上 下
21 / 56
第二章 第一王子

第21話 隣国の王女、騎士団長ジュニア

しおりを挟む


「第一王子様、素敵なお庭ですね」

 隣国の王女が、第一王子の腕に寄り添い、胸を押し付けました。

 強引ですが、男性の気を引くには、効果的な方法です。


 ここは学園の敷地内にある王族用の宿舎で、二人は、小規模な庭を、並んで散歩しています。

 隣国の王女は、第一王子の婚約者候補であり、本命と言われている令嬢です。

 私は、二人の後ろを、第一王子のメイドとして付き従います。

 確かに手入れされた庭ですが、所詮は宿舎の庭であり、素敵とウットリするほどではなく、清潔感のあるシックな庭です。


「すまない、腕がぶつかった。もう少し、離れてくれないか」

 第一王子の腕が、王女の胸にぶつかり、二人は少し離れました。

 王子のイケメン顔がだらしなく崩れて、まんざらではない顔をしています。

 こいつ、むっつりスケベかもしれません。


「体を触れるのは、マナー違反になる」

 あら、第一王子の中から出ようとした獣を、理性が中に押し戻したようです。

 でも、隣国の王女は、学園の下級生ですが、胸はもう一人前です。

「衣服の上からですので、私は気になりませんよ」

 衣服の上からでもダメです!

 第一王子が触ってきたように言わないでほしいです。
 そうではなく、貴女が胸を押し付けてきたのでしょ!

 貴女が気にならなくても、男性にとってボディタッチは異常に気になるものなのです。


「貴女が不快な思いをしなかったのなら、良かった」

 だ~か~ら、第一王子が触ったのではなく、隣国の王女が押し付けてきたんです。

 ハッ、まさか!
 第一王子は、もう一度押し付けて来いと、リクエストしているのですか?

「お友達のカップルは、抱きしめ合うのが、普通のようなんです」

「そうだったのか」

 いいえ、普通ではありません!
 貴女の周りは、異常な色ボケなのです。

 第一王子も、ボディタッチは、マナー違反だと言ったばかりでしょ!


 ん? 視線を感じます。遠くから、隣国の王女の様子を見ている令息がいます。

 取り巻きさんでしょうか、ご苦労なことです。


「抱きしめ合うとは、どんな具合なんだ?」

「はい、私が第一王子様の胸に顔をうずめますので、第一王子様は私の背中に腕を回してください」

 こ、こいつら! 私は、握りしめた拳を、第一王子へ見せます。

「いや、待ってくれ」

 第一王子が、隣国の王女から飛び離れました。自分のミゾオチを、手で守っています。これは、条件反射ですね。


「もう少しでしたのに」
 隣国の王女が、小さくつぶやきました。

 どうも、隣国は、魅了の術が、変に広まっているようです。

 今日は、とても疲れる日です。

    ◇

 やっと、隣国の王女を帰して、第一王子の私室に戻りました。

「フラン、僕は隣国の王女を、ギュッと抱きしめた方が良かったのかな?」

 第一王子は、名残惜しそうに、きいてきました。

 そんなこと、婚約者候補でもある私に、きく?


「僕は、令嬢の抱きしめ方なんて、習っていないからな」

 そんなこと、誰も習っていません。

 あれ? 習っていないのに、なんで、男性は女性を抱きしめることができるのでしょう?

「フラン、練習に付き合ってくれないか?」

 メイドとして、お茶をいれている私に、いつものように、無茶ぶりが来ました。

「練習なら、騎士団長ジュニアとしなさい」

 第一王子に、皮肉を込めて返します。

「練習じゃなければ、付き合ってくれるんだね、良かった」

 この前向きな考え方、素晴らしいです。
 方向性さえ間違えなければの話ですが。


「隣国の王女様の取り巻きが、第一王子様を、恨めしそうに見ていましたよ」

「あ~、彼らは、隣国の王女が王妃になることを見越し、良い地位をもらいたくて、今から彼女にヨイショしているんだ。僕らと同級生だよ。気にしなくても良いよ」

 高等部三年生は、大変なようです。

「隣国の王女様は、一つ下の学年でしたよね」

「そうだな。クラスのほとんど全員に婚約者がいて、ラブラブな教室なので、彼女は肩身が狭いだろうな」

 それは、地獄ですね。

 焦っていることには、少し同情しますが、第一王子に胸を押し付けてはいけません!

