40 / 56
第二章 第一王子
第40話 第一王子が追放される
しおりを挟む「兄が、国王陛下が、亡くなった」
王弟殿下の私室に、朝のお茶をいれるため入室した時です。
「第一王子に嫌疑がかかっている」
突然なんですか! 王国がひっくり返るほどの、大事件じゃないですか!
「これから、第一王子様へお茶を届ける時間なのですが」
「今日、第一王子のところへは行くな」
私は、どうして良いのかわかりません。
こんな場合は、まず状況を把握するのが肝心ですが、私の手の届く範囲の事件ではありません。
執務室の扉が乱暴に開けられ、チョビヒゲ侯爵が踏み込んできました。
「王弟殿下、昨夜は、どこにいらっしゃいました?」
「一晩中、このメイドと楽しんでいた」
「そこのメイド、本当か?」
チョビヒゲ侯爵が、私を疑いの目で見てきました。
「令嬢の口から言わせるのですか?」
「うっ……」
「これから、もう一度、楽しむところだから、出て行ってくれ」
王弟殿下の非常識な言葉です。
悔しそうな顔をして、チョビヒゲ侯爵が執務室から出ていきました。
「王弟殿下、なんてこと言うのですか!」
「大丈夫だ、俺とフランとのウワサは、以前から王宮で流している」
「それが、大丈夫じゃないと、そう言っているのです!」
「ビシッ!」考えるより先に手が出てしまいました。
「すまなかった、でも、王族を平手打ちするメイドなんて、聞いたことないぞ」
「やって良い事と、悪いことがあります!」
泣きそうな王弟殿下のホホが、赤くなっています。私のほうが、赤面するくらい、恥ずかしかったのですよ!
王弟殿下が寝室の扉を開けて、ベッドに誘ってきました。
「そんなこと、出来ません」
私は、拳を握ります。
「勘違いするな、ベッドの下だ、秘密の通路があるんだ」
王弟殿下は、グーで殴られると思ってか、あわてています。
◇
「これが、王族専用の秘密の通路ですか?」
狭い通路と階段が、長く続いています。
「そうだ、遠くは伯爵家の地下につながっていて、王宮の地下霊安室にもつながっている」
ずいぶんと歩きました。もう方向感覚が狂って、どこにいるのか分かりません。
「マッピングしておけば良かった」
「もうすぐ着くから。というか、俺の速足に付いてこれる令嬢なんて、普通はいないぞ」
通路の途中で、王弟殿下が、壁の隠し扉を開けました。
通路の途中なんて、知らなければ、見つけるのは困難です。まっすぐ進むと、きっと、ワナがあるのでしょうね。
「ここが伯爵家の地下に借りた、俺たちの隠れ家だ」
王弟殿下は明かりを消して、通路の階段の上、天井を少しずらし、外の音を聞きます。
外は真っ暗で、音はしません。
ゆっくりと天井を開けます。
明かりをつけると、天井は、ベッドの下の床板でした。
「僕はここだよ」
隣りの部屋から、男性の声が聞こえました。
離宮にあった白いビーチテーブルとイスが、部屋の中に置かれ、第一王子がくつろいでいました。
「第一王子様?」
「やはり、ここに逃げ込んでいたか」
王弟殿下は、ホッとしています。
「ここまで、追い詰められました、不覚です」
「フラン、お茶をいれてくれ」
この部屋は、王族の私室と同じつくりのようです。お茶道具までそろっていました。
「国王は、心臓発作だと公表されるだろう」
「ということは、侯爵の愛人が、薬の分量を間違えたのかな」
二人は冗談のように軽口をたたいていますが、内容は非情です。
「侯爵が、愛人を国王に献上し、第三王子のように骨抜きにしようとして、酒に混ぜる薬の量を、多く入れ過ぎたのだろう」
「そして愛人は、酒の相手は、僕、第一王子だと証言したってことか」
敵の奇襲によって、後手にまわってしまいましたが、現状を冷静に分析します。
「そういえば、ここにいることを伯爵家令嬢へ言ったのか?」
「いや、まだだが」
第一王子は、不思議そうな顔で答えました。
「オメェの妻になる令嬢だろうが! 心配しているぞ、一番に知らせろ!」
