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第三章 火曜

30<侍女の視点>

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「あれから二十年が経ったのですね」

 王宮の北側にある祈念公園、中央の祈念碑の前で、祈りを捧げる。陽が傾き、空が夕焼け色に染まる。

 紺色のメイド服、白いロングエプロンを、赤く、夕焼けが染める。


「二十年前の流行病では、多くの人が亡くなった」

 横に立つ騎士団長がつぶやいた。

「その中には、助けられた命も多かったのです」

 今でも、忘れることはできない。


「ここに私の両親の魂が、眠っています」

 両親は、流行病を利用した偽聖女の陰謀に巻き込まれて、亡くなった。

 この祈念碑には、お墓とは別に、両親の魂が眠っている。偽聖女の犠牲者の魂を鎮めるため、国王が建てたものだ。


「実家のお墓よりも、ここの方が、両親を感じることができます」

 私が生まれ育った伯爵家は、両親が亡くなった後、親戚が継いだ。

 初等部から中等部へ進学する時期だった私は、肩身の狭い思いはしたくないと、王都の聖堂に移り住んだ。

 親戚からいじめられたわけではない。信頼できる人からの意見を聞いて、私が選択した。


「新しい治癒魔法をもっと早く組み上げる事ができたならと、今でも思います」

 自分の無力さをなげき、青春時代は、ガムシャラに修行へ打ち込んだ。

「マーキュリーが考えた『新しい治癒魔法』は、多くの人の命を救っている」

 騎士団長が慰めてくれる。


「二十年前の偽聖女の、あの副作用のある治癒をしのぐ、高い効果の魔法だ」

「独占しないで、誰でも使える魔法にすることできて、良かった」

 それは、私の願いであり、国王やメイド長の働きも大きかった。


「私は、本物の聖女ではなかった……」

 18歳の時に、王弟殿下の薦めで、聖女判定を受けた
 聖女ではなかった。

 しかし、素質が認められて、王宮の侍女に採用され、現在に至る。

「俺は聖女と結婚したのではない。心優しいマーキュリーに惚れたんだ」

 私と彼は、恋愛結婚である。


「結婚生活も幸せですが、王弟殿下の侍女としても幸せに働くことができました」

 王宮勤務から、直ぐに王弟殿下の侍女となった。異例の昇進であった。

 王弟殿下は、私が聖堂に移り住む際に、きっと迎えに来るからと約束してくれた……

 告白かと思ったが、そういう意味ではなかった。鈍感なのか、他に好きな令嬢がいたのか……

 たぶん後者だ。年下の男性は、時として、大人の女性に憧れるものだ。


8侍女になった 今回は人々を助けられた 両親が微笑んでいる 祈念碑


「今回の流行病は、なんとか私の手で……」

 また、流行病の気配が王都を襲っている。

 今回こそは、両親が微笑んでくれる結果、犠牲者の出ない結果を残したい。

 両親の体の一部が祈念碑の下に眠っていると、専属メイド長から聞いている。もう一度、二人そろって手を合わせた。


「フランソワーズ様は、不思議な方です」

「そうだな、俺も感じる。いつの間にか、周りを幸せにする不思議な魅力を持っている」

「そうですね、フランソワーズ様は、気が付いていらっしゃらないようですが……専属メイド長の攻撃的な優しさと、コノハ様の覇気をまとった優しさを足したような、不思議なお方です」


 もうすぐ、コノハ様の夜会が始まる時刻だ。
 それが終わったら、今夜は夜勤だ。無事に終了できればいいが……


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