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第一章 日曜日

05 前世の記憶

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 この世界でも……私は溺れる?

 あたりが暗い中、走馬灯のように記憶がフラッシュバックした。そうか、私は、前世では猫だった。

 ◇

 ご主人様と、アパートで暮らしていた。

「ニャーン」

 猫の私は、可愛らしく鳴いた。ご主人様にかまって欲しいのだ。

 部屋の中は、本の香りでいっぱいだ。


 ご主人様は、テレビをつけっぱなしで、パソコンとやらを、指でたたいている。

 部屋の窓から見える景色は変わり映えしなかったが、このテレビという画面は、部屋の外を映し出してくれる。これを眺めながら、猫の私は色いろな知識を得た。

 ご主人様のヒザに寄って行くと、猫の私の顔周りを指でゆっくりとなでてくれたので、ゴロゴロとノドを鳴らした。

 眠くなったので、ゴロンと横になる。


 ご主人様は猫の私を支え、猫の私はご主人様を支える、愛のある生活だった……


 ご主人様が読んでくれた小説は、とある不幸な令嬢が幸せになる物語だった。

 小説には、ヒロインと呼ばれる令嬢がいた。猫の私は、そんな令嬢になりたいと願っていた。ヒロインになれば、ご主人様をもっと癒してあげられると思っていたから。

 でも、ヒロインは、悪い令嬢のウソで、部屋を追い出されてしまった。
 ご主人様と別れ、一人になったヒロイン……


 この後、どうなるのだろう? 楽しみだった。

 ご主人様は、副業で小説を書いていた。いまは異世界ファンタジーの物語を書いているが、次は、この恋愛の物語を完成させたいんだと、話してくれた。


 その夜は、ご主人様の残したビールをなめて、酔っぱらったので、いつものように、バスタブのふたの上に、飛び乗った……

 しかし、その日に限って、フタは無く、バスタブの中に、猫の私は落ちた。

 冷たい水、酔っぱらった体、滑るバスタブ……猫の私の意識は、水底へと落ちていった……


 ◇


「フラン?」

 あれ? 猫の私の名前は「ネコ」なのに……


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