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第二章 月曜

20 孤独

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「魔道具の猫耳カチューシャはスイッチが入ってなかったのか。でも、遠くの王子たちの声は聞こえた。なぜだろう」

 スイッチに気がつかなかったのは、私が不器用でドジだからだ。
 でも、遠くの声が聞こえた……いや、今も、集中すると遠くの声が聞こえる。


「フラン、何か悩みでもあるのか?」

 教室に戻り、席に着いた所だ。サクラが心配して、私の顔をのぞき込んだ。女性同士だけど、少し恥ずかしい。

「貴族のお友達はたくさんいたけど、私が侯爵令嬢だったからなのね。本当は、孤独だったのだと、やっと気が付いたの」

 婚約を拒否され、父が爵位を返上したと、学園でウワサが広がり、お友達と思っていた貴族たちは、離れていった。無視が一番きつい。


「いや、全てがフランから離れたわけではない」

 サクラが、否定した。真剣な目をしている。

「カゲで数人から『フランソワーズ様をよろしくお願いします』と頼まれた」

「まさか」

 お友達が、カゲで私を心配してくれていたの?

「貴族には、それぞれ、家の事情がある。表立って動けない立場の貴族も多いんだ」

 サクラは、少し悔しそうだ。きっと、彼女の国でも、派閥による足の引っ張り合いがあるのだろう。


「約束どおり、ランチをおごるぞ。食堂へ行こう」

 そうだ、今日はサクラからランチをおごってもらえるんだった。

 今日からは、侯爵令嬢ではないので、侍女が付いていない。いつもと勝手が違い、調子が出ない私だ。

 ◇

「あれ? 何か、もめてる」

 食堂は、爵位の上下に関係なくテーブルに座るルールらしい。侯爵令嬢には個室が用意されていたので、知らなかった。

 私たちから少し離れた席で、数人の生徒がもめている。
 中等部か? ボウタイはグレーだ……上級貴族が、平民の特待生をイジメているようだ。

「待て、フラン、今は侯爵令嬢ではないだろ」

 立ち上がろうとした私を、サクラが止めた。

「オレにまかせろ」

 サクラの合図で、彼女の侍女が、上級貴族をたしなめた。サクラの侍女は、王弟殿下の侍女を兼務しており、上級貴族の令息や令嬢であっても、敬意を払わざるを得ない。


「サクラって、王弟殿下の侍女や、騎士団から護られているよね。もしかして、友好国の王族なの?」

 疑問に思っていたことを訊いてみた。

「ん? 友好国の王族が、食堂でランチを楽しむわけないだろ」

 そうか、王族や侯爵以上なら、個室でメイドをつけてランチするよね……先日までの私のように……なんだか、侯爵令嬢だった自分が、恥ずかしくなった。


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