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第二章 第一王子
第30話 ダンスパーティー当日
しおりを挟む今日は、学園でダンスパーティーが開催され、順調に進行しています。
オープニングのジルバを、来賓者の前で華やかに演出でき、ダンス教師は自分の評価が上がったと、胸をなでおろしています。
今はフリータイムです。皆さんは自由に踊っていますが、私は壁のシミです。
私から輪に入ることはしませんが、ときどき、話しかけられ、王弟殿下から頂いた、青緑色のドレスが素晴らしいと褒められました。
うれしいのですが、恥ずかしくもあります。
所どころ、新しいカップルが生まれたようで、壁際でも談笑が続いています。
私には、少し居心地が悪いです。あ~、やはり、欠席すれば良かった!
伯爵家令嬢からお願いされたので、仕方なく、エスコートもなく、パーティーへ参加しました。
「私には、愛と勇気だけが、友達なのです」
でも、寂しいです。
あれ? 第一王子が、楽団へ何か曲をリクエストしています。
「第一王子様のリクエストにより、ワルツを演奏します。フリータイムですので、パートナーを誘って、自由に踊って下さい」
司会者が興奮して宣言しました。
第一王子が伯爵家令嬢を誘いました。これは、大成功です。
今日から、私のことを、愛のキューピットと呼んでください。
第一王子のペアは、体をしっかり縦に伸ばし、後ろに反りすぎず、腕の水平を保ち、ホールドが維持されています。
「学生のワルツとしては、満点ですね」
息が合った二人のダンスが、うらやましいです。
「フラン、俺と踊ってくれないか」
突然、王弟殿下が現れました。
黒いタキシードに青緑色の刺しゅうでキメた彼の姿が、なぜか、今だけ、白馬に乗った王子に見えます。
これが、つり橋効果という技なのですね。冒険者“踊り子”から教わりました。
「はい」
曲の途中から、彼のリードで、ワルツを踊ります。
男性からリードされるって、こんなに気持ちが楽になるものなのですね。武闘家との手合わせとは、雲泥の差です。
手袋越しに、彼の温もりが伝わってきます。至福の時です。
ワルツって、ホールドを決めると、体が近くなって、彼に私の体が付きそうです。
「もっと肩の力を抜いてもいいぞ、俺がフランを支えるから」
知識としては理解しているのですが、実際に体を動かすとなると、なかなか上手くいきません。
「俺に体をあずけろ」
えーい、どうにでもなれ! 彼に私の体をあずけ、脱力します。
あれ? 体が自然に動きます。演奏が聞こえます。もしかして、王弟殿下と私って、ペアとして相性が抜群に良いのでは。
長目の演奏でしたが、あっという間に終わってしまいました。
「フラン、庭を歩こうか」
体が火照り、ホール内も暑く感じてきたので、外の庭へ出て、二人で涼むことにしました。
◇
テラスから、学園の庭に出ます。私は、ここを歩くのは初めてです。ガゼボはもちろん、ベンチもありませんね。
庭なら、人がいないと思っていたら、意外と多くのカップルがいました。外なのに、熱いです。
「あれは、騎士団長ジュニアじゃないか?」
子爵家令嬢が寄り添っています。良い感じで、出来上がっています。
「少し離れましょうか」
彼にお願いして、二人から離れます。
「あれは、第二王子様ではありませんか?」
あの侯爵家令嬢が寄り添っています。
「まずいな、少し離れよう」
彼が言うので、二人から離れました。あの二人が付き合っているなんて、新情報です。
「スキャンダルになる前に、何か手を打たないとな」
彼の顔が、王弟殿下に戻っています。これでは、今日のデートはこれで終わりですね。
「隣国の王女は、ダンスパーティーを欠席か」
「はい、そうです。隣国との関係は、そんなに悪いのですか?」
「隣国の王女は、第三王女だが、彼女が関係改善のカギになる気がする。どう動いてくるのかだ」
なんだか、話が、デートの雰囲気から外れてきました。
「王弟殿下、どうしてダンスパーティーに来てくれたのですか?」
「来賓として、出席するよう招待状が来ていたろ」
そういえば、言っていましたね。
でも、いつもなら出席しないのに。
やはり、私のことを心配してくれたのですね。
「最初、隠れていたでしょ」
「ジルバのように、明るく楽しく踊るのは、俺は苦手だ」
もしかして、年? でも、年齢の高い方々も、楽しそうに踊っていましたよね。
「あんなに楽しく練習したのに」
離宮で、ここ数日、二人でジルバを練習しました。練習ですが、楽しい時間でした。
私となら、明るく楽しく踊れた彼です。
もしかして、ジルバだと、彼のイメージが崩れるからでしょうか?
ユーモアのある彼ですが、はしゃぐタイプではありません。
「キレイだ……」
彼が、私を見つめて言いました。
「皆さんからも、このドレスを奇麗だと褒められました。プレゼントして頂き、ありがとうございました」
「そ、そうか?」
彼は、私の着ている青緑色のドレスを、眺めてくれました。
「王弟殿下の青緑色の刺しゅうもステキです。私のドレスに合わせてくれたのですか?」
彼のイケメン顔が、少し赤くなっています。
「ゆっくり話せる場所は無いようですので、今日は、これで終わって、離宮に帰りましょうか」
「そ、そうだな」
今日、午後からは快晴になりそうです。
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