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第三章 第二王子

第44話 侯爵家令嬢とのお見合い

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「私ね、結婚するの」
 先輩メイドからうれしい報告がありました。

「おめでとうございます、先輩」
 王宮の庭のスミで、私は先輩メイドを祝福します。


「昨日、護衛兵の、子爵家の末っ子さんから、プロポーズされちゃって」

 幸せそうな顔です。私は少しうらやましいです。

 私は、人の恋路を応援するばかりで、自分の恋なんて見つけられないでいます。

 昨日、第二王子への襲撃、いえ、証拠はつかめませんが、たぶん友好国の令嬢を狙った襲撃があり、未然に防ぎました。

 その際、心配したとおり、先輩は魅了の魔法にかかっていました。


 治癒室で魅了を解いてもらいましたが、だれが魔法をかけたのか、だれのお茶に毒を入れようとしたのか、残念ながら分かりませんでした。

 先輩が魅了されたタイミングは、直前に飲んだお茶だと、怪しんでいます。

 目撃証言から、飲み終わったお茶を片付けたのは、第三王子の事件で所在不明になっているメイドのようです。

 飲み物に、薬を入れるのが、あのメイドが得意とする手口のようです。


「私の最後の仕事が、第二王子様と侯爵家令嬢様のお見合いの席に出すお茶だなんて、なんて光栄なんでしょ」

 先輩メイドは、魅了されていた時の記憶はありませんので、無邪気に舞い上がっています。

 今日は、私は少し離れて待機し、遠くから、お茶会を監視することにしましょう。

    ◇

 本日のお見合い相手は、チョビヒゲ侯爵の娘である侯爵家令嬢です。

 ガゼボで、一見すると、二人は仲良く会話している様に見えます。

「友好国の伯爵家令嬢と、ずいぶんと話が盛り上がっていたそうですね」

 侯爵家令嬢の声に、トゲが感じられます。

「それは、外交というものだ、通常の対応なんだ」

 第二王子は言い訳をしています。

 王子は、外では亭主関白なのに、家庭内では尻に敷かれる、そんなタイプですね。


「お父様が、第二王子様の後ろ盾になる話は、聞いていますよね」

 第二王子は婿に出る予定でしたので、太い後ろ盾は、これまで、いませんでした。

「ありがたい話だと思っている」

 チョビヒゲ侯爵が、後ろ盾になれば、第二王子が国王になる道は盤石になります。


「では、あの作戦も、了承して頂いたのですね」

 令嬢が言った、あの作戦とは、なんのことでしょう?

「しかし、貴女の身が心配だ」

「隣国から、技術を買い取りましたので、問題ありません」

 なんだ? 危険な作戦なのでしょうか。
 二人の会話は、お見合いの会話じゃないでしょ。親父の商談みたいです。


「あ~んして」
 侯爵家令嬢が、自分のフォークで、ケーキを第二王子の口に運んでいます。

「あ~ん」
 第二王子が、それをパクリと口にしました。

 なんだ? 今度は、高等部一年生と中等部らしい二人に戻りました。

 こんな時、まだお見合い段階の二人の間接キスを防ぐため、メイドは、第二王子が口にした、令嬢のフォークを取り替える必要がありますが……


 あれ? 先輩メイドは、少し離れた場所で、ウットリと第二王子を眺めているだけで、仕事をしていません。

 これは、旦那を放っておいて、推しに熱を上げるタイプですね。

 いや、そんな事より、フォークを、あ、令嬢がフォークに残ったケーキを口にしました。

 これは、失態です。

 でも、今日は、王弟殿下が近くにいないので、報告しないでおきます。

 令嬢が口にした「あの作戦」という謎の言葉だけを、報告することにしました。

    ◇

「王弟殿下、あ~んして」

 彼の口に、フォークでケーキを運びます。

「あ~ん」

 彼は、パクリと食べてくれます。

 王弟殿下の執務室で、小芝居を演じてみました。


「フラン、今の俺には立場というものがある、勘弁してもらえないか」

 彼は、これまでになく、恥ずかしそうにしました。

 王弟殿下は、今は国王代理という要職に就いています。

「国王になるつもりは、ないのでしょ?」

「窮屈な暮らしは嫌だ、それは公言しているが」

 なら、小芝居くらい、付き合ってくださいよ。

 私は王弟殿下の愛人だと、既に困ったウワサが広まっているのですから。


「彼を国王に据えた後は、どうします?」

「そうだな……旅に出て、色々な国を漫遊したいな」

 旅ですか? そうですか、それも面白そうで、いいですね……


 しまった!

 フォークを取り替えるのを忘れて、そのまま、私が使って、ケーキを食べてしまいました……

 この件は、黙っておきましょう。
 でも、私の顔は火照っています。

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