    ◇

「お帰りなさい。騎士団長ジュニアとの練習は、いかがでしたか?」

 第一王子の私室で、お茶の準備をしていると、王子が一人で戻ってきました。

 王子は、令嬢を上手に抱きしめる技術を上げるぞと意気込み、騎士団長ジュニアを誘って、庭のスミで練習していたのです。

「良かった。ホホが触れたときは、ドキドキした」

 第一王子のホホが、少し赤くなりました。

 どういう事? ホホが触れた? ドキドキした? 二人に、何があったのでしょうか。


「え? まさか、手の位置はどうしました?」

 私は、状況が想像できなかったので、詳しくたずねました。

「腰に回すのと、背中に回すのと、両方試してみたけど、どちらも良かった」

 聞いた内容で、二人の状況を想像してみます。

 イケメンが、イケメンを抱きしめている姿、バラの花びらが舞う雰囲気、悪くは無いのですが、最初の目的から、外れてきていませんか?

 騎士団には、男性同士でチークダンスを踊る文化があると聞いています。

 第一王子には、男女を問わず、人を魅了する素質があるのでしょう。


 でも、私は、イケメン第一王子の婚約者候補で、そばにいる時間も長いのに、恋愛感情が全く湧きません。

 どうしてだろうと、不思議に思っていましたが、たぶん、王弟殿下という、私のアンチ魅了の魔法が、防いでくれているのでしょう。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】婚約破棄された私は車いすのお姫様に助けられて愛されました

AYU
恋愛
私は公爵令嬢のロザリーこの国の第一王子は私の婚約者だしかし親の決めた婚約に納得いかない王子は事もあろうに婚約発表パーティーで昔から仲がよかった幼なじみの公爵令令嬢と一緒に婚約破棄と公爵令嬢との結婚を発表する失意の中私を助けてくれたのは王子の妹で車いすに乗った王女様だったこうして王女様のお側付きになった私はこれから一体どうなるだろうか

魔法の薬草辞典の加護で『救国の聖女』になったようですので、イケメン第二王子の為にこの力、いかんなく発揮したいと思います

高井うしお
恋愛
※なろう版完結済み(番外編あり〼) ハーブ栽培と本が好きなOL・真白は図書館で不思議な薬草辞典と出会う。一瞬の瞬きの間に……気が付くとそこは異世界。しかも魔物討伐の軍の真っ只中。そして邪竜の毒にやられて軍は壊滅状態にあった。 真白が本の導きで辞典から取り出したハーブを使うと彼らはあっという間に元気になり、戦況は一変。 だが帰還の方法が分からず困っている所を王子のはからいで王城で暮らす事に。そんな真白の元には色々な患者や悩み事を持った人が訪れるようになる。助けてくれた王子に恩を返す為、彼女は手にした辞典の加護で人々を癒していく……。  キラッキラの王子様やマッチョな騎士、優しく気さくな同僚に囲まれて、真白の異世界ライフが始まる! ハーブとイケメンに癒される、ほのぼの恋愛ファンタジー。

邪竜の鍾愛~聖女の悪姉は竜の騎士に娶られる~

高遠すばる
恋愛
聖女である双子の妹の「はきだめ」として生きてきたミリエルは、幼馴染の騎士であるユアンと恋人となった。叶わないと思っていた恋の成就に幸せを感じるミリエルは、しかしその翌日、聖女の暗殺未遂をしたとして罪に問われ、火山に眠る邪竜への生贄となることが決まった。いよいよ火口に落ちる寸前、ミリエルを救ってくれた邪竜の声は、ミリエルにとって慕わしいもので……? 「助けに来たよ、僕のミリー」 邪竜と聖女の悪姉が紡ぐ溺愛ファンタジー!

