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第四章 水曜
38 クリーン魔法
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「マーキュリーさんは、徹夜仕事の後で、休憩をとっていませんよね。侍女の皆さんも、朝から働き詰めですよね。少し休みましょうか?」
中庭の「聖女の泉」の前だ。直径十メートル程度の人工の泉、中央には女神像がある。空は晴れ渡り、今なら女神の祝福を受けられる。
私の呼びかけで、6名全ての侍女に集まってもらった。しかし、彼女たちも疲労がたまっている。
「お心遣いありがとうございます。でも、ここで私たちがやらねば、誰が王都を救うのですか」
頼もしい返事だった。私も歯を食いしばる。
「では、王都全体にクリーン魔法をかけます」
私の号令で、聖女の泉を囲む縁、周囲にある六ボウ星の頂点を示す印の所に立ってもらう。
女神像を囲んで6名の侍女、そして侍女が見えるようにと、私は泉の前に立った。
侍女たちが、クリーン魔法を唱え始める。
しかし、何も起こらない。
「ダメなの?」
「フランソワーズ様、目の前に対象がないと、意識が集中できません」
マーキュリーさんが教えてくれた。
そうか、王都全体を意識するのが難しいのか。
前世では、街を鳥のように空から見下ろすことができたけど、この世界では無理か。
「では、出身の聖堂と、地域の皆さんの顔を思い出して下さい」
王都全体が無理なら、イメージしやすい所を意識してはどうか。
もう一度、クリーン魔法を唱えてもらった。
今度は、侍女たちが光った……しかし、泉の近くだけに発動しただけだ。
「魔力が、全く足りません」
「もう少しです」
私は侍女たちを元気付けた。彼女たちに疲労の色が見えるので、あと一回が限度か。
(主よ、私を使え)
四角い宝石の声が、頭に聞こえてきた。
「お願い、魔力を開放して」
(お願いではなく、私に命令しろ)
命令? そうか、私が、この宝石の主なのか……
常に私の魔力を吸収している宝石だ。中には膨大な魔力がたまっている。おかげで、私はいつも魔力ゼロだ。
「異世界聖女を召喚する時に、コノハ女王様が魔力を部屋に充満させていました。今から、私がマネをして、皆さんに魔力を分け与えます。私は『魔力ゼロ』ではありません」
泉の女神像の顔を見る。改めて見ると、美人だ……ん? 今、微笑んだような気がした。
「これが最後です。私たちで、国民を救いましょう!」
「「はい」」
侍女たちにハッパをかけた。彼女たちなら、きっとやってくれる。
胸に隠していた四角い宝石を取り出し、両手で握る。少し熱い……
「聖女フランソワーズが命じる。私の瞳と同じ色の宝石よ、魔力を開放せよ。レリース!」
解放の祈りをささげる……膨大な魔力が噴き出るのを感じた。
侍女たちが光る。私の意識が……何かと融合した。目の前に王都の風景が広がる。
私は、王宮の上空から王都を見下ろしているのか。
王都全体を包むように、優しい光とカゲが、渦を巻いている。
あぁ、陰と陽……私の意識が遠ざかり、ヒザから崩れ落ちた。
中庭の「聖女の泉」の前だ。直径十メートル程度の人工の泉、中央には女神像がある。空は晴れ渡り、今なら女神の祝福を受けられる。
私の呼びかけで、6名全ての侍女に集まってもらった。しかし、彼女たちも疲労がたまっている。
「お心遣いありがとうございます。でも、ここで私たちがやらねば、誰が王都を救うのですか」
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「では、王都全体にクリーン魔法をかけます」
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マーキュリーさんが教えてくれた。
そうか、王都全体を意識するのが難しいのか。
前世では、街を鳥のように空から見下ろすことができたけど、この世界では無理か。
「では、出身の聖堂と、地域の皆さんの顔を思い出して下さい」
王都全体が無理なら、イメージしやすい所を意識してはどうか。
もう一度、クリーン魔法を唱えてもらった。
今度は、侍女たちが光った……しかし、泉の近くだけに発動しただけだ。
「魔力が、全く足りません」
「もう少しです」
私は侍女たちを元気付けた。彼女たちに疲労の色が見えるので、あと一回が限度か。
(主よ、私を使え)
四角い宝石の声が、頭に聞こえてきた。
「お願い、魔力を開放して」
(お願いではなく、私に命令しろ)
命令? そうか、私が、この宝石の主なのか……
常に私の魔力を吸収している宝石だ。中には膨大な魔力がたまっている。おかげで、私はいつも魔力ゼロだ。
「異世界聖女を召喚する時に、コノハ女王様が魔力を部屋に充満させていました。今から、私がマネをして、皆さんに魔力を分け与えます。私は『魔力ゼロ』ではありません」
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「これが最後です。私たちで、国民を救いましょう!」
「「はい」」
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王都全体を包むように、優しい光とカゲが、渦を巻いている。
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