「「イエス、マー!」」
しまった、私の地の顔が出てしまいました。王弟殿下の私室でのやりとり以降、少し気が立っていたのかもです。
「そ、そうだな、長引くだろうから、伯爵家には言っておいたほうが良い」
二人の王族が、ビビっています。これは、失敗しました。
◇
第一王子の安全を確認した後、私たち二人は、王弟殿下の私室に戻りました。
「申し訳ありません、入ってもよろしいでしょうか?」
ノックの後、扉の向こう側から声がしました。
「はい、どうぞ」
扉を開けると、亡くなった国王の侍従でした。
「お楽しみを邪魔して申し訳ありません。王弟殿下、国葬や国王代理の話し合いを行いますので、会議室に来ていただけませんか?」
「俺を、国葬の委員長と、国王の代理にして、国民の目を逸らす腹積もりか。分かった、すぐ行く」
亡くなった国王の侍従が、部屋を出ました。
「あの侍従さん、今、お楽しみの邪魔って言いましたよね?」
私は、声のトーンを低くして、彼に言います。
「殴らないでくれ、俺は会議に行ってくる」
彼は、私が握った拳に気づき、慌てて私室を出ていきました。
「もう!」
ちゃんと、順番を守って下さい……それなら、私だって覚悟が……
0
お気に入りに追加
41
あなたにおすすめの小説
【完結】婚約破棄された私は車いすのお姫様に助けられて愛されました
AYU
恋愛
私は公爵令嬢のロザリーこの国の第一王子は私の婚約者だしかし親の決めた婚約に納得いかない王子は事もあろうに婚約発表パーティーで昔から仲がよかった幼なじみの公爵令令嬢と一緒に婚約破棄と公爵令嬢との結婚を発表する失意の中私を助けてくれたのは王子の妹で車いすに乗った王女様だったこうして王女様のお側付きになった私はこれから一体どうなるだろうか
魔法の薬草辞典の加護で『救国の聖女』になったようですので、イケメン第二王子の為にこの力、いかんなく発揮したいと思います
高井うしお
恋愛
※なろう版完結済み(番外編あり〼)
ハーブ栽培と本が好きなOL・真白は図書館で不思議な薬草辞典と出会う。一瞬の瞬きの間に……気が付くとそこは異世界。しかも魔物討伐の軍の真っ只中。そして邪竜の毒にやられて軍は壊滅状態にあった。
真白が本の導きで辞典から取り出したハーブを使うと彼らはあっという間に元気になり、戦況は一変。
だが帰還の方法が分からず困っている所を王子のはからいで王城で暮らす事に。そんな真白の元には色々な患者や悩み事を持った人が訪れるようになる。助けてくれた王子に恩を返す為、彼女は手にした辞典の加護で人々を癒していく……。
キラッキラの王子様やマッチョな騎士、優しく気さくな同僚に囲まれて、真白の異世界ライフが始まる! ハーブとイケメンに癒される、ほのぼの恋愛ファンタジー。
貴方様と私の計略
羽柴 玲
恋愛
貴方様からの突然の申し出。
私は戸惑いましたの。
でも、私のために利用させていただきますね?
これは、
知略家と言われるがとても抜けている侯爵令嬢と
とある辺境伯とが繰り広げる
計略というなの恋物語...
の予定笑
*****
R15は、保険になります。
作品の進み具合により、R指定は変更される可能性がありますので、
ご注意下さい。
小説家になろうへも投稿しています。
https://ncode.syosetu.com/n0699gm/
邪竜の鍾愛~聖女の悪姉は竜の騎士に娶られる~
高遠すばる
恋愛
聖女である双子の妹の「はきだめ」として生きてきたミリエルは、幼馴染の騎士であるユアンと恋人となった。叶わないと思っていた恋の成就に幸せを感じるミリエルは、しかしその翌日、聖女の暗殺未遂をしたとして罪に問われ、火山に眠る邪竜への生贄となることが決まった。いよいよ火口に落ちる寸前、ミリエルを救ってくれた邪竜の声は、ミリエルにとって慕わしいもので……?
「助けに来たよ、僕のミリー」
邪竜と聖女の悪姉が紡ぐ溺愛ファンタジー!
