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第二章 第一王子

第29話 伯爵家令嬢と組ませてみる

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 今日も、ダンスパーティーの練習会をホールで行っています。

 第一王子のパートナー選びは、難航していますが、令嬢たちは、授業ではありますが、第一王子と踊れてうれしそうです。


 騎士団長ジュニアと子爵家令嬢は、仲直りしたようで、息の合ったジルバを、楽しそうに踊っています。

「素敵だなぁ」

 もともと素質のある二人ですから、協調すれば素晴らしいダンスをしてくれると思っていましたが、予想以上の踊りを見せてくれています。

 私は内心、ホッとしています。

「いいなぁ」

 ダンスのパートナーは、見た目のバランス、身長や体形のバランスも大事ですが、お互いが相手を理解して信頼することも大事なのですね。


 冒険者学校でもダンスの授業はありましたので、組み方やステップなどの基本は覚えています。

 でも、実際に男性と踊った経験が無いので、私の動きは、相手のリードと、かみ合っていないと、ダンス教師から言われています。

「私をリードできる男性……どこかにいないかなぁ」

 ある男性の姿が浮かんできましたが、私のパートナーとするには、無理な相手です……

 第一王子のダンスパートナーが来るまで、少し時間があるので、ボーっと考えてしまいましたが、そろそろ時間です。


「第一王子様のパートナーとして、他の学年にお似合いの逸材がおりました」

 お願いしていた令嬢が来る時間なので、ダンス教師に報告します。

「でもね、高等部二年生は、人数が少なく、王族とのつながりをあきらめた令嬢、令息たちで、既に婚約者がいるのよ。今から第一王子様のパートナーになってもらうのは、無理ですよ」

 二年生でフリーなのは、隣国の王女だけです。

 王像とのつながりを欲しがる貴族は、年齢を偽って、第一王子が在籍する三年生、または第二王子が在籍する一年生として入学し、同級生となっています。


「そして、一年生は、第二王子様の縄張りだと……遠慮して、だれもパートナーとして手を上げないので、やはり無理なのよ」

 つまり、一年生の令嬢は、全て第二王子の物だと? セクハラな学年ですね。


「その令嬢は中等部です」
 私は、意外な答えを返します。

 中等部は、第三王子がいない今、自由な恋愛が可能となっており、学園のパラダイスなのです。

「中等部? 向こうの教師たちから反対されなかった?」

「ある方から、根回しして頂いたので、問題はありません」

 私のダンスパートナーとしては無理でも、その爵位の力は大きいので、こんな時に利用しなくては、私がタダ働きしている意味がありません。


「フラン姉さま」
 中等部の伯爵家令嬢が、時間どおりに来てくれました。

 ダンス用の衣装に着替えています。どんな衣装でも可愛く着こなす令嬢です。

「見て、あれ、第三王子様の婚約者候補だった伯爵家令嬢よ」

 三年生の令嬢たちが、ザワめきだしました。まぁ、想定の範囲内です。

 なにせ、令嬢の恋愛に関するウワサが広がる速さは、異常ですから。


 問題は第一王子の反応です。

「カレンだ」
 王子が、つぶやきました。

 よし、第一印象は良いですね。
 第一王子は、受け身のところがあるので、少し心配していましたが、新たな一面が目覚めたようです。

「早速、ダンスを見せて頂きましょう、よろしいですね先生」

 二人でペアを組んでもらい、ジルバを踊ってもらいます。

 身長差があるおかげで、第一王子の優しいリードで、可愛く踊る令嬢です。

 心配していた第一王子のターンが、奇麗に決まりました。そうか、令嬢の手足が長いんだ。

 周囲で見ていた令嬢、令息までも見ほれて、ホールが無言になり、演奏だけが聞こえてきます。


「これは、素晴らしい」
 ダンス教師まで感嘆しています。

「予想以上ですね」
 私もパートナーさえ見つかれば……二人が少しうらやましいです。

    ◇

 離宮に戻ると、王弟殿下は、庭で、いつもの白いテーブルとイスで、雑誌を読んでいました。

 でも、雑誌の内側に、ダンスの教本があるのを、私は見逃しません。


「第一王子様のダンスパートナーが、伯爵家令嬢様に決まりました。ありがとうございました」

 中等部へ根回しして下さったことに、お礼を言います。

「ダンスの課題はジルバか。スロー・スロー・クイック・クイックだったかな」

 彼は、話題を逸らし、私のお礼に照れ隠しをしました。可愛いです。


「王弟殿下、練習しましょうか」

 私から、ダンスに誘います。シブシブと、立ち上がる彼も、可愛いです。

 彼は、スタイルも良く、身長が高いので、私と、奇麗に組めます。

「ジルバは久しぶりだが、体が覚えているもんだな」

 彼は、踊るほどに上手になっていきます。これは、昔、ずいぶんと踊っていたのですね。


「私も、パートナーがいない気持ち……わかりました」

 一人で生きてきましたけど、こんな時には、人恋しくなります。

「急に高等部三年生に放り込んで、すまなかった」

「責任を取って下さいね」

 私としては、勇気を出して、言ってみたのですが……


「わかっている。ダンスパーティー用のドレスが、そろそろ届く。プレゼントするから、着てみてくれ」

 え? はぐらかされた?

 でも、ドレスを贈るのは婚約者だけ……

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