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一話完結 つまり、王妃のスペアです
しおりを挟む「侯爵家の令嬢ギンチヨとの婚約を破棄する」
私の政略結婚の相手であり、浮気性の第一王子が宣言しました。
王宮での、国王陛下主催のパーティー会場が、一気に静まりかえります。
学園が夏休みの午後、窓のカーテンの向こう側は、輝いているはずなのに、会場の中は、魔法の照明による薄暗い空気感……
第一王子には、場所を選べと言ってやりたいです。
彼の後ろには、私たちの政略結婚を決めた国王陛下がいます。なお、王妃は不在です。
王妃は、第二王子を出産した後に、体調が戻らず、病床にふせてしまったままです。
そのため、侯爵家の令嬢である私、銀髪のギンチヨは、第一王子の婚約者に選ばれ、幼いころから王妃教育を強いられてきました。
つまり、王妃のスペアです……好意的には“王妃の代理”と言われています。
それを、この第一王子は、白紙に戻すつもりのようです。
「そして、ここにいる伯爵家の令嬢を、新たな婚約者とする」
第一王子の宣言に、当の令嬢が驚いています。
彼女は、学園の後輩で、たしか彼氏がいたはずです。
それに、私の調査では、第一王子は裏で多くの令嬢と浮気をしています。彼女たちを捨てて、この令嬢と婚約するのもおかしいです。
「さらに、隠されていた第二王子を紹介する」
第一王子は、令息を招きました。
「この伯爵家の令息こそ、隠されていた第二王子である」
伯爵家の令息は、髪を黒く染めていますが、学園の私の同級生で、先ほどの令嬢の兄です。
魔法陣の教授である伯爵の、嫡男であることを鼻にかけており、良い印象はありません。
「国王陛下は、第二王子を王太子とすると宣言した」
会場がどよめきます。
第一王子ではなく、これまで隠してきた黒髪の第二王子を後継ぎに指名するなんて、貴族の誰も思ってもいなかったことです。
第一王子の後ろ盾になっていた貴族たちとの信頼関係が崩れ、貴族間の勢力バランスも崩れます。
おかしいです。魅了の魔法でも使わなければ、こんな事にはなりませんが、王族はアンチ魅了の魔法陣で護られています。
私は、貴族たちの混乱に紛れて、会場を出ました。
◇
王宮を抜け出した私は、学園の男子寮に、馬車で乗り付けました。
もう、日が傾いています。
「賊に追われてます、かくまってください」
門前で、寮の護衛兵に止められましたが、緊急事態だと言って、入れてもらいます。
ウソではありません。たぶん、男子寮に身を隠している黒髪の令息を狙って、王宮から刺客が来るはずです。
同級生の、黒髪のクロガネ君の部屋に向かいます。彼の部屋番号、というか男子寮の部屋割り等の部外秘なことまで、王妃教育の中にありました。
部屋には魔法でカギがかかっていましたが、私は王族の部屋を開ける権限をもらっていますので、魔法を解錠してドアを開けます。
「え?」
部屋でくつろいでいた彼と目が合いました。
彼はベッドで春画を見ていました。
「緊急事態です、クロガネ君!」
私は告げましたけど、彼は別の意味で緊急事態のようで、固まっています。
「伯爵家の令息が、第二王子を名乗り、王太子となりました」
概要を伝えましたが、彼は、固まったままで、冷静な判断ができないようです。
「偽の第二王子が、本物の第二王子である貴方を、消しに来ると言っているのです!」
ここまで言って、やっと彼は現実に戻ったようです。
「わかった、廊下が騒がしい、逃げるぞ」
たしかに、廊下から喧騒が聞こえます。
「窓を開けて、逃げた形跡を作って」
彼が、私に指示を出します。
バン! 部屋のドアが破壊され、王宮の兵士が入ってきたようです。
私たち二人が、クローゼットの中に逃げ込んだ直後でした。
「窓から逃げたぞ、追え! 令嬢も一緒だ!」
兵士の怒鳴り声が聞こえました。
部屋が静かになったので、クローゼットの後ろに隠されたドアから、王族用のシェルターに移動します。
秘密の階段を下りたので、たぶん寮の地下だと思われます。
魔法のランタンを点け、換気用のファンを回します。
「私たち二人は、お尋ね者になったようですね」
困り果てた声で、つぶやきます。
「ギンチヨが知っていることを、全て教えてくれないか」
クロガネ君は、何か策を考えているようです。
◇
「これが、王族用のアンチ魅了の魔法陣だ」
自分が第二王子であることを認めた彼が、秘密であるアンチ魅了の魔法陣を、床に展開して見せてくれました。
「侯爵家の魔法陣とは少し違いますね」
私は、魔法陣にかけては王国でトップクラスの実力で、一目で気が付きます。
「管理者用のドアが隠されていますね」
これは、誰かがメンテナンスを行っています。
「王族用の魔法陣は、伯爵が管理している」
