上 下
29 / 80
第三章 火曜

29 疑心暗鬼

しおりを挟む
「フラン、前! 危ない」

「ゴン!」けっこう大きな音だ。

 体調不良で、廊下に出た私は、壁に頭をぶつけ、正気に戻った。
 サクラが横に来て心配してくれている。

「痛い……」

 おでこが痛い。赤くなったかも……

 サクラの侍女を兼務する王弟殿下の……紫の瞳を持つ侍女が、治癒魔法をかけてくれた。優秀な侍女だ、でも……


「どうした? 午後からおかしいぞ」

 サクラが心配してくれる。

「下校の時刻だ。一般寮まで帰れるか?」

「私、もうダメかも」

 力のない声だ。


「侍女様は……王弟殿下の聖女ハーレムの、お一人なんですか?」

「「え!」」

 サクラと、侍女の目が見開いた。これは、本当だという証拠かもしれない。

 この侍女は、金髪に紫色の瞳を持っている美人だ。王弟殿下が、彼女が聖女だと、好きになってもおかしくはない。

「違う! 違うから。マズルカのざれ言など信じるな」

 サクラは慌てて否定した。これは本当のことを隠そうとしてるんだ、きっと。

「もしかして、サクラは王弟殿下の隠し子?」

 驚きと悲しみが私を襲い、心に仕舞っていた疑問を口に出してしまった。


 侍女は……腹を抱えて笑っている。なんで?

「あぁ面白い。これは、私からお話しした方が良いようですね」

 侍女が、話し始めた……

 王弟殿下の侍女は6名いる。王都にある6ヶ所の聖堂から一人ずつ、聖女の素質のある女性を見つけたのだ。

 しかし、6名の女性たちは、治癒魔法などの光属性または闇属性の魔法は使えたが、十年ほど前の聖女判定で、聖女とは認められなかった。

 王弟殿下は、6名の女性たちの才能を評価し、自分の専属侍女に採用し、今に至る。


「つまり、聖女ハーレムを作ろうとして、失敗したのですね」

 私が要約した。

「違うって!」

 サクラが力いっぱい否定した。

 私は、少し落ち着いてきたが、まだ心の整理がつかない。

「私たちは、王弟殿下の恩に応えるため、侍女として、誠心誠意、務めているのです。まだ、誤解は解けませんか?」

 侍女たちは、女神に生涯をささげるため聖堂で祈りを捧げていたところを、王弟殿下に見出されたって事らしい。

 私も、王国に生涯を捧げようと、政略結婚を選んだ……王弟殿下は、私を見出してくれるだろうか。


「王弟殿下に会いたい……」

 私の、今の正直な願いだ。幼い頃のように、優しく抱きしめてもらいたい。

「王弟殿下はどこですか? 今も聖女ハーレムで浮気をしているのですか?」

「クロガネ様は、おひとりで、呪いと戦っています」

 この侍女も、王弟殿下を名前で呼んだ……え! 呪いと戦っている?


「呪い……聖女ハーレムの失敗のことですか?」

「私たち侍女は、クロガネ様を尊敬していますが、男性としては見ていませんよ」

 男性と見ていない……パンイチの王弟殿下を見ても動揺しないってこと?
 分からない。悲しみと怒りが混じった苦い気持ちだ。


「内緒ですが、王弟殿下には好きな女性がいるのですよ」

 侍女の暴露話に、サクラの顔が青ざめた。

「フラれた相手を、まだ好きなのですか?」

 王弟殿下がフラれたことは聞いている。未だに引きずっているのなら、辛い。

「これ以上は、侍女の私からは言えません」

 聖女ハーレムのこと、フラれた相手に未練があること、心がぐちゃぐちゃだ。

 突然胸が苦しく……息を吸っても治まらず……目の前が暗くなっていく……


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】「私は善意に殺された」

まほりろ
恋愛
筆頭公爵家の娘である私が、母親は身分が低い王太子殿下の後ろ盾になるため、彼の婚約者になるのは自然な流れだった。 誰もが私が王太子妃になると信じて疑わなかった。 私も殿下と婚約してから一度も、彼との結婚を疑ったことはない。 だが殿下が病に倒れ、その治療のため異世界から聖女が召喚され二人が愛し合ったことで……全ての運命が狂い出す。 どなたにも悪意はなかった……私が不運な星の下に生まれた……ただそれだけ。 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します。 ※他サイトにも投稿中。 ※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。 「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」 ※小説家になろうにて2022年11月19日昼、日間異世界恋愛ランキング38位、総合59位まで上がった作品です!

