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後編:男運に気付かないメイド長

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 警備隊が来るタイミングが良すぎる。
 店からは通報していない。
 強盗は、警備隊に後をつけられていたのだろうか?
 いや、警備隊は強盗を事前に知っていたのだろう……

「裏帳簿とともに、私たち全員の口を封じるつもりかも」

「裏帳簿! なぜ、これが裏帳簿だとわかった?」

 強盗は焦っているのか、よくしゃべる。


「人質をとられた、不測の事態が予想される」

 警備兵の指揮官らしき男の声だ。

「非常事態だ、毒剣の使用を認める」

 指揮官の声! 剣に毒を塗ることは、警備隊では禁止されているはず……

「まて、人質がいるんだぞ!」
 イノセントがドアの向こう側へ叫ぶ。

「強盗は人質に危害を加えている、急いで突撃するぞ」
 この指揮官の行動は何か変だ……


「確定ね、警備隊は、不測の事態だと言って、私たち四人の命を奪うつもりよ」

 部屋の中が沈黙した。ドアを壊す音だけが響く。


「盗難防止の頑丈なドアだが、すぐに破られる、どうする……」

 彼は重圧で押しつぶされそうになっている。店の主人として、何か対応しようと必死だ。


「こちらから」

 女性従業員が、机の後ろの壁に隠されていた扉を開けた。

「ここから外に逃げれます、私がオトリになりますので、早く!」

 彼女は覚悟を決めたようだ。

    ◇

「ガン!」
 ドアが壊れた音だ。複数の足音が部屋に入ってきた。

「警備隊長、隠し扉が開いています、外に逃げられました!」

 警備隊の声だ。指揮官は警備隊長だった。これは大物が釣れた。

「これは不測の事態だ!」
 警備隊長が叫んだ。

 全員の口を塞げという警備隊の隠語だ。


「くそ、本棚から裏帳簿が抜かれている……何としても取り返えさねば」

 警備隊長の足音が遠ざかる。隠し扉を開けておくというオトリが、上手く効いたようだ。

 私は、暗く狭い隙間で、耳を澄ます。

    ◇

「警備隊は外に出ろ! ここはわれわれの管轄だ!」

 この声は、騎士団長だ。

「メイド長、いま開けますね」

 お供のメイドの声だ。騎士団長と共に入ってきたようだ。


 暗闇に、まぶしい光が飛び込んできた。本棚がドアのように開く。裏の隠し部屋に、私たちは隠れていたのだ。

「予想より速くて助かったわ」

 狭い隙間からゾロゾロと四人が出た。


「フランソワーズが、色いろな意味で、無事で良かった」

 騎士団長は、私が無事なことに安どしたが、色いろな意味って、どういう意味だ?

「盗賊団が捕まるまで、ろう獄でかくまってやる」

 赤いエンビ服を羽織る騎士団長が、強盗をにらみ、連行していった。


「メイド長、デートを邪魔してすみません、少し早く着いちゃいました」

「騎士団長に、フランソワーズ様がデートだと言ったら、慌ててこっちに来ちゃったんです」

 お供のメイドがにこやかに笑う。


「この隠し部屋に、すぐに気が付いたのはさすがね」

「はい、ここの壁は、金庫がはめ込まれるほどの厚みがあるのに、本棚の奥行きが浅いので」

 彼女は当然の事だと言う。私は、彼女の高い能力を見抜いて、お供のメイドとして引き抜いたのだ。


「この隙間は、店側との出入り口だったようね、お店を改装した時に安く塞いだのでしょう」

「われわれも、気が付かなかった……」

 イノセントがつぶやく。まぁ、普通は気が付かないでしょうね。


    ◇◇◇


「あの帳簿が騎士団に渡れば、私たちは終わりなのよ、お父様!」

「落ち着け、こちらも全力でアイツらを探しているんだ」



「ご機嫌斜めのようですね、警備隊長」

 私は、騎士団長とともに警備隊長の執務室へ入る。

 警備隊長と一緒に、イノセントの元夫人もいたのは、ラッキーといっていい。

 二人の顔は似ている。さすが親子だ。元夫人は、学園時代は美しかったが、今では悪人顔になっていた。

 内面は、顔に現れる。一見して美人であってもだ……


 騎士団長が、二人に裏帳簿を見せた。

 泣き崩れる元夫人は、騎士団長がまだ何も言っていないのに、これが裏帳簿だと認めた。良くて投獄、悪ければ極刑だろう……


 後始末は騎士団長に任せ、私は部屋を出る。
 玄関ホールには、イノセントが待っていた。

「終わったようだな、フランソワーズ、これから二人でディナーでもどうだ?」

「私には仕事があります」と言って断る。

 彼は不満そうだ。そんなにホホを膨らませなくても良いだろうに。


「今度は、容姿や爵位ではなく、信じられる令嬢に求婚しなさい」

 余計なお節介だが、同級生だったよしみだ。彼の後ろには、少し離れてあの女性従業員が控えているから。


 二人を背に、私は馬車のほうへと歩を進める。

「メイド長……」
「ん?」

「メイド長は、お休み中なので、仕事はありませんよ」

 お付きのメイドが、意味ありげにニヤリとした。


「……そうでしたね、二人で、どこか美味しいお店に行きましょうか」

「はい、ごちそうさまです」
 彼女はうれしそうに笑った。

 信頼できる仲間の笑顔は、いつ見ても気持ちが良いものだ。



━━ Fin ━━


あとがき
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