断罪されてムカついたので、その場の勢いで騎士様にプロポーズかましたら、逃げれんようなった…
甘寧
恋愛
主人公リーゼは、婚約者であるロドルフ殿下に婚約破棄を告げられた。その傍らには、アリアナと言う子爵令嬢が勝ち誇った様にほくそ笑んでいた。
身に覚えのない罪を着せられ断罪され、頭に来たリーゼはロドルフの叔父にあたる騎士団長のウィルフレッドとその場の勢いだけで婚約してしまう。
だが、それはウィルフレッドもその場の勢いだと分かってのこと。すぐにでも婚約は撤回するつもりでいたのに、ウィルフレッドはそれを許してくれなくて…!?
利用した人物は、ドSで自分勝手で最低な団長様だったと後悔するリーゼだったが、傍から見れば過保護で執着心の強い団長様と言う印象。
周りは生暖かい目で二人を応援しているが、どうにも面白くないと思う者もいて…
ふしだらな悪役令嬢として公開処刑される直前に聖女覚醒、婚約破棄の破棄?ご冗談でしょ(笑)
青の雀
恋愛
病弱な公爵令嬢ビクトリアは、卒業式の日にロバート王太子殿下から婚約破棄されてしまう。病弱なためあまり学園に行っていなかったことを男と浮気していたせいだ。おまけに王太子の浮気相手の令嬢を虐めていたとさえも、と勝手に冤罪を吹っかけられ、断罪されてしまいます。
父のストロベリー公爵は、王家に冤罪だと掛け合うものの、公開処刑の日時が決まる。
断頭台に引きずり出されたビクトリアは、最後に神に祈りを捧げます。
ビクトリアの身体から突然、黄金色の光が放たれ、苛立っていた観衆は穏やかな気持ちに変わっていく。
慌てた王家は、処刑を取りやめにするが……という話にする予定です。
お気づきになられている方もいらっしゃるかと存じますが
この小説は、同じ世界観で
1.みなしごだからと婚約破棄された聖女は実は女神の化身だった件について
2.婚約破棄された悪役令嬢は女神様!? 開国の祖を追放した国は滅びの道まっしぐら
3.転生者のヒロインを虐めた悪役令嬢は聖女様!? 国外追放の罪を許してやるからと言っても後の祭りです。
全部、話として続いています。ひとつずつ読んでいただいても、わかるようにはしています。
続編というのか?スピンオフというのかは、わかりません。
本来は、章として区切るべきだったとは、思います。
コンテンツを分けずに章として連載することにしました。
身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~
湯川仁美
恋愛
姉の身代わりに公爵夫人になった。
「貴様と寝食を共にする気はない!俺に呼ばれるまでは、俺の前に姿を見せるな。声を聞かせるな」
夫と初対面の日、家族から男癖の悪い醜悪女と流され。
公爵である夫とから啖呵を切られたが。
翌日には誤解だと気づいた公爵は花嫁に好意を持ち、挽回活動を開始。
地獄の番人こと閻魔大王(善悪を判断する審判)と異名をもつ公爵は、影でプレゼントを贈り。話しかけるが、謝れない。
「愛しの妻。大切な妻。可愛い妻」とは言えない。
一度、言った言葉を撤回するのは難しい。
そして妻は普通の令嬢とは違い、媚びず、ビクビク怯えもせず普通に接してくれる。
徐々に距離を詰めていきましょう。
全力で真摯に接し、謝罪を行い、ラブラブに到着するコメディ。
第二章から口説きまくり。
第四章で完結です。
第五章に番外編を追加しました。
お兄様の指輪が壊れたら、溺愛が始まりまして
みこと。
恋愛
お兄様は女王陛下からいただいた指輪を、ずっと大切にしている。
きっと苦しい片恋をなさっているお兄様。
私はただ、お兄様の家に引き取られただけの存在。血の繋がってない妹。
だから、早々に屋敷を出なくては。私がお兄様の恋路を邪魔するわけにはいかないの。私の想いは、ずっと秘めて生きていく──。
なのに、ある日、お兄様の指輪が壊れて?
全7話、ご都合主義のハピエンです! 楽しんでいただけると嬉しいです!
※「小説家になろう」様にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる