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第三章 火曜

28 第二王子の登校

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「ほら、第二王子マズルカ様よ」

 火曜日の午後、やっと落ち着きを取り戻した教室内が、少しざわついた。

 同級生たちは、午前の騒ぎから既に立ち直っている。


「婚約者の筆頭侯爵令嬢、イライザ様が第一王子を選んだため、王宮で寝込んだとウワサになっていましたのに」

 一昨日、日曜日の事件なのに、貴族たちにウワサが広がるのは、とても早い。

「寄り添っているのは、筆頭侯爵令嬢イライザ様よ、どうなっているのかしら?」

 クリ毛、ブラウンの瞳の第二王子マズルカに、金髪で紫の瞳の筆頭侯爵令嬢が、寄り添っている。


「第一王子タロス様は、本日午後から休みなので、修羅場にならなくて良かったよね」

 誰かが、小声で話している。第一王子は、休みではなく謹慎ですけどね。この話は、まだ学園には広がっていないようだ。

「違うわよ、第一王子は、午前の騒動で、謹慎になったのよ」

 あ、私は甘かった。王族のスキャンダルは、すでに広まっていた。


「午後の授業前だが、聞いてくれ」

 第二王子が、大声で、何やら話し始めた。
 王族の発言だ。教室内が静まり、聞き耳を立てる。

「僕は第二王子であり、聖女と婚約することが定めとなっている」

 聖女と婚約……そんな定めがあったのか?
 第一王子は全ての令嬢が好きだが、第二王子は聖女専門のようだ。


「そこで、わたくしの出番です」

 筆頭侯爵令嬢のイライザが話し出した。

「わたくしが、この王国一番の聖女です」

 あらら、自分が聖女だと言うだけなら、誰でもできることだ。聖女判定を受けたのか?


「聖女は、紫色の瞳を持つ!」

 第二王子が声を強めて言う。そういえば、第一王子をだました隣国の令嬢たちは紫の瞳だったが、メガネで瞳の色を変えていた偽聖女だ。

「イライザ嬢が、この王国一番の聖女だ」

 第二王子が、筆頭侯爵令嬢が聖女だと、力説し始めた。

 それは貴方の感想……いや、そうとも言えない。聖女判定でもしない限り、筆頭侯爵令嬢が聖女ではないと、否定する証拠はないから。


「一方、そこにいるフランソワーズは、第一王子の婚約者でありながら、紫色の瞳を持たないうえ、婚約を拒否した断罪すべき悪役令嬢である」

 いやいや、第二王子が、根も葉もないことを言い出した。婚約を拒否したのは第一王子のほうで……え、悪役令嬢? ……私が!

「しかしだ、僕の母は、フランソワーズを側妃にしろと言ってきた。なんと心の広い母なのだろう」

 側妃が、私を第二王子の側妃に? なんで……


「耳を貸すな、フラン。第二王子の母は側妃であり、第一王子の母である正妃に、勝ちたいだけだ」

 サクラが、私の不安を振り払ってくれた。

 もしも、中立派の長を父に持つ私が、第二王子と結ばれれば、貴族院で第二王子派が過半数を越え、王太子の指名が第二王子側へ傾くことになる。

 しかも、イライザを正妃にすれば、第一王子派を取り込み、ほぼすべての貴族が第二王子派になる。恐ろしい策だ。

 しかし、これは第一王子への反逆であり、国家転覆の一大事につながってしまう。

 というか、王子二人のどちらが国王になっても、この王国の将来は暗い気がする。


「第二王子である僕が聖女を婚約者にするのは、王国の安定と発展のためである」

「王弟殿下も聖女と婚約する定めであったが、残念ながら未だに独身である」

 王弟殿下も聖女を求め、そしてフラれたのか?


「大きなお世話だ」

 サクラが不満そうにつぶやいた。


「そこで、宣言する。王国中の聖女は、全て僕の婚約者とする」

「「え?」」

 教室中の生徒が、あまりのことに驚いた。

 さすが兄弟! 第一王子と同じく、第二王子も女好きであった。


「兄とは違う。第一王子は誰でも婚約者にするが、僕は聖女だけを婚約者にするんだ!」

 五十歩百歩だ……女好きな王子二人に大差はなく、似たり寄ったりだ。私が政略結婚を選んでまで守ろうとしたこの王国の将来は、真っ暗だ。


「僕は、聖女による聖女のためのハーレムを作る!」

 第二王子が宣言した。

「へ?」

 イライザが驚く。ハーレムまでは打ち合わせになかったようだ。

「わ、わたくしが一番ですよね?」

「もちろん、イライザ嬢が一番の聖女だ」

「わかりました。わたくしは側妃を認める心の広い聖女ですから」

 第二王子の言葉に、筆頭侯爵令嬢は落ち着きを取り戻したようだ。


「まずは、この侍女をハーレムに加える」

 第二王子が、紫色の瞳を持つサクラの侍女の肩を抱こうとした。

「スパン!」

 サクラのハリセンが、第二王子を張り倒した。


 床に倒れた第二王子の頭は、ちょうどイライザのヒールの下だった……踏んでいるように見えるが、これは事故だ。

 イライザが第二王子を見下ろす目、第二王子が喜んでいるような目が、怖い。

 踏まれたままの状態で、第二王子は、しぶとく何かを言っている。 

「と、とにかくだ……王弟殿下が作ったハーレムを越えるように、僕は、聖女によるハーレムを作る。このイライザが、クイーンだ!」

 え、王弟殿下が、聖女によるハーレムを作ったのですか? いつ、どこで……

 私は凍り付いた。


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