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第二章 月曜

19 国家機密

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「タロス様のお部屋に忍んで行くため、約束の物は、用意出来ましたか?」

「もちろんだ」

「ありがとうございます。王族エリアの地図が無いと、私は迷子になって、護衛兵に捕まってしまいますから」

 王宮エリアの地図! 国家機密となっている品物だ。

 王族がどの部屋で休んでいるのか敵に知れたら、命を狙われてしまう。隣国の留学生になんか、絶対に渡せない品だ!


「サクラ、そろそろ、騎士団に合図を……どうしたの、サクラ?」

 なぜか彼女は、何かにポカンとした。

 あの令嬢は、スパイである可能性が高い。王族エリアの地図が隣国に渡る前に捕まえないと……

「フラン、魔道具のスイッチが入っていない……」

「え、スイッチなんて、あったの?」

 猫耳カチューシャには小さなスイッチがあって、それをオンにすることで、はじめて、遠くの話し声が聞こえるようになるらしい。

「でも、遠くの話し声……聞こえるよ」

「おかしいな、故障か? あ、今は、あの令嬢を取り押さえるのが先か……」

 サクラは、手を挙げて、騎士団に突撃を合図した。

 遠くの話し声が聞こえるって……もしかして、前世が猫だったから? 私に、猫の能力が目覚めたの?

 ◇

「これを貴女に贈ろう。今夜、僕の部屋に、忍んできてくれ」

「わかりました。お部屋で待っていて下さい」

 騎士団とともに、王族用のガゼボに突入したら、愛の会話の最中だった。きもい……

 護衛兵と騎士団が少しもめたので、突入のタイミングが遅れたのだ。地図はどこだ?

「その女、スパイ容疑で逮捕する」

 騎士団が隣国の留学生を取り囲む。


「おまえら、僕の婚約者に何をするんだ!」

 第一王子が怒る。

「第一王子、その隣国の留学生に、王族の地図を渡してはなりません!」

 私は彼を説得する。

「その地図は、王国の機密事項ですから」

「それがどうした?」

 え? 彼には、王族としての最低限の心得さえも持っていないのか。


「色ボケ王子を、上手くだませたのに、なぜバレたんだ」

 隣国の留学生が、悔しそうに愚痴を吐いた。

「なぜって……全てお見通し。証拠をつかむため、貴女を泳がしていたのよ、スパイさん」

 口から出まかせである。これは、良いウソだから許されるはず。

「スパイだと見破ったお前は、何者だ」

 令嬢は、私に向かって憎しみの目を向けてくる。

「フランソワーズ、第一王子の婚約者候補よ」

 ウソではない。第一王子から婚約契約書へのサインを拒否されたけど、私は、婚約者候補の一人だ。

「婚約者ですって? この色ボケ王子の婚約者は私だけではないのか」

「貴女は、四番目よ」

 私、筆頭侯爵令嬢、サクラ、そして隣国の留学生だ。

「四番目……四人も婚約者がいるのか?」

 隣国の留学生は、肩を落とした。一緒に、王子の護衛兵たちも、肩を落とした。


 騎士団が、隣国の留学生を連行していった。

「タロス、その地図は預かる」

 サクラが、第一王子から地図が入っている箱を取り上げた。

「サクラちゃ~ん、それを受け取ってくれるの? 僕はうれしいな」

「なにを言っている?」


「今夜、それを使って、僕の部屋に来てね」

 サクラが第一王子をにらむが、彼は気にかけていない。鋼のメンタルなのか。

 彼女は、中の地図を確認するため、箱を開けた。

「なんじゃこれ?」

 サクラは、箱の中身をつまみ上げた。
 ピンクの薄い生地、向こう側が透けて見える布……

「もちろんネグリジェだよ。それを着けて僕の部屋に来てね」

 スパイの物的証拠のはずが……どこまで色ボケなんだ!


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