上 下
38 / 80
第四章 水曜

38 クリーン魔法

しおりを挟む
「マーキュリーさんは、徹夜仕事の後で、休憩をとっていませんよね。侍女の皆さんも、朝から働き詰めですよね。少し休みましょうか?」

 中庭の「聖女の泉」の前だ。直径十メートル程度の人工の泉、中央には女神像がある。空は晴れ渡り、今なら女神の祝福を受けられる。

 私の呼びかけで、6名全ての侍女に集まってもらった。しかし、彼女たちも疲労がたまっている。

「お心遣いありがとうございます。でも、ここで私たちがやらねば、誰が王都を救うのですか」

 頼もしい返事だった。私も歯を食いしばる。


「では、王都全体にクリーン魔法をかけます」

 私の号令で、聖女の泉を囲む縁、周囲にある六ボウ星の頂点を示す印の所に立ってもらう。

 女神像を囲んで6名の侍女、そして侍女が見えるようにと、私は泉の前に立った。


 侍女たちが、クリーン魔法を唱え始める。
 しかし、何も起こらない。

「ダメなの?」


「フランソワーズ様、目の前に対象がないと、意識が集中できません」

 マーキュリーさんが教えてくれた。

 そうか、王都全体を意識するのが難しいのか。
 前世では、街を鳥のように空から見下ろすことができたけど、この世界では無理か。


「では、出身の聖堂と、地域の皆さんの顔を思い出して下さい」

 王都全体が無理なら、イメージしやすい所を意識してはどうか。

 もう一度、クリーン魔法を唱えてもらった。
 今度は、侍女たちが光った……しかし、泉の近くだけに発動しただけだ。


「魔力が、全く足りません」

「もう少しです」

 私は侍女たちを元気付けた。彼女たちに疲労の色が見えるので、あと一回が限度か。



(主よ、私を使え)

 四角い宝石の声が、頭に聞こえてきた。

「お願い、魔力を開放して」

(お願いではなく、私に命令しろ)

 命令? そうか、私が、この宝石の主なのか……

 常に私の魔力を吸収している宝石だ。中には膨大な魔力がたまっている。おかげで、私はいつも魔力ゼロだ。


「異世界聖女を召喚する時に、コノハ女王様が魔力を部屋に充満させていました。今から、私がマネをして、皆さんに魔力を分け与えます。私は『魔力ゼロ』ではありません」

 泉の女神像の顔を見る。改めて見ると、美人だ……ん? 今、微笑んだような気がした。


「これが最後です。私たちで、国民を救いましょう!」

「「はい」」

 侍女たちにハッパをかけた。彼女たちなら、きっとやってくれる。

 胸に隠していた四角い宝石を取り出し、両手で握る。少し熱い……


「聖女フランソワーズが命じる。私の瞳と同じ色の宝石よ、魔力を開放せよ。レリース!」

 解放の祈りをささげる……膨大な魔力が噴き出るのを感じた。

 侍女たちが光る。私の意識が……何かと融合した。目の前に王都の風景が広がる。

 私は、王宮の上空から王都を見下ろしているのか。
 王都全体を包むように、優しい光とカゲが、渦を巻いている。

 あぁ、陰と陽……私の意識が遠ざかり、ヒザから崩れ落ちた。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】「私は善意に殺された」

まほりろ
恋愛
筆頭公爵家の娘である私が、母親は身分が低い王太子殿下の後ろ盾になるため、彼の婚約者になるのは自然な流れだった。 誰もが私が王太子妃になると信じて疑わなかった。 私も殿下と婚約してから一度も、彼との結婚を疑ったことはない。 だが殿下が病に倒れ、その治療のため異世界から聖女が召喚され二人が愛し合ったことで……全ての運命が狂い出す。 どなたにも悪意はなかった……私が不運な星の下に生まれた……ただそれだけ。 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します。 ※他サイトにも投稿中。 ※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。 「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」 ※小説家になろうにて2022年11月19日昼、日間異世界恋愛ランキング38位、総合59位まで上がった作品です!

