上 下
80 / 80
第八章 最終七日目

80 女神の祝福

しおりを挟む
 ありえないほどの偶然が重なることがある。
 その確率は計算上ではおよそ30兆分の1以下とされ、隕石が地球に落下して人類が滅亡するよりも低い確率とされているのである。
 そんな不思議な偶然の一致を二つほど紹介しよう。
 バミューダのある路上で、ある日バイクとタクシーが衝突事故を起こした。
 バイクの方は兄弟で2人乗りをしており、タクシーにはお客が1人乗っていたので、この事故に巻きこまれた者は合計で4人。しかし幸いなことに4人は怪我こそすれ、死者は出ずに済んだ。

 そしてその事故から1年の月日が経過した。
 それぞれ傷も癒(い)え、別々の日々を送っていた。あの時のバイクの兄弟はまた同じように2人乗りで走りを楽しんでいた。タクシーの運転手ももちろん相変わらず仕事を続けていた。

 ある日、その運転手がタクシーを走らせていると、道の先の方で手が挙がった。
 タクシーに乗ろうとしているお客である。すぐに車を寄せてお客を拾おうとしたが、運の悪いことに、自分より先にもう一台タクシーが走っており、そっちの方がお客を乗せて走り去ってしまった。

 「ちっ」と舌打ちして、再び車を走らせる。しばらく走っていると、また路上で手が挙がった。今度は自分の前にタクシーはいない。路肩に車を寄せると、今度こそお客が乗ってきた。

 「どちらまで行きましょうか?」と聞いたが返事がない。
 不審に思った運転手は「あのー、どちらまででしょうか?」と、今度は振り向いて聞いてみた。
 後ろの座席には驚いたような顔をした1人の男が座っていた。

 「あっ!お客さんは・・!」
 1年前の事故の時のお客だった。全く偶然にもあの時のお客を拾ってしまったのだ。

 双方ににがい思い出がよぎる。なんとなく嫌な感じがしながらも、ようやく行き先を告げられてタクシーは発進した。業務的な会話を一言二言したが、後は沈黙になってしまった。

 「あの場所に行くとなると、どうしてもあの道を通っていくことになるな・・。」
 運転手も心の中で厭だなと思ったが、あえて言葉には出さなかった。喜ばしくない再会をして、嫌な思い出のある道を再び通らなければならない。

 あの日あの時と同じ風景が車の外を流れていく。まもなく事故現場にさしかかった。と、その途端、後ろのお客が「あっ!」と声をあげた。

 向こうの方から、あの時のバイクにあの時の兄弟が乗って、まっすぐこっちへ突っ込んでくるのだ。

 「そんなバカな!」
 4人が4人ともそう思ったかも知れない。だがあっと思う間もなく、バイクとタクシーは再び衝突してしまった。まるで吸いよせられるかのように。

 そして同じ状況、同じ人間による全く同じ事故が再び起こってしまった。ただ一つ違ったことは、今回の事故でバイクの兄弟の方は不幸にも死亡してしまったことであった。



 A君が小5のとき、通学路の交差点を渡っていたとき、右折車が横断中のA君めがけて突っ込んできた。 

 まるで催眠術にかかったように体が動かず、突っ込んでくる車を呆然と見ていたら、(あらぬ方向を見ているドライバーの顔まではっきり見えた) 後ろから突き飛ばされ、危機一髪A君は難を逃れた。 

 が、A君を突き飛ばしてくれた大学生は、車に跳ね飛ばされたらしい。 

 泣きながらA君は近所の家に駆け込んで、救急車と警察を呼んでもらい、その後警察の事故処理係に、出来る限り状況説明をした。 

 後日、家に警察から電話があり、大学生の入院先を教えられ、A君は母親と見舞いに行って御礼を言った。 
 
 幸い大学生は元気そうですぐに退院できそうだった。

 中学1年のとき、父親の仕事の都合で同県内の市外(というか、山の中)へと引っ越したA君は、そこで先生となっていた、件の大学生と再会した。 

 お互いに驚き再会を喜びつつ、3年間面倒を見てもらって、(なんせ田舎の分校なので、先生はずっと同じなのだ)A君は中学を卒業し、高校進学と供に市内に戻った。 

 地元の教育大学に進学したA君は、教育実習先の小学校へ向かう途中の交差点で、自分の前を渡っている小学生の女の子に、右折車が今まさに突っ込もうとしているのをみた。 

 次に、ドライバーが携帯電話で喋りながら運転しているのが見えた。 
 
 スローモーションみたいに流れる情景に、ウソだろ・・・と思いつつ、とっさに女の子を突き飛ばしたら、案の定自分が跳ね飛ばされた。 

 コンクリートの地面に横たわって、泣いてる女の子を見ながら、もしかしたらあのとき先生もこんな景色を見たのかな・・・とか考えつつA君は意識を失った。 

 翌日入院先に、A君が助けた女の子の親が見舞いにやって来た。 

 すると驚いたことに彼女の親は中学時代の恩師であり、俺の命の恩人そのヒトだった。 

 「これで借りは返せましたね」とA君が言うと、「バカ・・・最初から、借りも貸しも無いよ」と先生は言った。 

 ベットの周りのカーテンを閉めて、A君と先生は無言で抱き合って泣いたという。 
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

【完結】「私は善意に殺された」

まほりろ
恋愛
筆頭公爵家の娘である私が、母親は身分が低い王太子殿下の後ろ盾になるため、彼の婚約者になるのは自然な流れだった。 誰もが私が王太子妃になると信じて疑わなかった。 私も殿下と婚約してから一度も、彼との結婚を疑ったことはない。 だが殿下が病に倒れ、その治療のため異世界から聖女が召喚され二人が愛し合ったことで……全ての運命が狂い出す。 どなたにも悪意はなかった……私が不運な星の下に生まれた……ただそれだけ。 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します。 ※他サイトにも投稿中。 ※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。 「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」 ※小説家になろうにて2022年11月19日昼、日間異世界恋愛ランキング38位、総合59位まで上がった作品です!

