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第四章 水曜

44 元女王の想い

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「二十年前の流行り病の際、今回のように早期に終息できたら……いや、過ぎたことは戻せない。次の時代につなげることが大事だ」

 侍女たちやサクラを退席させた後、謁見の間に私だけを残し、元女王の語りは続いた。

 正直言って、私も退席させてほしかった。でも、夜会で、招待してくれた元女王に挨拶できなかったという後ろめたさがあるので、耐える。


「貴族の少子化は、護衛兵などの兵士の減少、弱体化につながった。さらには、子の甘やかしによって、貴族の品格まで、地に落ちた」

 確かに、護衛兵の質が落ちている。子の甘やかしは、二人の王子が、その代表だ。


「子に恵まれない夫婦は、その全てが、流行り病で高熱に苦しんだ人たちだった。そこまで分かっていながら、何も対策を取れなかったのは、貴族院の腐敗が原因だ」

 元女王は顔をゆがめ、悔しがっている。国民のための貴族院ではなく、己の私腹を肥やすようになったのは、二十年前の流行り病からだと言われている。

 元女王は、流行り病で、夫を亡くしている。


「フランソワーズが考えた『聖なる水』は、国民が苦しむ高熱を和らげた。これは大きな一歩である」

 聖なる水は、私が考えたものではなく、前世の知識だ。

「そして、王都全体をクリーン魔法で包み込むとは……そんなことは出来ないと考えていた……これは時代を変える所業である」

 今回は私の宝石に貯めた膨大な魔力によって成しえたが、今後は、王都を定期的に清掃することで、国民への定期的なクリーン魔法で……

 いや、お風呂の普及でも、流行り病を防止することが出来る。

 貴族院が、予算を認めればの話だが……


「フランソワーズは、何か特別な血筋を受け継いでいるのであろう。実は、わがはいも、秘密の血筋を受けついている」

 私の血筋……これまで考えたことなどなかった。ただ侯爵令嬢として、漠然と過ごしてきただけだ。

「わがはいは、二人の息子を授かり、血筋を次の時代につなぐことができた。フランソワーズにも、その血筋を、未来ある令息と、次の時代につなげてほしい」

 未来ある令息? 二人の王子か……いや、元女王の孫のことではないようだ。


「クロガネは、二十年前、流行り病に、り患した……そして、自分が兄にうつしたと……将来、兄が国王になっても跡継ぎが授からないと……それは自分のせいだと悩んだのだ」

 知らなかった。王弟殿下にそんな悩みがあったとは。

「兄が国王を継ぎ、子供が出来た時には、涙を流して喜んだ……しかし、クロガネは自分の気持ちにフタをし、王国に身をささげることを続けた。初等部程度の子供がだ……わがはいは、母親として失格だ」

 え! コノハ様が、私に本音を語ってくれた……なにが起きているの?


「クロガネは笑わない子だった……しかし、フランソワーズの前では笑う」

 私は兄さまの笑顔を知っている。それは、私だけの笑顔だったの?

「凍った心が解け始めているのだろう。フランソワーズ!」


「はい」コノハ様の気迫に、思わず声が上ずった。


「……クロガネを、頼んだぞ」


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