神のいとし子は追放された私でした〜異母妹を選んだ王太子様、今のお気持ちは如何ですか?〜

星里有乃
恋愛
「アメリアお姉様は、私達の幸せを考えて、自ら身を引いてくださいました」 「オレは……王太子としてではなく、一人の男としてアメリアの妹、聖女レティアへの真実の愛に目覚めたのだ!」 (レティアったら、何を血迷っているの……だって貴女本当は、霊感なんてこれっぽっちも無いじゃない!)  美貌の聖女レティアとは対照的に、とにかく目立たない姉のアメリア。しかし、地味に装っているアメリアこそが、この国の神のいとし子なのだが、悪魔と契約した妹レティアはついに姉を追放してしまう。  やがて、神のいとし子の祈りが届かなくなった国は災いが増え、聖女の力を隠さなくなったアメリアに救いの手を求めるが……。 * 2023年01月15日、連載完結しました。 * ヒロインアメリアの相手役が第1章は精霊ラルド、第2章からは隣国の王子アッシュに切り替わります。最終章に該当する黄昏の章で、それぞれの関係性を決着させています。お読みくださった読者様、ありがとうございました! * 初期投稿ではショートショート作品の予定で始まった本作ですが、途中から長編版に路線を変更して完結させました。 * この作品は小説家になろうさんとアルファポリスさんに投稿しております。 * ブクマ、感想、ありがとうございます。

愚か者の話をしよう

鈴宮(すずみや)
恋愛
 シェイマスは、婚約者であるエーファを心から愛している。けれど、控えめな性格のエーファは、聖女ミランダがシェイマスにちょっかいを掛けても、穏やかに微笑むばかり。  そんな彼女の反応に物足りなさを感じつつも、シェイマスはエーファとの幸せな未来を夢見ていた。  けれどある日、シェイマスは父親である国王から「エーファとの婚約は破棄する」と告げられて――――?

【完結】返してください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
ずっと我慢をしてきた。 私が愛されていない事は感じていた。 だけど、信じたくなかった。 いつかは私を見てくれると思っていた。 妹は私から全てを奪って行った。 なにもかも、、、、信じていたあの人まで、、、 母から信じられない事実を告げられ、遂に私は家から追い出された。 もういい。 もう諦めた。 貴方達は私の家族じゃない。 私が相応しくないとしても、大事な物を取り返したい。 だから、、、、 私に全てを、、、 返してください。

「 この国を出て行け!」と婚約者に怒鳴られました。さっさと出て行きますわ喜んで。

十条沙良
恋愛
この国の幸せの為に頑張ってきた私ですが、もう我慢しません。

婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが

マリー
恋愛
寝食を忘れるほど研究にのめり込む婚約者に惹かれてかいがいしく食事の準備や仕事の手伝いをしていたのに、ある日帰ったら「母親みたいに世話を焼いてくるお前にはうんざりだ!荷物をまとめておいてやったから明日の朝一番で出て行け!」ですって? まあ、癇癪を起こすのはいいですけれど(よくはない)あなたがまとめてうちの実家に郵送したっていうその荷物の中、送っちゃいけないもの入ってましたよ? ※またも小説の練習で書いてみました。よろしくお願いします。 ※すみません、婚約破棄タグを使っていましたが、書いてるうちに内容にそぐわないことに気づいたのでちょっと変えました。果たして婚約破棄するのかしないのか?を楽しんでいただく話になりそうです。正当派の婚約破棄ものにはならないと思います。期待して読んでくださった方申し訳ございません。

聖女に負けた侯爵令嬢 (よくある婚約解消もののおはなし)

蒼あかり
恋愛
ティアナは女王主催の茶会で、婚約者である王子クリストファーから婚約解消を告げられる。そして、彼の隣には聖女であるローズの姿が。 聖女として国民に、そしてクリストファーから愛されるローズ。クリストファーとともに並ぶ聖女ローズは美しく眩しいほどだ。そんな二人を見せつけられ、いつしかティアナの中に諦めにも似た思いが込み上げる。 愛する人のために王子妃として支える覚悟を持ってきたのに、それが叶わぬのならその立場を辞したいと願うのに、それが叶う事はない。 いつしか公爵家のアシュトンをも巻き込み、泥沼の様相に……。 ラストは賛否両論あると思います。納得できない方もいらっしゃると思います。 それでも最後まで読んでいただけるとありがたいです。 心より感謝いたします。愛を込めて、ありがとうございました。

お飾りの聖女は王太子に婚約破棄されて都を出ることにしました。

高山奥地
ファンタジー
大聖女の子孫、カミリヤは神聖力のないお飾りの聖女と呼ばれていた。ある日婚約者の王太子に婚約破棄を告げられて……。

処理中です...