上 下
14 / 14

14.娘の婚約と私

しおりを挟む

 もう夜になりかけているのに、また、国王陛下の寝室に集められました。

 花に埋もれたベッドの前に、王弟陛下のベルモット様、第二王子のジン様、貴族院の議長、そしてなぜか私と娘のチェリー……

 私たちは、伯爵家の取り潰しまで、もう時間がない状況なので、王族のゴタゴタに、もう巻き込まないで欲しいというのが本音です。

 今は、娘の婿が欲しいのです。いえ、こうなったら、せめて娘だけでも、嫁ぎ先が欲しいのです。


 貴族院の議長が、国王陛下の、本物の遺言書を開封しました。

「第二王子様を、国王に指名する内容です」
 議長が、読み上げました。

 第一王子が盗み見た内容と同じです。


「早速だが、新国王のジン。今回の事件を、どう国民に知らせる?」

 王弟殿下が、新しい国王に問いかけます。


「事件の全てを、真実を公表します。国を建て直すために、ウソで塗り固めることは、もう終わりにします」

 新しい国王の決意がうかがえます。


「あの~、先ほどの遺言書を、ちゃんと聞いていましたか?」

 議長が、申し訳なさそうに言ってきました。

「「え?」」
 二人とも、何のことかわかっていないようです。

 これは、二人とも、ちゃんと聞いていませんでしたね。

「遺言書には、ご結婚されたら国王にするとの条件が書かれていること、私、読み上げましたよね」

 議長は呆れています。


「よし! ジン、すぐに結婚しろ。交換した名刺から、今すぐ令嬢を選べ」

 ベルモット君が、無茶ぶりしました。

「交換した名刺は」

 新国王が、上着の内ポケットから、名刺を一枚取り出します。

「この一枚だけです」

「たった一枚だけなのか! その令嬢は誰だ」
 なんだか、ベルモット君は芝居じみていませんか?


「マンハッタン伯爵家、チェリー嬢です」
 新国王は恥ずかしそうに読み上げました。

 娘の顔も、真っ赤になっています。

 これは、ベルモット君に一本取られたようです。


「ベルモット様は、どうなんですか、何枚持っているのですか」

 新国王が食らいつきます。

「そうですよ、もう王弟殿下ではないのですから、ご結婚すべきですよ、ベルモット君」

 私も援護射撃します。


「俺も一枚だけだ」

 ベルモット君は観念し、上着の内ポケットから名刺を1枚取り出しました。

「マンハッタン伯爵家のオリーブだ」

 え! 私の名刺です。


「俺と貴女の爵位の差は、アイツが無くしてくれた」

 学生時代、男爵家の私は、王族との結婚なんて、考えられませんでした。

「貴女のアイツへの想いを含めて、俺が貴女を護っていくことを、ここに誓う」

 夫によって、伯爵家となった今の私は、王族との結婚が可能となっています。

「オリーブ、今度こそ、俺と結婚してくれ」

 ベルモット君は、顔を真っ赤にしています。


「……はい、よろしくお願いします」

 娘に背を押され、彼の胸に飛び込みます。

 私の喪が明けるまで求婚を待っていた彼に、真摯に応えました。


 昇ってきた満月が、うれし涙で、滲んでいます。




 ━━ FIN ━━

しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

護国の聖女、婚約破棄の上、国外追放される。〜もう護らなくていいんですね〜

ココちゃん
恋愛
平民出身と蔑まれつつも、聖女として10年間一人で護国の大結界を維持してきたジルヴァラは、学園の卒業式で、冤罪を理由に第一王子に婚約を破棄され、国外追放されてしまう。 護国の大結界は、聖女が結界の外に出た瞬間、消滅してしまうけれど、王子の新しい婚約者さんが次の聖女だっていうし大丈夫だよね。 がんばれ。 …テンプレ聖女モノです。

