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第五章 木曜

48 巨乳令嬢

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「「キャー」」

 廊下の遠くで令嬢の悲鳴が……むこうは、中等部だ。

「ルナちゃん、中等部で悲鳴が聞こえたけど、何かあった?」


「え、聞こえませんでした……でも、たぶん、第二王子です」

 国王専属メイド長の娘であるルナちゃんは、心当たりがあるようだ。

「第二王子が、紫の瞳を持つ令嬢を探し、朝から、学園内をウロウロしていると聞いています」

 あちゃ~、第二王子の考えそうなことだ。


 元女王のコノハ様の顔が怒りでゆがんでいる。廊下の遠くを見て、何かが近づいてくることに気が付いたようだ。


「お~い、聖女を見つけたぞ」

 廊下の遠くから、第二王子の、のん気な声が、こちらに近づいてくる。

 元女王と第二王子から、私とルナちゃんは挟まれ、逃げることが出来ない。


「どうだ、この令嬢を見てくれ! 大物を釣り上げたぞ」

 第二王子が、連れてきた令嬢を私に紹介した。

 隣国のメガネをかけ、紫色の瞳、中等部とは思えない大物……巨乳だ。


「ルナちゃん、あの令嬢は?」

「隣国からの留学生です」

 彼女はあきれている。中等部といえど立派な大人の令嬢であり、第二王子のアホさ加減は十分理解できているようだ。


「僕は、この巨乳聖女を婚約者とする!」

 第二王子が宣言した。これで何人目の婚約者なのだろうか。
 聖女ハーレムを作るため、王国中の聖女を自分のものにすると宣言した彼だ。

「兄には、負けない!」

 第二王子の顔が輝いている。


「フランソワーズ様、あの令嬢は、まがい物です」

 え? ルナちゃんの言っている意味が、私には分からない。


「何を騒いでいる、マズルカ!」

 元女王の声は低く、怒っている。これほど騒げば当然だ。いや、あきれているのか?

「ばあ様、この令嬢を僕の聖女ハーレムに加えます」

「コノハ様と呼べと言ったはずだ!」

 元女王は、ばあ様と言われることが、大嫌いなようだ、覚えておこう。

 ルナちゃんを見ると、彼女も気が付いたようで、軽くうなずいてきた。
 国王の養子と宣言された彼女は、元女王の孫という事になる……


「令嬢の外見にだまされるな、人間の中身を見ろと言っているだろうが!」

「元女王コノハが命ずる。万物に溜まる魔力よ、その力を開放せよ。一万ボルト!」

 元女王が第二王子を一喝し……え、これは詠唱!

 夜会で経験した元女王の怒りのイカズチが、廊下に落ちた。範囲と規模は小さいが、けっこうな威力だ!


 第二王子の制服が、少し焦げている。

 巨乳聖女も、メガネがズレて……あれ? 大きな胸パットが、床に落ちている。


「ケッ、化けの皮がはがれたか、まがいものが」

 ルナちゃんは、意外と口が悪い……

「隣国では、化粧用品の開発が進んでおり、見た目が美しい令嬢が、まがいものではと、気をつけるのは、今や常識です」

 床にへたり込む第二王子と巨乳聖女を、見下ろすルナちゃん。
 中等部なのに、私より王者の風格をまとっている。


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