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第二章 第一王子
第36話 辺境伯とメイド長
しおりを挟む「私には、将来を誓った令息がおり、彼は王都の学園に通っています」
辺境伯の屋敷での朝、ダイニングでの食事を終えた時、辺境伯令嬢から、打ち明けられました。
「叔父は、王都に行った彼に会ったことはなく、彼の親の爵位が低いこと、辺境伯を継ぐ立場にある私を嫁には出せないとから、交際に反対しているのです」
政略結婚の、あるあるですね。でも、王都の学園なら、私たちが知っている令息かも。
「お嬢様、大変です、第一王子様がいらっしゃいました!」
メイド長が、ダイニングへ走り込んできました。
「「え~!」」
金ちゃんこと第一王子と、私は驚き、声を上げてしまいました。ここに第一王子がいるのに!
「辺境伯令嬢、早馬を飛ばし、迎えにあがりました」
第一王子らしき男が、メイド長のあとから入って来ました。この男は、だれ?
「この好色王子が!」
冒険者“武闘家”が、いきなり、偽者を殴り飛ばします。止めるスキなど、ありませんでした。
いや、偽者と気が付いているのは、私たち二人だけで、冒険者“武闘家”は気が付いていないでしょ!
手加減したようですが、王族を殴り飛ばすって、本来なら不敬で極刑ですよ!
「僕の出番を取るな、それに、そんな偽者に手加減する必要はない!」
金ちゃんも、偽王子に向かっていきました。こちらは、放っておきましょう。
「本物の第一王子は、もっとイケメンだ!」
やっと立っているだけの偽者を、手加減なしで殴り飛ばしました。
偽物は、グロッキー・ダウンです。
冒険者“武闘家”は、偽の第一王子を縛り上げ、辺境伯と一緒に、王宮騎士団の辺境の詰め所へ、引き渡しにいきます。
外では、偽王子の仲間を、騎馬隊長が縛り上げていました。辺境伯は、騎馬隊長とガッチリ握手しています。
「亡くなった兄の辺境伯様と、あの方は旧友で、とても親しくされていました」
「今の辺境伯様は、兄の葬儀で、あの方から弔辞を読み上げて頂き、さらに王都での足がかりを引き受けていただき、とても感謝し尊敬しているのです」
メイド長が教えてくれました。
「あの方の息子を預かり、一人前に育て上げたのも、亡くなった兄の辺境伯様です」
そうでしたか……あれ? 騎馬隊長の息子って、第一王子と、私と、同級生ですよね?
それに、あの方って言っていますが、騎馬隊長にまで昇進したの、辺境では知らないのですか?
まぁいいか。とにかく、偽王子どもにとって、想定外の状況ばかりでしたね、ご愁傷さまです。
あれ? 騎馬隊長が、メイド長に挨拶しています。
「久しぶりです、今はメイド長をなされているのですか。あの予言によって、幼かった貴女の婚約が流れてしまったこと、彼は、いまだに悔いておりますよ」
「いいのですよ。私は、このフラン嬢たちをみていたら、なぜだか、昔と決別できる気がしてきました」
「あの人に会ったら、私の事は忘れて頂き、幸せな結婚をされることを祈っていますと、そう伝えて下さい」
なんだか、大人の会話をしていますが、私には良くわかりません。
◇
「金ちゃん様、フラン様、お部屋の用意ができました。今夜も、ごゆるりとお休みください」
何事もなく、ディナーが終わりました。
「第一王子様、ここには護衛兵がいませんし、私の部屋も、離されてしまいました。どうしましょう」
「僕だって護身術くらい習っている。何かあったら、笛を吹くので、心配するな」
そう言いながら、金ちゃんは、メイド長と話をしています。
二人は気が合うようで、ダイニングに残って「婚約なんてクソくらえ」と、心の中にたまっていたうっぷんを吐き出しています。
お酒を飲むわけでもないし、ここは、放っておき、第一王子には気分転換してもらいましょう。
◇
私は、お弁当を持って、屋敷の外に出ます。
「騎馬隊長、少ないですが、夜食をお持ちいたしました」
「ありがとうございます、フラン様」
「騎馬隊長にとって、この屋敷は、思い出の場所なのですか?」
「そうです、アイツは、もういませんが」
騎馬隊長が、懐かしそうに屋敷を見ました。
「もしかして、騎馬隊長は、メイド長のことが好きだったのですか? それなら、ここに連れてきましょうか?」
「いや、メイド長の婚約の相手は、私ではなく……いや、私の口からは言えません」
「全ての元凶は予言なのです、メイド長は自ら身を引いたのです、これ以上は、申し訳ありません」
「いえ、私こそ、立ち入った話をしてしまいました」
「フラン様は、不思議な方ですね。凍り付いていたメイド長の心を、解かしてくれたようです。ありがとうございました」
よくわかりませんが、私の、愛のキューピットというスキルが、どこかで発動したみたいです。
『拝啓 王弟殿下様。遊び人の金ちゃんは、辺境伯様の屋敷で、偽の第一王子を捕まえました。辺境伯令嬢の好きな男性は、学園の令息ですので、お見合いは、辺境伯家令嬢と学園の令息で行ってはどうでしょう。 敬具 追伸 私の愛のキューピットスキルが発動し、メイド長の心を溶かしたらしいです フランより』
月明りの下、連絡用の魔法の鳥を飛ばします。
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