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エピローグ

第56話 王国からの旅立ち

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「冒険者学校は壊れちゃいましたか」

 冒険者学校の校舎の前です。

 王弟殿下が暴走し、悪党を貫いた黒いヤリは、悪党の記憶を奪いました。

 さらに、影の斬撃が、王宮を突き抜け、冒険者学校の校舎を破壊しました。


 あれから、一カ月が経ちました。

「制御出来ない兵器は、兵器として使えないのよね」

 私は、冷静さを持って力を使うことを、心に誓いました。

 私の中にある、光の力と、影の力を感じます。

 これ、私は、恐怖の大魔王になってしまうってことよね……


「人的被害が無かったのが不思議」

 半壊した校舎を眺め、私は一人つぶやき、馬の歩を進めます。

 旅人用のマントに身を包み、最低限の荷物を積んでいます。


「一人旅か、どこへ行こうか。世界は広いですね」

 見上げた青空、吸い込まれそうです。


「フランは、一人じゃない」

 壊れた校舎の陰から、旅行用のマントに身を包み、馬に乗った彼が出てきました。


「第一王子の王位継承、婚姻は、終わったのですか?」

 彼には、王弟殿下としての仕事があったはずです。

「終わった。王妃となった伯爵家令嬢は、まだ中等部なので、一緒に側妃も決めてきた」

「側妃ですか?」

 思い切ったことをしましたね。

「辺境伯のメイド長、あの令嬢は辺境伯の妹だ」

「側妃として、第一王子夫妻を後ろから支えてくれるだろう」

 側妃は、王妃となる伯爵家令嬢が希望した人材でもありますからね。


 辺境伯の妹は、幼い王弟殿下の、当時の第二王子の、婚約者候補であったことも、調べが付いています……

 予言がなければ、王弟殿下が聖女との婚姻を義務付けられなければ、二人は結ばれていたでしょう……


「王弟殿下のヘソクリですが、金貨を入れた布袋が一つ、無くなっていましたね。どこに行ったのでしょう?」

「そ、それはだな、街の知り合いに、借金を返して来た」

 罰として売られた侯爵家令嬢を、買い戻したのですね。調べはついていますよ。

 記憶を失った侯爵家令嬢を、記憶を失って離宮に幽閉されている第二王子のところへ、メイドとして届けたことも、知っています。

 今は他人同士の二人ですが、いつか愛が生まれるかもしれません……


「なぜ私に付いてくるのですか?」

「約束しただろ、俺のソバにずっといると」

「約束しましたね」


「どこへ行く?」

「そうですね、まずは、隣国を潰しに行きましょう」

「そうだな、俺たちなら、一瞬で破滅させて、新しい国を復活させることが出来るだろう」

「そうですね、光と影が結ばれましたから」


「俺たちの戦いは、これからだ……どうだ、決まっただろ?」
 青臭いセリフです。

「私たちの恋愛は、これからだ……こっちの方がいい」
 あ~、これも青臭いか、恥ずかしいです。


「では、新婚旅行へいこうか」

「え? プロポーズはありませんでしたし、結婚はしてないでしょ?」

「……それは、そうだが、この流れだと、そうなるだろう」

 この流れは、ここでプロポーズでしょ! まったく、イケメンなのに、唐変木なんだから!


「私の中に、恐怖の大魔王が封印されていること、知ってますよね? それでも、そばにいてくれますか?」

 彼は、自分の中に“影”が融合した時、自分が恐怖の大魔王ではないかと、ずいぶんと悩んだみたいです。

 今度は、私が悩む番なのですが、逆に、封印されていた幼い頃の記憶が戻って、スッキリとしています。

「もちろんだ」
 彼が宣言してくれました。

 あの時、彼が最後に放った技は、勇者が使う一撃でした。もし、私が、暴走したら、止めてくれるのは、きっと、勇者の血を引き継いでいる彼です。


「聖女も、どこかに封印されているのだろうか?」

 あら、彼はまだ聖女に未練があるのでしょうか?

「会ってみたいですか?」
 少し意地悪そうな顔をして、たずねてみます。

「いや、必要ない」
 彼には、まったく迷いがないようです。

「じゃ、教えません」
 実は、ある令嬢が、聖女の末えいであることを発見しています。


「フランソワーズ、これからも、ずっと、俺にお茶をいれてくれるか?」

「もちろんです、クロガネ様」


「約束だ」
 彼が、右手を差し出してきました。

 私も、右手を出して握手しました。優しい温もりを感じます。


 二人が過ごした王国の上には、吸い込まれそうな青空が広がります。



 ━━ Fin ━━


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