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第六章 金曜

55 クソ親父

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「どうせ、ヒマだったんで、屋敷を抜け出してきたんでしょ」

 王宮の廊下で清掃員の制服を着ている父に、イヤミったらしく言う。

 私は、今日も学園の制服姿だ。


「勝手に爵位を返上して、さらに屋敷に引き籠るなんて、子供ですか」

 私は、たまっていたグチを吐き出した。


「だって、税を納めるお金が無いんだもの。使用人や領地を守るためには、仕方なかったかったんだよ」

 父のエメラルティー侯爵が、すねた。


「はぁ……使用人たちは、元気なのですか?」

 屋敷を閉じたと言う事は、使用人も外に出られないことになる。それでは、不便極まりないだろう。

「みんなは、領地に帰って羽を伸ばしている」

 当然のように答えてきたが、外から見れば、そんなこと誰も気が付かないでしょ! その間の給料は、どうするの!


「そうだ、エリアルは?」

「おいおい、自分の弟はついでか? あいつは、いつもどおり、屋敷でゴロゴロしている」

 ついでのつもりはなかったが、優先順位が低いのは事実だ。でも、ルナちゃんとの約束があるから、是が非でも聞いておく必要がある。


「俺は爵位を返上したとウワサになっているが、爵位を息子に渡しただけだから。早とちりするなよ」

 父は、自慢のカイゼルヒゲを指で摘まみながら、念を押してきた。早とちりもなにも、私には爵位を返上したと伝わってきている。

 職位を渡したということは、侯爵家は潰れていないのか、それは良かった。

「納税できなかった責任をとって、俺が引退しただけだ。このとおり、今は、爵位が無く、平民みたいな親父になっている」

 姿は平民に似せているが、態度は侯爵のままだ。


「国王陛下は知っているのですか?」

 大事な所だ。国王が勘違いしたままだと、侯爵家の取り潰しを宣言してしまう。

「アイツなら、俺の爵位返上がフェイクだと、たぶん全部知っている」

 いやいや、国王は驚いていたぞ。あれが演技なら、相当の役者だ。


「ところで、エリアルが求婚した令嬢のことを知っていますか?」

「平民の令嬢だと聞いているが」

 眉毛がひくひく震えていて、ウソなのが丸わかりだ。

「またウソを言っていますね」

「俺と国王は、遊び友達なんだよ。お互いのことは、何でも知っている」

 ということは、国王の愛人の話、隠し子の話、全て知っていて、黙っていたのか。
 このガンコ……いや、クソ親父が!


「中立派の貴族たちは、息子のエリアルが侯爵家を継ぐこと、彼の求婚相手が国王の養子だと、知っているのですか?」

「知らんだろうな。中立派は、元々、孤高の戦士の集まりだから、心配ない……え?」

「求婚相手が国王の養子? どういうことだ?」

 父は驚いた。これは本当に知らなかったようだ。屋敷に引き籠ってから起きた事件については、何も知らないようだ。


「コノハ女王が宣言したのです」

「ということは、アイツは、実の娘を、養子にしたのか? なんと、遠回りなことをしたもんだ」

 父は、自慢のカイゼルヒゲを指でなでた。これは考えをまとめている時のクセだ。


「私が、第一王子から婚約を拒否されたのは、知っていますか?」

「いや、知らない。フランのほうが、第一王子を殴るだろうとは予想していたが」

 第一王子を殴りたいほど嫌っていたことを知っていたのか! クソ親父が!

「話をして疲れました。まぁ、私は、侯爵令嬢のままだと聞いて、一安心です」

 何はともあれ、これで元の状態にもどったわけだ。侯爵令嬢なら王族と婚約できる。

 爵位を表すレディース・ボウタイの黒色ともお別れだ。黒も良かったが、侯爵令嬢を示す赤色の方が慣れ親しんでいる。


「いや、フランのことは、俺の騒動から切り離すため、養女だったということにして、侯爵の籍から外した。だから、おまえも爵位のない平民だ」

「え……私は平民なの?」

 父が、したり顔で言ってきた。こいつは、もう親ではない、ただのクソ親父だ!


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