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プロローグ ◇◇◇

01 執行聖女

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「あなたの悪行は、ここまでよ」

 月明りの下、王宮の中庭で、逃げてきた男へ、私は冷たく言った。

 男は、足を止め、肩で息をしている……コイツは小者だな。

「きつい顔の女だな、誰だお前? 道を開けないと、女であっても、痛い目を見るぜ」

 男の服装は真っ黒だ……真っ黒は、月明りの下では逆に目立つ。緑あふれる庭から逃げるつもりなら、迷彩色や深い緑色にするべきだ。


「国王専属メイド、執行聖女よ」

 私の名乗りに、刺客の表情が強張る。

 執行許可証を持つ執行聖女は、犯罪者の刑を裁判を経ずに執行することを、大司教様から許された特別な人間だからだ。

 一見すると、紺色のロングドレス風メイド服、白色のメイドエプロンにプリム、メイドグローブと、どこから見ても王宮で働くメイドだ。

 月光に輝く金髪、青い瞳に、平均的な顔立ち……貴族のような美人ではないが、まぁまぁだと思う。


 刺客の後ろから、護衛兵一人が追い付いてきた。

「気をつけろ! そいつは同僚を一人、手にかけた」

 物騒な話であるが、だからこそ私が出てきた。

「さて、臓器密売の話を聞かせてもらおうかしら」

 この刺客には、臓器密売をしているというウワサがある。こいつは、中身まで真っ黒な犯罪者だ。


「臓器密売……知らねえな」

「では、依頼主の名前を聞かせてもらいましょうか」

「依頼主……知らねえな」

 ん? この答え方は、なにかおかしい。まさか、操られているのか。

「貴方の名前は?」

「名前……知らねえな……俺は誰だ?」

 この刺客は、記憶が無くなっている。強い魅了魔法をかけられたからだ……今夜も無駄足だったか。


「うぉ~!」

 突然、刺客が吠え出した。身体増強剤を使ったのか!
 体つきが猛獣のように大きくなり、私に襲い掛かってきた。


「私のほうが早かったようね」

 刺客の足元で、六芒星が輝く。すでに、こいつが人間であった時に、私は魔法陣を発動させていた。

 刺客の体中の骨が砕け、断末魔も上げられないまま、肉の塊へと変化していく。

「痛みが強く長いほど、貴方の罪は浄化され、天界へと導かれます」

 執行許可証を持つ執行令嬢は、厳しい修行を経て、罪人を天界へ送る力を得たのである。

「お幸せに」

 私が最後の祈りを捧げると、肉の塊はチリとなって天に昇っていった。


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