[完結]本当にバカね

シマ
恋愛
私には幼い頃から婚約者がいる。 この国の子供は貴族、平民問わず試験に合格すれば通えるサラタル学園がある。 貴族は落ちたら恥とまで言われる学園で出会った平民と恋に落ちた婚約者。 入婿の貴方が私を見下すとは良い度胸ね。 私を敵に回したら、どうなるか分からせてあげる。

王太子に婚約破棄され塔に幽閉されてしまい、守護神に祈れません。このままでは国が滅んでしまいます。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 リドス公爵家の長女ダイアナは、ラステ王国の守護神に選ばれた聖女だった。 守護神との契約で、穢れない乙女が毎日祈りを行うことになっていた。 だがダイアナの婚約者チャールズ王太子は守護神を蔑ろにして、ダイアナに婚前交渉を迫り平手打ちを喰らった。 それを逆恨みしたチャールズ王太子は、ダイアナの妹で愛人のカミラと謀り、ダイアナが守護神との契約を蔑ろにして、リドス公爵家で入りの庭師と不義密通したと罪を捏造し、何の罪もない庭師を殺害して反論を封じたうえで、ダイアナを塔に幽閉してしまった。

【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……

buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。 みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……

【短編完結】記憶なしで婚約破棄、常識的にざまあです。だってそれまずいって

鏑木 うりこ
恋愛
お慕いしておりましたのにーーー  残った記憶は強烈な悲しみだけだったけれど、私が目を開けると婚約破棄の真っ最中?! 待って待って何にも分からない!目の前の人の顔も名前も、私の腕をつかみ上げている人のことも!  うわーーうわーーどうしたらいいんだ!  メンタルつよつよ女子がふわ~り、さっくりかる~い感じの婚約破棄でざまぁしてしまった。でもメンタルつよつよなので、ザクザク切り捨てて行きます!

やっかいな幼なじみは御免です!

神楽ゆきな
恋愛
有名な3人組がいた。 アリス・マイヤーズ子爵令嬢に、マーティ・エドウィン男爵令息、それからシェイマス・パウエル伯爵令息である。 整った顔立ちに、豊かな金髪の彼らは幼なじみ。 いつも皆の注目の的だった。 ネリー・ディアス伯爵令嬢ももちろん、遠巻きに彼らを見ていた側だったのだが、ある日突然マーティとの婚約が決まってしまう。 それからアリスとシェイマスの婚約も。 家の為の政略結婚だと割り切って、適度に仲良くなればいい、と思っていたネリーだったが…… 「ねえねえ、マーティ!聞いてるー?」 マーティといると必ず割り込んでくるアリスのせいで、積もり積もっていくイライラ。 「そんなにイチャイチャしたいなら、あなた達が婚約すれば良かったじゃない!」 なんて、口には出さないけど……はあ……。

そう言うと思ってた

mios
恋愛
公爵令息のアランは馬鹿ではない。ちゃんとわかっていた。自分が夢中になっているアナスタシアが自分をそれほど好きでないことも、自分の婚約者であるカリナが自分を愛していることも。 ※いつものように視点がバラバラします。

婚約破棄の上に家を追放された直後に聖女としての力に目覚めました。

三葉 空
恋愛
 ユリナはバラノン伯爵家の長女であり、公爵子息のブリックス・オメルダと婚約していた。しかし、ブリックスは身勝手な理由で彼女に婚約破棄を言い渡す。さらに、元から妹ばかり可愛がっていた両親にも愛想を尽かされ、家から追放されてしまう。ユリナは全てを失いショックを受けるが、直後に聖女としての力に目覚める。そして、神殿の神職たちだけでなく、王家からも丁重に扱われる。さらに、お祈りをするだけでたんまりと給料をもらえるチート職業、それが聖女。さらに、イケメン王子のレオルドに見初められて求愛を受ける。どん底から一転、一気に幸せを掴み取った。その事実を知った元婚約者と元家族は……

処理中です...