神のいとし子は追放された私でした〜異母妹を選んだ王太子様、今のお気持ちは如何ですか?〜

星里有乃
恋愛
「アメリアお姉様は、私達の幸せを考えて、自ら身を引いてくださいました」 「オレは……王太子としてではなく、一人の男としてアメリアの妹、聖女レティアへの真実の愛に目覚めたのだ!」 (レティアったら、何を血迷っているの……だって貴女本当は、霊感なんてこれっぽっちも無いじゃない!)  美貌の聖女レティアとは対照的に、とにかく目立たない姉のアメリア。しかし、地味に装っているアメリアこそが、この国の神のいとし子なのだが、悪魔と契約した妹レティアはついに姉を追放してしまう。  やがて、神のいとし子の祈りが届かなくなった国は災いが増え、聖女の力を隠さなくなったアメリアに救いの手を求めるが……。 * 2023年01月15日、連載完結しました。 * ヒロインアメリアの相手役が第1章は精霊ラルド、第2章からは隣国の王子アッシュに切り替わります。最終章に該当する黄昏の章で、それぞれの関係性を決着させています。お読みくださった読者様、ありがとうございました! * 初期投稿ではショートショート作品の予定で始まった本作ですが、途中から長編版に路線を変更して完結させました。 * この作品は小説家になろうさんとアルファポリスさんに投稿しております。 * ブクマ、感想、ありがとうございます。

愚か者の話をしよう

鈴宮(すずみや)
恋愛
 シェイマスは、婚約者であるエーファを心から愛している。けれど、控えめな性格のエーファは、聖女ミランダがシェイマスにちょっかいを掛けても、穏やかに微笑むばかり。  そんな彼女の反応に物足りなさを感じつつも、シェイマスはエーファとの幸せな未来を夢見ていた。  けれどある日、シェイマスは父親である国王から「エーファとの婚約は破棄する」と告げられて――――?

「 この国を出て行け!」と婚約者に怒鳴られました。さっさと出て行きますわ喜んで。

十条沙良
恋愛
この国の幸せの為に頑張ってきた私ですが、もう我慢しません。

【完結】捨ててください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
ずっと貴方の側にいた。 でも、あの人と再会してから貴方は私ではなく、あの人を見つめるようになった。 分かっている。 貴方は私の事を愛していない。 私は貴方の側にいるだけで良かったのに。 貴方が、あの人の側へ行きたいと悩んでいる事が私に伝わってくる。 もういいの。 ありがとう貴方。 もう私の事は、、、 捨ててください。 続編投稿しました。 初回完結6月25日 第2回目完結7月18日

聖女に負けた侯爵令嬢 (よくある婚約解消もののおはなし)

蒼あかり
恋愛
ティアナは女王主催の茶会で、婚約者である王子クリストファーから婚約解消を告げられる。そして、彼の隣には聖女であるローズの姿が。 聖女として国民に、そしてクリストファーから愛されるローズ。クリストファーとともに並ぶ聖女ローズは美しく眩しいほどだ。そんな二人を見せつけられ、いつしかティアナの中に諦めにも似た思いが込み上げる。 愛する人のために王子妃として支える覚悟を持ってきたのに、それが叶わぬのならその立場を辞したいと願うのに、それが叶う事はない。 いつしか公爵家のアシュトンをも巻き込み、泥沼の様相に……。 ラストは賛否両論あると思います。納得できない方もいらっしゃると思います。 それでも最後まで読んでいただけるとありがたいです。 心より感謝いたします。愛を込めて、ありがとうございました。

「君の作った料理は愛情がこもってない」と言われたのでもう何も作りません

今川幸乃
恋愛
貧乏貴族の娘、エレンは幼いころから自分で家事をして育ったため、料理が得意だった。 そのため婚約者のウィルにも手づから料理を作るのだが、彼は「おいしいけど心が籠ってない」と言い、挙句妹のシエラが作った料理を「おいしい」と好んで食べている。 それでも我慢してウィルの好みの料理を作ろうとするエレンだったがある日「料理どころか君からも愛情を感じない」と言われてしまい、もう彼の気を惹こうとするのをやめることを決意する。 ウィルはそれでもシエラがいるからと気にしなかったが、やがてシエラの料理作りをもエレンが手伝っていたからこそうまくいっていたということが分かってしまう。

お飾りの聖女は王太子に婚約破棄されて都を出ることにしました。

高山奥地
ファンタジー
大聖女の子孫、カミリヤは神聖力のないお飾りの聖女と呼ばれていた。ある日婚約者の王太子に婚約破棄を告げられて……。

処理中です...