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第四章 水曜
39<メイド長の視点>
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「メイド長、クロガネと連絡はついたか?」
国王陛下であるニニギ・メトロポリテーヌ様から聞かれた。ここは国王の執務室だ。
「王弟殿下の侍女を通じ、連絡は取れております」
私の名前はアルテミス、国王専属メイド長だ。
部下となるメイドはいない。他のメイド長とは異なり、国王から直に命令された、いわゆる困りごとを片付けるのが私の仕事だ。
「そうか、元気なら良いのだが」
兄であるニニギ様は心配顔である。立場が無ければ、仲の良い兄弟なのだ。
「王弟殿下は、あの召喚での事故の後、侍女たちだけが面会を許され、姿を見た者はいません」
「クロガネが呪いに侵されているという話は、本当なのだろうか」
「たぶん、ウソです」
これは、私が推測した意見である。
「王弟殿下の王宮内での気配ですが、昼は気配がなく、夜は就寝している気配があります。つまり、何か秘密の任務を遂行していると考えます」
気配とは、食事を食べたか、シーツや下着を交換・洗濯しているかなど、生活感の有無である。
ニニギ様は、お茶を口に運んだ。
「アルテミス……娘は、元気にしているか?」
私の娘は、一昨日、元女王から「国王の養子にする」と宣言された。
「国王陛下の養子という立場に、戸惑っています。申し訳ありません」
戸惑っていると言ったが、本当は嫌がっている。しかし、元女王の宣言なので、断ることはできない。
「中等部か……多感な年頃だな」
「感情が高ぶると、女王陛下と同じ『ハリセン』が発動してしまい、困っています」
この『ハリセン』は、元女王の血筋を継承している証である。これまでは、決して人に見られないよう注意してきた。
「血筋か……」
ニニギ様にとって、今、血筋が最重要課題となっている。
「そういえば、学園の食堂でのトラブルの件だが、裏で手を回しておいた。彼らは領地に帰ったから、目にすることは、もう無い」
「ありがとうございました」
娘が、食堂で貴族にイジメられた件で、ニニギ様が動いてくれた。
ニニギ様は、品格のない貴族は、早めに摘み取るタイプだ。
それだけに、自分の血筋である二人の王子の素行不良が、頭の痛い課題なのだ。
「母が動き出した。たぶん、あの子が、自分の孫だと気が付いたのだろう」
娘は、ニニギ様に似すぎている。
「もう一人、フランソワーズの動きも気になっている」
「あの令嬢は、王子たちを嫌い、王弟殿下を……好いています」
彼女は隠しているようだが、もうバレバレである。
「フランソワーズは幼いころ、国王であるワシに、王国に身を捧げると宣言したんだ。クロガネと同じ、決意の目をしていた」
「そのお気持ちは、今も変わっていないようです」
恥ずかしがり屋の面と、元女王と同じ女傑の面を持ち合わせていた。不思議な令嬢である。
「……アルテミスは、養子とした娘の乳母という立場になると思われる、すまない」
ニニギ様が頭を下げたが、私は覚悟が出来ていた。
「妻には出来ないが、爵位や立場がどうであろうと、アルテミスを永遠に愛するから……」
「もったいないお言葉です……」
私には、それだけで十分だ。
「「あ!」」
突然、窓の外が輝いた!
「なにごとだ!」
バルコニーに出て、輝く王都を見ると……
光り輝く巨大な聖女が、祈っている姿が見えた。
国王陛下であるニニギ・メトロポリテーヌ様から聞かれた。ここは国王の執務室だ。
「王弟殿下の侍女を通じ、連絡は取れております」
私の名前はアルテミス、国王専属メイド長だ。
部下となるメイドはいない。他のメイド長とは異なり、国王から直に命令された、いわゆる困りごとを片付けるのが私の仕事だ。
「そうか、元気なら良いのだが」
兄であるニニギ様は心配顔である。立場が無ければ、仲の良い兄弟なのだ。
「王弟殿下は、あの召喚での事故の後、侍女たちだけが面会を許され、姿を見た者はいません」
「クロガネが呪いに侵されているという話は、本当なのだろうか」
「たぶん、ウソです」
これは、私が推測した意見である。
「王弟殿下の王宮内での気配ですが、昼は気配がなく、夜は就寝している気配があります。つまり、何か秘密の任務を遂行していると考えます」
気配とは、食事を食べたか、シーツや下着を交換・洗濯しているかなど、生活感の有無である。
ニニギ様は、お茶を口に運んだ。
「アルテミス……娘は、元気にしているか?」
私の娘は、一昨日、元女王から「国王の養子にする」と宣言された。
「国王陛下の養子という立場に、戸惑っています。申し訳ありません」
戸惑っていると言ったが、本当は嫌がっている。しかし、元女王の宣言なので、断ることはできない。
「中等部か……多感な年頃だな」
「感情が高ぶると、女王陛下と同じ『ハリセン』が発動してしまい、困っています」
この『ハリセン』は、元女王の血筋を継承している証である。これまでは、決して人に見られないよう注意してきた。
「血筋か……」
ニニギ様にとって、今、血筋が最重要課題となっている。
「そういえば、学園の食堂でのトラブルの件だが、裏で手を回しておいた。彼らは領地に帰ったから、目にすることは、もう無い」
「ありがとうございました」
娘が、食堂で貴族にイジメられた件で、ニニギ様が動いてくれた。
ニニギ様は、品格のない貴族は、早めに摘み取るタイプだ。
それだけに、自分の血筋である二人の王子の素行不良が、頭の痛い課題なのだ。
「母が動き出した。たぶん、あの子が、自分の孫だと気が付いたのだろう」
娘は、ニニギ様に似すぎている。
「もう一人、フランソワーズの動きも気になっている」
「あの令嬢は、王子たちを嫌い、王弟殿下を……好いています」
彼女は隠しているようだが、もうバレバレである。
「フランソワーズは幼いころ、国王であるワシに、王国に身を捧げると宣言したんだ。クロガネと同じ、決意の目をしていた」
「そのお気持ちは、今も変わっていないようです」
恥ずかしがり屋の面と、元女王と同じ女傑の面を持ち合わせていた。不思議な令嬢である。
「……アルテミスは、養子とした娘の乳母という立場になると思われる、すまない」
ニニギ様が頭を下げたが、私は覚悟が出来ていた。
「妻には出来ないが、爵位や立場がどうであろうと、アルテミスを永遠に愛するから……」
「もったいないお言葉です……」
私には、それだけで十分だ。
「「あ!」」
突然、窓の外が輝いた!
「なにごとだ!」
バルコニーに出て、輝く王都を見ると……
光り輝く巨大な聖女が、祈っている姿が見えた。
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