クロガネ君が答えてくれました。
あの令息の父親ですか……
「伯爵である教授が、魔法陣で罪を犯すことは考え難いな」
彼が、考察します。
学園で魔法陣の教師をする伯爵は人格者であると、言いたいのでしょう。
「魔法陣オタクは、魔法陣にプライドを持っていますからね」
私が、考察します。クロガネ君は意外な顔をしていますが、無視です。
「誰かが、解錠の呪文を盗んだか……」
「私も、あの令息だと思います」
「証拠がないだろ」
「試しに、あのオタク教授が考えそうな解錠の呪文を入れてみましょうか」
「まさか、たそがれよりもくらきもの……」
彼がつぶやくと、魔法陣の管理者用ドアが開きました。
「「あちゃ~」」
二人で驚き、呆れます。
◇
「両親は金髪なのに、俺の髪は黒だったので、不貞の子だと言われ、存在を隠されることになった」
クロガネ君が、自身のことを語り始めました。
「第二王子のことは知っています」
上級貴族なら、誰もが聞いたことがある噂話です。
「母は、心労で倒れ、実家に帰っている。母は不貞を行うような人では絶対にない!」
彼の語気が強まります。
「王妃が不在となり、私は幼いころから、王妃教育を強いられてきました」
私も自身のことを語ります。
「そして、王宮の図書館で、勉強もしました。そこで、見つけましたよ」
「王妃様のご実家、クロガネ君の四代前に黒髪の侯爵がいらしたことを」
クロガネ君が黒髪であっても、隔世遺伝であり、不思議ではありません。
「それは、知らなかった」
彼は驚き、うれしそうな顔をしました。
「クロガネ君は、王族の教育をどこで受けたのですか?」
「ギンチヨの王妃教育の時、給仕の子供がいただろ、それが俺だ」
「あの時、遮音の魔道具は、動作していなかったのですか?」
「遮音の魔道具は、音を部屋の外に出さない物で、部屋の中にいた俺も、秘密裏に、一緒に教育を受けていたんだ」
「私が泣きながら教育を受けていたのを、見ていたのですね」
少しふくれた顔を作ります。
「ギンチヨのがんばっている姿を、近くで見れたことは、幸せなことだったと思っている」
彼の顔は赤くなっています。
◇
「シェルターの備蓄食料は、二人なら三日分だ」
なるほど、その間、二人っきりで過ごすわけですね。
「三日間ですか、私にとって悪い噂が立ちます。この責任は、取ってくださいね……」
◇
食料が尽きた朝、二人で王宮に向かいます。
私は、クロガネ君から学園の制服を借り、髪を結んで、男装しています。
彼の鍛えた胸で、バストはきつくありません。でも、ウエストが、ガバガバで苦労しました。
王族が脱出するためのトンネルを、逆に進みます。
出た場所は、私が王妃教育を強いられた部屋です。
「堂々と歩けば、意外と気が付かないはずだ」
彼の言葉を信じて、廊下を堂々と歩きます。
「でも、多くの視線を感じるのですけど」
王宮の廊下を、学園の生徒、黒髪と銀髪の二人が歩くなんて、普通はないですよね。
「気にしたら負けだ、前を向いて」
王族の専用エリアに入りました。
護衛兵が、驚いていましたが、なぜか通してくれます。
「本物の第二王子様と、王妃代理のギンチヨ様とお見受けいたします。私たちは、王国を護るため、決起しました」
護衛兵が、物騒なことを言い出しました。
後ろを振り向くと、武装した騎士団がいます。
「私たちは、新国王への忠誠を拒否しました」
もう後がない、そんな皆さんです。
「私たち、すっかりバレているじゃない」
貴賓室の扉の前です。
この中に、新国王、あの令息がいます。
護衛兵が、扉を開けます。
貴賓室の中の令息は、第一王子の浮気相手だった女性に囲まれていました。
突然の乱入に驚いた女性たちが散ります。護衛はいません。
クロガネ君が、有無を言わさず、令息を殴り倒します。アッという間の出来事でした。
◇
令息は、国家転覆の罪で、極刑になりました。
父親の伯爵は、解錠の呪文の管理が不十分だったと、男爵に降格されました。
第一王子と婚約させられた令嬢の扱いについては、結論が出ていません。
国王陛下と第一王子は、今回の被害者ではあります。
しかし、これまでの女性問題も相まって、国民と貴族からの信用を失いました。
公表では、退位としましたが、完全に失脚しました。
そういえば、国王陛下と第一王子の魅了を解いた時です。
「ギンチヨ嬢、私はどうかしていた。どうか復縁して欲しい」
第一王子が、泣き顔で、懇願してきました。
「私は、すでにクロガネ第二王子様、いえ、新しい国王様と婚約しています」
私がそう告げると、クロガネ君が、なれた感じで、私にキスしてくれました。
━━ FIN ━━
【後書き】
お読みいただきありがとうございました。
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