断罪されてムカついたので、その場の勢いで騎士様にプロポーズかましたら、逃げれんようなった…

甘寧
恋愛
主人公リーゼは、婚約者であるロドルフ殿下に婚約破棄を告げられた。その傍らには、アリアナと言う子爵令嬢が勝ち誇った様にほくそ笑んでいた。 身に覚えのない罪を着せられ断罪され、頭に来たリーゼはロドルフの叔父にあたる騎士団長のウィルフレッドとその場の勢いだけで婚約してしまう。 だが、それはウィルフレッドもその場の勢いだと分かってのこと。すぐにでも婚約は撤回するつもりでいたのに、ウィルフレッドはそれを許してくれなくて…!? 利用した人物は、ドSで自分勝手で最低な団長様だったと後悔するリーゼだったが、傍から見れば過保護で執着心の強い団長様と言う印象。 周りは生暖かい目で二人を応援しているが、どうにも面白くないと思う者もいて…

ふしだらな悪役令嬢として公開処刑される直前に聖女覚醒、婚約破棄の破棄?ご冗談でしょ(笑)

青の雀
恋愛
病弱な公爵令嬢ビクトリアは、卒業式の日にロバート王太子殿下から婚約破棄されてしまう。病弱なためあまり学園に行っていなかったことを男と浮気していたせいだ。おまけに王太子の浮気相手の令嬢を虐めていたとさえも、と勝手に冤罪を吹っかけられ、断罪されてしまいます。 父のストロベリー公爵は、王家に冤罪だと掛け合うものの、公開処刑の日時が決まる。 断頭台に引きずり出されたビクトリアは、最後に神に祈りを捧げます。 ビクトリアの身体から突然、黄金色の光が放たれ、苛立っていた観衆は穏やかな気持ちに変わっていく。 慌てた王家は、処刑を取りやめにするが……という話にする予定です。 お気づきになられている方もいらっしゃるかと存じますが この小説は、同じ世界観で 1.みなしごだからと婚約破棄された聖女は実は女神の化身だった件について 2.婚約破棄された悪役令嬢は女神様!? 開国の祖を追放した国は滅びの道まっしぐら 3.転生者のヒロインを虐めた悪役令嬢は聖女様!? 国外追放の罪を許してやるからと言っても後の祭りです。 全部、話として続いています。ひとつずつ読んでいただいても、わかるようにはしています。 続編というのか?スピンオフというのかは、わかりません。 本来は、章として区切るべきだったとは、思います。 コンテンツを分けずに章として連載することにしました。

身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~

湯川仁美
恋愛
姉の身代わりに公爵夫人になった。 「貴様と寝食を共にする気はない!俺に呼ばれるまでは、俺の前に姿を見せるな。声を聞かせるな」 夫と初対面の日、家族から男癖の悪い醜悪女と流され。 公爵である夫とから啖呵を切られたが。 翌日には誤解だと気づいた公爵は花嫁に好意を持ち、挽回活動を開始。 地獄の番人こと閻魔大王(善悪を判断する審判)と異名をもつ公爵は、影でプレゼントを贈り。話しかけるが、謝れない。 「愛しの妻。大切な妻。可愛い妻」とは言えない。 一度、言った言葉を撤回するのは難しい。 そして妻は普通の令嬢とは違い、媚びず、ビクビク怯えもせず普通に接してくれる。 徐々に距離を詰めていきましょう。 全力で真摯に接し、謝罪を行い、ラブラブに到着するコメディ。 第二章から口説きまくり。 第四章で完結です。 第五章に番外編を追加しました。

お兄様の指輪が壊れたら、溺愛が始まりまして

みこと。
恋愛
お兄様は女王陛下からいただいた指輪を、ずっと大切にしている。 きっと苦しい片恋をなさっているお兄様。 私はただ、お兄様の家に引き取られただけの存在。血の繋がってない妹。 だから、早々に屋敷を出なくては。私がお兄様の恋路を邪魔するわけにはいかないの。私の想いは、ずっと秘めて生きていく──。 なのに、ある日、お兄様の指輪が壊れて? 全7話、ご都合主義のハピエンです! 楽しんでいただけると嬉しいです! ※「小説家になろう」様にも掲載しています。

婚約破棄で絶望しましたが、私は愛し愛される人に出会えて幸せです

腹鳴ちゃん
恋愛
卒業パーティーで婚約破棄されたフロリアーヌ。愛されていると思っていたお父様と信頼していた婚約者に裏切られ、絶望する。 しかし、精霊様の力を借りて記憶を消し、新たな世界へ!そこでは今までの生活とは全然違う!真に愛する人も見つかって、フロリアーヌは幸せになります。 元『気持ちの切り替えだけは得意です。』連載版に合わせて変えました。 死を表現するところがあるため、保険でR15にしておきます。 当方、処女作のため温かい目で見てくださると助かります。 お話書くのってむずかしい ※なろう様にも掲載しております。 お気に入り・しおり登録ありがとうございます!

処理中です...