しない
猫乃真鶴
ファンタジー
キステナス王国のサレバントーレ侯爵家に生まれたエクレールは、ミルクティー色の髪を持つという以外には、特別これといった特徴を持たない平凡な少女だ。
ごく普通の貴族の娘として育ったが、五歳の時、女神から神託があった事でそれが一変してしまう。
『亜麻色の乙女が、聖なる力でこの国に繁栄をもたらすでしょう』
その色を持つのは、国内ではエクレールだけ。神託にある乙女とはエクレールの事だろうと、慣れ親しんだ家を離れ、神殿での生活を強制される。
エクレールは言われるがまま厳しい教育と修行を始めるが、十六歳の成人を迎えてもエクレールに聖なる力は発現しなかった。
それどころか成人の祝いの場でエクレールと同じ特徴を持つ少女が現れる。しかもエクレールと同じエクレール・サレバントーレと名乗った少女は、聖なる力を自在に操れると言うのだ。
それを知った周囲は、その少女こそを〝エクレール〟として扱うようになり——。
※小説家になろう様にも投稿しています
追放された偽物聖女は、辺境の村でひっそり暮らしている
黎
ファンタジー
辺境の村で人々のために薬を作って暮らすリサは“聖女”と呼ばれている。その噂を聞きつけた騎士団の数人が現れ、あらゆる疾病を治療する万能の力を持つ聖女を連れて行くべく強引な手段に出ようとする中、騎士団長が割って入る──どうせ聖女のようだと称えられているに過ぎないと。ぶっきらぼうながらも親切な騎士団長に惹かれていくリサは、しかし実は数年前に“偽物聖女”と帝都を追われたクラリッサであった。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた
黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。
その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。
曖昧なのには理由があった。
『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。
どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。
※小説家になろうにも随時転載中。
レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。
それでも皆はレンが勇者だと思っていた。
突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。
はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。
ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

だいたい全部、聖女のせい。
荒瀬ヤヒロ
恋愛
「どうして、こんなことに……」
異世界よりやってきた聖女と出会い、王太子は変わってしまった。
いや、王太子の側近の令息達まで、変わってしまったのだ。
すでに彼らには、婚約者である令嬢達の声も届かない。
これはとある王国に降り立った聖女との出会いで見る影もなく変わってしまった男達に苦しめられる少女達の、嘆きの物語。


「次点の聖女」
手嶋ゆき
恋愛
何でもかんでも中途半端。万年二番手。どんなに努力しても一位には決してなれない存在。
私は「次点の聖女」と呼ばれていた。
約一万文字強で完結します。
小説家になろう様にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる