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第一章 日曜日
12 異世界聖女召喚
しおりを挟む「フランソワーズ、お前も異世界聖女の召喚を見学しろ」
謁見の間で、元女王から命じられた。なぜ私が? 意図が不明である。私が、第一王子の婚約者候補だからか? ……それは嫌だ。
「承知いたしました」
私に拒否権はない。許されるなら、このまま屋敷に帰って寝たい……あ!
我が家、侯爵家の屋敷はストライキ中で、出入りができない……
私には、帰る場所が無い! どうしよう……
「どうした、フランソワーズ嬢」
固まっている私に王弟殿下が気付き、心配してくれた。
「困りました。侯爵令嬢から転落した私には、帰る場所がありません」
「学園の一般寮に、部屋を用意させている。不便をかけるが、しばらく我慢してくれ」
頼りになる男性は、こういう所にも気が付くのか。
「ありがとうございます」
お礼を言いながら、彼の瞳をチラッと見た。優しい黒い瞳だ。
◇
「進み具合はどうだ?」
元女王が、難しそうな顔をしている国王に訊く。
ここは、王宮に隠された「召喚の聖堂」らしい。初めて知った。
聖堂としては小さく、学園の教室くらいの広さで、天井は教室の倍程度の高さだ。
窓から陽が差し込んで、意外と明るい。
ここに来るまで、多くの角を曲がり、いくつかの扉をくぐった。
聖堂の扉の外は、護衛兵ではなく、騎士団が武装して警護している。
「コノハ女王陛下、芳しくありません。魔力が不足しています」
「わがはいも、これから魔力を放出、供給する。心配するな、作業を続けろ」
元女王が、テキパキと指示を飛ばす。
私も、この様な大人になりたい。完璧を目指しているが、まだまだだ。
元女王と私は、扉に近い場所に立ち、作業を見守る。
中央の床には、六ボウ星の魔法陣が描かれている。
「異世界の聖女は、僕の婚約者とする」
うゎ、第一王子もいたのか。一気に不安感が膨らむ。
魔法陣の近くに、国王と王弟殿下、第一王子が立っていた。聖女と聞いて、第一王子が急きょ入ってきたらしい。さすが、令嬢に関しては、どん欲な男だ。
「ダメだ、聖女は、クロガネの婚約者とする予定だ」
国王が第一王子をたしなめる。
え、召喚された聖女は、王弟殿下の婚約者となるの? 王国に身をささげるのでは……
召喚聖女との政略結婚は、王国の安定のため……私の第一王子との婚約と同じ。私に、王弟殿下を責める資格など無い。
「王弟殿下は、僕が王太子に指名されたら、王位継承権を破棄するのだから、聖女は、僕の婚約者とするほうが相応しいと思う」
「タロス、いい加減にしろ」
国王も、こんな息子に振り回されて、大変そうだ。
「ふぅ~、この王国には、勇者パーティーの血筋が、早急に必要だ」
元女王が、私の横で、ため息をつき、なぜか、私だけに聞こえるようつぶやいた。
勇者パーティーは実在したが、魔王討伐後の行動は、教科書に載っておらず、分からないところが多い。
血筋ということは、子孫が残されているのか……でも、誰だか分からないのか?
「フランソワーズ、これを使え」
元女王が、私にベールを渡してきた。
「かぶれ。聖女召喚の際、女性はベールで顔を隠すことになっている」
ベールをかぶると、部屋の窓が閉められ、ローソク魔法の灯りだけになった。
危なかった、ギリギリセーフ……ベールで瞳を隠すことができた。私の秘密は、知られてはいけない。
「魔王討伐百周年の記念行事として、異世界から聖女を召喚する」
国王が、召喚を宣言した。
「では、始めます」
マーキュリーさんの声だ。
ベールをかぶり、王弟殿下の侍女たち六名が、魔法陣の六ボウ星の頂点に立った。
「母上、始めますよ」
国王が、元女王に確認をとった。
「わがはいは、傍観者だ。現国王として、儀式を仕切りなさい」
元女王は、引退したものの、風格のある女性だ。私も、この様な素敵な女性になりたい。
「よし、始めよ」
国王が召喚の開始を指示した。
侍女たちが祈りをささげると、魔法陣の六ボウ星が光り始めた。
「異世界の聖女よ、この声が聞こえたら、応えて欲しい」
王弟殿下が、六ボウ星の中心部へ話しかけた。
光が揺らいでいる。誰かが、話しているような感じがする。異世界の聖女なのか?
「異世界の聖女よ、この世界へ、その姿を見せて頂きたい」
呼びかけに応えるように、六ボウ星の中心から光の粒が立ち上る。
静寂が、私たちを包み込む。
「おかしい、部屋に満ちる魔力が多い。異世界の魔力か? わがはいの魔力では調整できないぞ」
元女王が、想定外の魔力に気が付いた。
「聖女様~!」
静寂を破り、第一王子が大きな声を上げた。
六ボウ星の中心には、聖女の姿が浮かび、輝いている。
「僕と結婚してくれ!」
六ボウ星の聖女へ飛び込もうとしている。
「まて、タロス」
王弟殿下が、止めようとしたが、第一王子に突き飛ばされ、六ボウ星の中に転げた。
「兄さま!」
王弟殿下の身体に魔力の黒いイナズマが走り、倒れて動かない! 六ボウ星の光が、急速に消えていく。
侍女たちも、その場でヒザを付いた。何か異常な事態が起きている。
「兄さま~!」
私は、自分を見失った。兄さまを助けなければ!
「フランソワーズ! お前は近づくな」
元女王が、走り出そうとした私の腕をつかみ、引き留めた。
「異世界の魔力が、クロガネに干渉し、そしてお前にも……いや、お前は何か、異世界の魔力に、護られているのか?」
元女王の言葉に、私の胸に隠していた不思議な宝石が熱く反応した。
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