神のいとし子は追放された私でした〜異母妹を選んだ王太子様、今のお気持ちは如何ですか?〜

星里有乃
恋愛
「アメリアお姉様は、私達の幸せを考えて、自ら身を引いてくださいました」 「オレは……王太子としてではなく、一人の男としてアメリアの妹、聖女レティアへの真実の愛に目覚めたのだ!」 (レティアったら、何を血迷っているの……だって貴女本当は、霊感なんてこれっぽっちも無いじゃない!)  美貌の聖女レティアとは対照的に、とにかく目立たない姉のアメリア。しかし、地味に装っているアメリアこそが、この国の神のいとし子なのだが、悪魔と契約した妹レティアはついに姉を追放してしまう。  やがて、神のいとし子の祈りが届かなくなった国は災いが増え、聖女の力を隠さなくなったアメリアに救いの手を求めるが……。 * 2023年01月15日、連載完結しました。 * ヒロインアメリアの相手役が第1章は精霊ラルド、第2章からは隣国の王子アッシュに切り替わります。最終章に該当する黄昏の章で、それぞれの関係性を決着させています。お読みくださった読者様、ありがとうございました! * 初期投稿ではショートショート作品の予定で始まった本作ですが、途中から長編版に路線を変更して完結させました。 * この作品は小説家になろうさんとアルファポリスさんに投稿しております。 * ブクマ、感想、ありがとうございます。

愚か者の話をしよう

鈴宮(すずみや)
恋愛
 シェイマスは、婚約者であるエーファを心から愛している。けれど、控えめな性格のエーファは、聖女ミランダがシェイマスにちょっかいを掛けても、穏やかに微笑むばかり。  そんな彼女の反応に物足りなさを感じつつも、シェイマスはエーファとの幸せな未来を夢見ていた。  けれどある日、シェイマスは父親である国王から「エーファとの婚約は破棄する」と告げられて――――?

【完結】返してください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
ずっと我慢をしてきた。 私が愛されていない事は感じていた。 だけど、信じたくなかった。 いつかは私を見てくれると思っていた。 妹は私から全てを奪って行った。 なにもかも、、、、信じていたあの人まで、、、 母から信じられない事実を告げられ、遂に私は家から追い出された。 もういい。 もう諦めた。 貴方達は私の家族じゃない。 私が相応しくないとしても、大事な物を取り返したい。 だから、、、、 私に全てを、、、 返してください。

「 この国を出て行け!」と婚約者に怒鳴られました。さっさと出て行きますわ喜んで。

十条沙良
恋愛
この国の幸せの為に頑張ってきた私ですが、もう我慢しません。

婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが

マリー
恋愛
寝食を忘れるほど研究にのめり込む婚約者に惹かれてかいがいしく食事の準備や仕事の手伝いをしていたのに、ある日帰ったら「母親みたいに世話を焼いてくるお前にはうんざりだ!荷物をまとめておいてやったから明日の朝一番で出て行け!」ですって? まあ、癇癪を起こすのはいいですけれど(よくはない)あなたがまとめてうちの実家に郵送したっていうその荷物の中、送っちゃいけないもの入ってましたよ? ※またも小説の練習で書いてみました。よろしくお願いします。 ※すみません、婚約破棄タグを使っていましたが、書いてるうちに内容にそぐわないことに気づいたのでちょっと変えました。果たして婚約破棄するのかしないのか?を楽しんでいただく話になりそうです。正当派の婚約破棄ものにはならないと思います。期待して読んでくださった方申し訳ございません。

聖女に負けた侯爵令嬢 (よくある婚約解消もののおはなし)

蒼あかり
恋愛
ティアナは女王主催の茶会で、婚約者である王子クリストファーから婚約解消を告げられる。そして、彼の隣には聖女であるローズの姿が。 聖女として国民に、そしてクリストファーから愛されるローズ。クリストファーとともに並ぶ聖女ローズは美しく眩しいほどだ。そんな二人を見せつけられ、いつしかティアナの中に諦めにも似た思いが込み上げる。 愛する人のために王子妃として支える覚悟を持ってきたのに、それが叶わぬのならその立場を辞したいと願うのに、それが叶う事はない。 いつしか公爵家のアシュトンをも巻き込み、泥沼の様相に……。 ラストは賛否両論あると思います。納得できない方もいらっしゃると思います。 それでも最後まで読んでいただけるとありがたいです。 心より感謝いたします。愛を込めて、ありがとうございました。

お飾りの聖女は王太子に婚約破棄されて都を出ることにしました。

高山奥地
ファンタジー
大聖女の子孫、カミリヤは神聖力のないお飾りの聖女と呼ばれていた。ある日婚約者の王太子に婚約破棄を告げられて……。

処理中です...