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第六章 金曜

56 平民

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「先ほど、父のエメラルティー侯爵と、偶然に会いました」

 王宮の中庭、聖女の泉の前で、サクラに先ほどの事を話す。

「屋敷に引き籠って、ストライキ中じゃなかったのか?」

「屋敷の中だとヒマだから、外に出て来たそうです」

 サクラは意味が分からないと言う顔になったが、本当なので仕方がない。

 エメラルティー侯爵の屋敷は、地下で王宮とつながっていることは、秘密だ。

「私は、これからどうなるのだろう」

 自分の将来を悲観して、うつむいた。


「あのアレキサンドライト、たった二つの宝石で、納税は完了できた。エメラルティー家は侯爵のままだ」

「さらに、侯爵は、爵位返上の手続きなど、行っていなかった。伝言ゲームのように、報告内容が書き変わってしまったのだろう」

 サクラは、良い報告を矢継ぎ早に話してくれた。先ほどまでの私だったら、喜んでいただろう。しかし、今は事情が変わった。


「今日の国王との謁見は、アレキサンドライトの話とは違うようだ」

「え?」

 驚いて顔を上げる。

 色の変わる宝石……アレキサンドライトの話じゃないの?
 国王から褒められて、さっさと学園に帰る予定だったのに。


「フランは、侯爵令嬢のままなのに、それ以外の話には心当たりがない。だが、フランの周りには、嵐が起こる」

 サクラは笑っているが、心配顔でもある。


「実は……父は、私を騒ぎから遠ざけようと、私は養子だったことにして、私を侯爵家から籍を外したと言っています」

「へ?」

 サクラは、また、意味が分からないと言う顔になったが、本当なので仕方がない。


「そ、そうか、一代男爵を授与したのが、こんな所で役立つとは……どこまでがエメラルティー侯爵の作戦で、どこからが偶然なのか、オレには全く読めない」

 たぶん、父は、いや、元の父は、何も考えていない。その場の直感で生きてきた貴族だ。


「フランソワーズ、こんな所にいたのですか」

 この声は筆頭侯爵の令嬢……イライザが、私を見つけて、走り寄ってきた。

 令嬢たるもの、慌てて走るものではないと、教わらなかったのか。私も遅刻しそうで走ったけど、あれは学園だし、ここは王宮だ。

「わたくしのハーレム計画が、お父様から反対されました、どうしてくれるのザマスか!」

 イライザの口癖が出ている。これは、今まで以上に、怒り心頭のようだ。


「フランソワーズのせいザマス!」

「あ!」

 不意を突かれた。イライザから押され、聖女の泉に、落ちる……

 また、泉に落ちるのか……あぁ、今日も厄日だ!


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