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第七章 土曜

68 友好国の聖女

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「フラン!」

 サクラが、聖女の泉に走ってきた。かなり慌てている。


「あら、驚きました。面白い令嬢ですね」

 聖女ソフィアが、サクラを見て、つぶやいた。

「お顔が、封印された魔王とソックリ」

「魔王!」

 え! そういえば、コノハ様もサクラを見て驚いていた。でも、魔王は、ないでしょ!


「貴女は……まさか、クロガネ!」

 彼女の言葉に、私とサクラは、これまでにないくらい驚いた。

 ひと目で、サクラが王弟殿下だと見抜いた……聖女ソフィアは、只者ではないようだ。

 ◇

「ここが、クロガネが召喚に失敗した場所ね」

 友好国からの聖女ソフィアが、召喚の聖堂を吟味した。床面に描かれた魔法陣の六ボウ星から、何かを感じ取っているようだ。

「失敗ではない、邪魔されたんだ」

「クロガネは、異世界の聖女と結婚したかったの?」

「イベントの目玉にする予定だった……」

 サクラ姿の王弟殿下と、聖女ソフィアは仲が良い。というか、聖女ソフィアがリードしている。


「聖女様と王弟殿下は付き合っているのですか?」

 思い切って、訊いてみた。


「まさか、オレは独身を貫くと、決めたんだ、ウソではない」

 サクラは、否定した。

「クロガネが留学していたとき、付き合ったけどね」

 聖女ソフィアは、認めた……覚悟はしていたけど、一瞬、目の前が暗くなった。

「やめろ、昔のことだ」

 動揺する王弟殿下……本当なんだ。

「聖女様は、フラれたのですか?」

「まさか、振ったのよ」

 う~ん、たぶん本当だ。侍女たちから聞いていたウワサと合致する。

 でも、素直に喜べない。


「それから、私は『聖女』と呼ばれているけど、本当は『賢者』なのよ」

 賢者? 魔法使いであり、勇者を補佐する冒険者のことだ。


「フランソワーズ様は、この王国の王子と婚約すると聞いていたんだけど、誰か想い人がいるの?」

 聖女ソフィアが私の顔をのぞき込んだ。

「私は、二人の王子のどちらかと結婚なんて、嫌です」

 心に芽生えた怒りを、王弟殿下にぶつける。八つ当たりだ。

「オレでは、どうしようもない」

「クロガネは、まだ、自分の本心を言えないのね」

 え? 王弟殿下の本心……どういうこと?


「留学の時、私をさらっていけば良かったのに」

「出来るわけないだろ、国際問題になる」

 何なんだ、この二人は!



「フランソワーズ様、心配しないで」

 聖女ソフィアから、なぜか慰められた。

「まだ詳しくは言えないけど、女王コノハ様から、ある調査を頼まれているから」

 私の知らない所で、何かが動いている。



「さて、クロガネを元の姿に戻しましょう。その魔王の姿だと、落ち着かないわ」

 聖女ソフィアが、何やら準備を始めた。


「ずいぶんと楽しそうね」

 元女王コノハ様が、召喚の聖堂に入ってきた。


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