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第六章 金曜

61 実の娘

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「ルナは、養子ではなく……ワシの実の娘だ」

 国王が、専属メイド長の娘、ルナちゃんに明かした。

 国王に呼ばれたので、急いで国王の執務室へ来てみると、親子の対面だった。感動の場面なのだろうが、私は少し冷めている。


 国王の執務室は豪華だった。壁は金ぱくが張られて輝き、調度品も金ピカである。落ち着かない部屋だ。

 私のほか、国王、ルナちゃん、そして……エメラルティー侯爵、いや、元侯爵のクソ親父も室内に控えているのが、落ち着かない雰囲気を倍増させている。

 なんでクソ親父がいるのかとにらんだら、俺は知らないよと視線を横に外された。


 私とルナちゃんは、いつものとおり、学園の制服を着用している。
 どうも、ルナちゃんは、王族用ドレスの着用を拒んでいるらしい。

「国王陛下、どういう事ですか? 私は、女王コノハ様に命じられ、国王陛下の養子になったのです」

 ルナちゃんは、自分の実の父親が、国王だとは教えられていなかった。

 突然、父親だと言われても、素直に受け入れられないのだ。十数年間、父親がいない平民だと、虐げられてきたから。


「女王コノハ様は、お前のおばあさまだ。母は、気付いたのだろう、お前が実の孫だと」

 国王の愛人が、ルナちゃんの母である専属メイド長であることは、王弟殿下も気が付いていた。そこのクソ親父もそうだ。国王は隠し事が下手だ。

「理解できません、私に父はいないと、そう育てられてきました。いまさら、実の父だと言われても……」

 ルナちゃんの心は、こじれている。素直になるには、時間がかかるだろう。


「王国の安定を考えると、ワシは、爵位が低かった恋人とは、婚約を結ぶことが出来なかった。ルナの母と、ワシは、相思相愛で一途な恋愛だった」

 安定を考え、国王は、筆頭侯爵の妹を正妃に、次席侯爵の妹を側妃にした。
 恋人の存在は、当人だけの秘密であり、当時は誰も気が付かなかった。


「政略結婚に愛情はない。貴族院を安定させ、子を授かるだけの関係だ」

 そうなんだよな。私と第一王子との政略結婚も、貴族院の安定を、より一層安定させるための、政略結婚だった。

「ワシは、流行り病で、子が授からないと思われていたが、同時に二人の王子を授かった。これは予想外の出来事であり、貴族院のバランスを崩す種となった」

 この件で、王弟殿下は、国王が流行り病にり患したのは自分のせいだと、悩み苦しんだらしい。


「激務を支えてくれたのは、ルナの母だった。婚約は出来なかったが、私たちの恋愛は続き、娘が生まれた」

「しかし、王国の安定が崩れると考え……父親として名乗ることは出来なかった」

 爵位がどうだとか、安定がどうだとか、どうでもいいじゃない!
 あれ、私も、爵位に縛られ、王国の安定に、縛られていたのではないの?

「それなのに、なぜか、母が、ルナが孫だと気が付いた」

 いや、ルナちゃんと国王は金髪で青い瞳、顔も似ているよ。たぶん、国王の幼い頃と、ルナちゃんはウリ二つだと思う。母親なら気がつくと、今となっては納得だ。


「国王陛下……王女は困惑しています。私の屋敷に、美味しいデザートがありますので、それを食べれば、落ち着きを取り戻すと考えます」

 何を言っているのだ、このクソ親父が。

「わかった、私が急ぎ過ぎたようだ。エメラルティー侯爵の屋敷へ行って、デザートを食べるのも、女性にとっては息抜きになって良かろう」

 国王は、なぜか納得した。なんだ、デザートって?


「ということだ、フランソワーズ女男爵、ルナ王女をエメラルティー侯爵の屋敷へ案内しなさい」

 なんで、爵位の無いクソ親父に、男爵の私が命令されるのよ。
 今、エメラルティー侯爵の屋敷は閉ざされて入れない……あ、そうか。


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