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一話完結 そっか、卒業まで、あと一年だけですね……
しおりを挟む「クロガネ君、学園内を案内するよう、教師から言われているのですが、時間はありますか?」
銀髪を揺らして話しかける私は、ギンチヨ。
侯爵家の令嬢ですが、学園では平等を基本とするので、爵位を口にすることはありません。
今日、私のクラスに、留学生が来ました。
友好国からの留学生で、教室の最後尾、私の席の隣に決まりました。
黒髪のイケメン君ですが、残念ながら、すでに隣国の王子というハイスペック君が教室の最前列に座り、令嬢たちの関心を集めていますので、爵位の分からない彼は、とても目立たない存在です。
「お願いします」
彼は、声もイケメンですね。
「私のことは、ギンチヨと呼んでください」
「ありがとう、ギンチヨ嬢。一年間、よろしくお願いします」
性格は素直なようです。
第一印象は合格です。
「そっか、卒業まで、あと一年だけですね……」
卒業という言葉に、なんとなく、期待と不安、そして寂しさを感じます。
「一年だけですが、クロガネ君と一緒に学べて、私はうれしいです」
私の、この一言で、彼の顔は真っ赤になりました。
彼に、彼女はいないようで、楽しめそうです。
◇
「あら、雨が」
窓の外の景色が、濡れてきました。王国の今の季節は、時々、不安定な天気になります。
「しまったな、傘を学生寮に置いてきた」
クロガネ君は、この王国の気象には疎いようです。
普段は完璧な彼ですが、時々ドジるところが、可愛いです。
「私は傘を持っていますので、授業が終わったら、一緒にどうですか?」
声をかけます。
「ギンチヨ嬢と俺が、あ、相合傘……」
彼の顔が真っ赤になりました。
玄関ホールまで、一緒に並んで帰ります。
「雨は、やみませんね」
「そ、そうだな」
彼は、ドキドキしているようです。
「はいどうぞ、私の傘を貸します。私は馬車で屋敷へ帰りますので、返すのはいつでも良いですよ」
女性用の傘を、クロガネ君へ手渡します。
「あ……?」
固まる彼に、私は微笑みます。
裏表のない素直な彼は、可愛いです。
「男女が二人きりで、同じ馬車に乗ることは出来ませんから」
私だけ、馬車に乗ります。
今日も楽しい一日でした。
◇
「クロガネ君の国では、ジャンケンはあるのですか?」
お昼休みに、彼に話しかけます。
「俺の国でも、グーチョキパーは、あるよ」
彼は、負けないぞという顔になっています。
普段はクールなのに、私と話す時は、いい笑顔を見せてくれます。
「では、一つ勝負をしましょう」
「負けた方が、休日のランチをおごること、いいですね」
私が、煽ります。
「受けてたつ」
彼は、勝気な性格ですね。
腕まくりした彼の腕が、引き締まっていて、ちょっとドキッとしました。
「もし、クロガネ君が、チョキで勝ったら、キスをしてあげますよ」
心理作戦です。
「え!」
愕いた彼は、手を握りしめています。
「ジャンケンポン」
素早くパーを出します。
「私の勝ちですね」
彼は、力の入ったグーのまま固まっています。
誠実なのですね、そこが、彼の良い所です。
「では、次の日曜日、クロガネ君からデートに誘われましたので、私が馬車で迎えに行きますね」
彼は、顔を真っ赤にして、固まっています。
今日も楽しい一日でした。
◇
ここは王都で人気の甘味処です。
「一人ボッチでは、なかなか入れないお店なので、クロガネ君から誘ってもらい、助かりました」
「え? 誘ったのはギンチヨ嬢…」
彼は、聞き上手なのに、ここは引けない所のようです。
「負けた騎士様が、何を言っているのですか」
私は、目を細めて微笑みます。
「はい、姫様の言うとおりです」
ちゃんと、令嬢を立ててくれます。
「クロガネ君、読唇術は習っていますか?」
せっかくのデートですから、話題を変えます。
「もちろん」
読唇術は、王族クラスだけが習う、秘技です。彼は、友好国の王族なのでしょうか?
「では、唇の動きで、言葉を当てるゲームをしましょう」
「負けた方が、次のお店をおごること、いいですね」
すまし顔で言いましたが、心の中では笑っています。
「受けてたつ」
彼の勝気な性格から、計画通りの答えを頂きました。
「では、私から」
「……」
「さて、なんと言ったでしょう?」
「…好き…?」
彼は顔を真っ赤にして答えました。
これは、私を女性として、完全に意識していますね。
「はずれです、私は“月”と言いました」
「私の銀髪は、月の女神と言われているのですよ」
ガッカリしている彼は、可愛いです。
これで、もう一軒、彼と一緒にお店を回れます。
これからも、楽しい日々になりそうです。
でも、学園の卒業とともに、クロガネ君は友好国へ帰るのですね。
◇
今日は、王太子の結婚式で、王宮はたくさんの招待客であふれています。
私も侯爵家の令嬢として、王宮に来ました。目的は、花嫁の“ブーケトス”です。
ブーケを手にした令嬢は、次に結婚をすることができるという言い伝えがあります。
取り合いになるので、たくさんのブーケが用意され、独身の令嬢に配られるイベントがあるのです。
でも、時間前なのに、とても混みあっています。
「あれ? クロガネ君、どうしてここへ」
「人ごみに流されてきた、ここはどこなんだ?」
令嬢にもみくちゃにされている彼を、とりあえず、空いた場所へ案内します。
「パパだ~」
幼い女の子が、彼の脚にしがみ付いています。
「クロガネ君の娘さんですか?」
彼をにらみます。
「違う、きっと迷子だよ」
あわてて否定してきましたが、どことなく彼に似ている女の子です。
「冗談です。一緒にお父さんを探しましょ」
女の子の髪が、くしゃくしゃになっているので、銀色の髪を梳かし、私のピンクの髪飾りを一つ外して、結んであげました。
「ママだ~」
私を、母親と勘違いする可愛い女の子です。女の子と手をつなぎます。
クロガネ君も、女の子と手をつなぎます。
「パパとママが、見つかった、ありがとう」
女の子が笑っています。でも……
「「消えた?」」
女の子の姿はなく、私とクロガネ君が手をつないでいます。
「今のは妖精さん?」
「ギンチヨのピンクの髪飾りが一つ無くなっている」
彼が、私の小さな変化に気が付きました。
私たち二人の周りから音が消え、つないだ手から、彼の鼓動が伝わってきます。
すぐに、周りの騒がしい音が復活しました。
「あ~! ブーケをもらえなかった」
イベントが終わっています。これはショックで、落ち込みます。
「大丈夫、ギンチヨは幸せになるから、俺が幸せにするから」
クロガネ君、それはプロポーズに聞こえるのですが。
私は、静かに微笑み、唇を動かします。
「……」
王宮の上、夕焼け空に、お祝いの花火があがります。
私たち二人は、手をつないだまま、中庭から空を見上げました。
◇
あれから数年が経ちました。ここは友好国の王宮の中庭です。
幼い娘を抱く黒髪の王太子、王太子妃となった私、三人で寄り添い、夕焼け空の花火を見上げました。
娘の銀髪は、ピンクの髪飾りで結んでいます。
━━ FIN ━━
【後書き】
お読みいただきありがとうございました。
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