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第一章 日曜日
08 ビルダーパンツ
しおりを挟む「クロガネ様!」
侍女が、救護室の個室の中で、声を荒げた。
私の瞳には、王弟殿下の筋肉と……黒色のビルダーパンツが、強く焼き付いたままだ。
黒い布地に、金糸で派手にゴリラの刺しゅう……大人の雰囲気だった面影などなく、目立つことしか考えていない、そんなパンツだ。
侍女が、王弟殿下を蹴り出し、シャッと、カーテンを閉めた。
「す、すまない、ポージングの練習をしている途中だった」
「これは下着ではない。競技用のコスチュームなんだ」
カーテンの向こう側から、申し訳なさそうな声が聞こえる。
「申し訳ありません、クロガネ様はボディビル大会が近いもので」
侍女も謝罪してきた。
「だ、大丈夫です。私もボディビル大会を見たことありますから」
確かに見たことはあるが、遠くからである。こんなに目の前で、ビルダーパンツを見たのは初めてである。
筋肉美に興味はあったが、まさか、こんな形で……ん? 少しうれしい気持ちなのは、なぜだろうか。
「あの~、私の服は?」
今日の婚約契約書へのサインでの服装は、私も第一王子も、学園の制服を着用するよう指定があった。今は救護用パジャマを着用している。
「クリーン魔法をかけましたので、洗濯して乾かした状態と同様に、カーテンの外に置いてあります。フランソワーズ様のお体も、クリーン魔法で清潔な状態にいたしました」
侍女の説明で、お風呂上がりのようなサッパリした自分の状態に納得した。
侍女が着替えさせてくれたのか……隠している宝石は気付かれなかったようだ。
「素晴らしい魔法ですね」
侯爵家のメイドが使用するクリーン魔法とは、段違いだ。
「クリーン魔法は、コツさえつかめば、初級メイドでも出来ますよ……フランソワーズ様にもお教えいたしましょうか?」
私が教えてほしそうな顔をしていたのを、侍女が気が付いた。
「ぜひお願いします。でも、私は『魔力ゼロ』だと言われていますので、発動できるかどうか……」
本当は、魔力ゼロではないが、私には秘密がある。
「フランソワーズ様は、努力家の令嬢だとうかがっています。試してみて、それから考えましょう」
侍女が優しく微笑んでくれた。それだけで、なんだか出来そうな気がする。
「聖なる力よ、フランソワーズの願いに応じ、清き姿を示せ! クリーン」
侍女から教えられたとおり、クリーン魔法を発動させてみた。
「キャ」
私の不安定な魔力では、上手く発動できず、救護用パジャマが、ところどころ破けた。
「あら? 魔力が強すぎましたね……おかしいですね『魔力ゼロ』のはずなのに。また今度、練習してみましょう」
失敗だった、しかたない。でも、お風呂の回数が減るのは寂しいけど、このクリーン魔法の、さっぱり感はクセになりそうだ。
「マーキュリー、もういいかな? ちゃんと服を着たから」
王弟殿下が、カーテンの外から訊いてきた。
侍女の名前はマーキュリーと言うらしい。王弟殿下より少し年上のような、大人の雰囲気を持つ女性だ。
しかし、今度は逆に私のほうが、ところどころ肌が露出している。どうしよう。
「フランソワーズ様、これでよろしければ、お使いください」
侍女が、破けたパジャマを見て、自分のブレザーを貸してくれた。
「お心遣い、ありがとうございます」
侍女のブレザーを羽織ったら、少し、落ち着いた。
私も、この侍女のような、心配りが出来る大人になりたいと思う……あれ? 胸がガバガバだ。シャツ姿のマーキュリーさんを見ると、胸が大きい……とほほ。
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