上 下
7 / 56
第一章 第三王子

第07話 侯爵家令嬢の嫉妬

しおりを挟む


「第三王子様、あの男爵家令嬢と、ずいぶんと仲がよろしいのですね」

 本日は、第三王子と侯爵家令嬢との相性を確かめるため、王宮の中庭のガゼボで、二人きりにしているのですが、早速、令嬢がマウントを取ってきました。

 王弟殿下と私は、少し離れ、気配を消して、二人を監視しています。第三王子のケガは完全に治っていますので、問題は起きない予定でしたが。

「いや、彼女とは、同級生だから、王族として皆と良好な関係を築くというか、恋仲ではないから」

 第三王子が必死に弁解しています。


「見たのですよ、男爵家令嬢から、汗を拭いてもらっていましたよね」

 侯爵家令嬢の追及は、止まりません。

「あれは、彼女が勝手にやったことで、僕が頼んだわけではない、信じてくれ」

「ウソです、顔がニヤニヤと、にやけていましたわ」

 侯爵家令嬢の目が怖いです。
 でも、ここは令嬢のほうが正しいかも。

 中等部とはいえ、色気づいてきた第三王子は、令嬢にとって落とし易い対象のようです。


「本気じゃないから。大切なのは君だけだから」

 本気じゃないって、浮気? 遊び? これは墓穴を掘りました。

 第三王子は、だんだんと、泣きそうな顔になってきました。中等部の令息レベルですと、王弟殿下のような腹芸は、まだ出来ないようです。


「そして、伯爵家令嬢を見つめる目、いやらしいですわ」

 侯爵家令嬢には、まだカードがあるのですか、第三王子は学園で何をしているのですか!

「彼女も同級生の一人で、何もないんだ」

 あらら、伯爵家令嬢は第三王子の婚約者候補になる女性ですよ、そのことは、その侯爵家令嬢も知っているはずですよ。

 同級生の一人だなんて、ウソだって、すぐにバレます。


「人目の付かないところで、二人きりになっていましたよね」

「彼女から相談されていただけなんだ、誤解だ」

 第三王子、はしたない事はしないよう、王弟殿下から注意されていましたよね。

 伯爵家令嬢から、中等部として節度あるお付き合いに、とどめてほしいと、苦情が来ているのですよ。


「本気じゃないから、大切なのは君だけだから」
 第三王子は泣きそうな顔を、自分のハンカチで拭き始めました。

「このハンカチは、私が預かります」

 侯爵家令嬢が、第三王子のハンカチを取り上げました。

 あ、今、一瞬、ハンカチの匂いを嗅ぎましたよね?
 本当に中等部なのですか、これは、妖艶な美魔女の雰囲気が漂っていますよ。


「これを渡しておきますわ」
 令嬢が、新しいハンカチを差し出しました。

「第三王子様、今日からは、このハンカチを使ってくださいね」

 第三王子がハンカチを受け取りました。王族への贈り物は、事前にチェックするのがルールですが、この修羅場で出ていくことは、ちょっと出来ないです。

「ここから鑑定は出来るか?」
「はい」
 鑑定魔法は、冒険者“盗賊”の得意技の一つです。

「この刺しゅうは、貴女と同じ……」
 第三王子は、手渡されたハンカチに、金糸でバラが刺しゅうされていることに、気付きました。

 バラは、愛と美の象徴だったような気がします。意味ありげな刺しゅうです。


 侯爵家令嬢が自分のハンカチを取り出しました。

 渡したハンカチと同じ、金糸でバラが刺しゅうされていることを、第三王子に見せます。

「流行のペアルックですわ」

 侯爵家令嬢が、純真で恥ずかしそうな表情を、作っています。ツンデレか!

「ありがとう、一生の宝物にする。僕は貴女だけを愛するから」

 第三王子が、また、恋に落ちました。

 この数日で、三名の令嬢に、いやメイドを入れて四名に恋した彼です。

 侯爵家令嬢の、この見事な手腕は、冒険者“踊り子”の魅了テクニックと肩を並べます。

 最近の中等部は、こんなにも大人びているのでしょうか。おばさん、怖いです。

    ◇

「冒険者“盗賊”の技で鑑定した結果、毒や魅了の薬をしみこませたハンカチではありませんでした」

「金糸でバラが刺しゅうされたハンカチは、第一王子や第二王子も持っていたな」

 第三王子のお茶会が終わり、王弟殿下の執務室で、彼は私のいれたお茶を口にしながら、教えてくれました。


「そうか、あの侯爵家令嬢が、配っていたのか」
「ということは、王弟殿下も、侯爵家令嬢のハンカチを持っているのですか?」

 あの侯爵家令嬢なら、やりかねません。

「まさか、俺は、令嬢からのプレゼントは、もらわない主義だ」

「そうでしたか、贈った令嬢は数知れないが、贈ってくれる令嬢はいない、ということですね」

「そ、そんなわけないだろ」

 彼が、汗を拭こうと、胸ポケットから取り出したハンカチは、ヨレヨレでした。

「それは、いつ洗ったハンカチですか。そうでした、王弟殿下には、メイドがいないのでしたね」

 彼は、王位継承権第1位なのに、女好きとウワサされているので、メイドを募集しても、だれも応募して来ないのです。


 メイドは、私一人です。

「これは、私が、洗っておきますので」
 私は、彼のハンカチを取り上げます。

 一瞬、ハンカチの匂いを嗅ぎたくなりましたが、我慢します。

「このハンカチをお使い下さい」

 私の名前が刺しゅうされたハンカチを、彼に渡しました……

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

四度目の正直 ~ 一度目は追放され凍死、二度目は王太子のDVで撲殺、三度目は自害、今世は?

青の雀
恋愛
一度目の人生は、婚約破棄され断罪、国外追放になり野盗に輪姦され凍死。 二度目の人生は、15歳にループしていて、魅了魔法を解除する魔道具を発明し、王太子と結婚するもDVで撲殺。 三度目の人生は、卒業式の前日に前世の記憶を思い出し、手遅れで婚約破棄断罪で自害。 四度目の人生は、3歳で前世の記憶を思い出し、隣国へ留学して聖女覚醒…、というお話。

聖女に負けた侯爵令嬢 (よくある婚約解消もののおはなし)

蒼あかり
恋愛
ティアナは女王主催の茶会で、婚約者である王子クリストファーから婚約解消を告げられる。そして、彼の隣には聖女であるローズの姿が。 聖女として国民に、そしてクリストファーから愛されるローズ。クリストファーとともに並ぶ聖女ローズは美しく眩しいほどだ。そんな二人を見せつけられ、いつしかティアナの中に諦めにも似た思いが込み上げる。 愛する人のために王子妃として支える覚悟を持ってきたのに、それが叶わぬのならその立場を辞したいと願うのに、それが叶う事はない。 いつしか公爵家のアシュトンをも巻き込み、泥沼の様相に……。 ラストは賛否両論あると思います。納得できない方もいらっしゃると思います。 それでも最後まで読んでいただけるとありがたいです。 心より感謝いたします。愛を込めて、ありがとうございました。

偽物と断罪された令嬢が精霊に溺愛されていたら

影茸
恋愛
 公爵令嬢マレシアは偽聖女として、一方的に断罪された。  あらゆる罪を着せられ、一切の弁明も許されずに。  けれど、断罪したもの達は知らない。  彼女は偽物であれ、無力ではなく。  ──彼女こそ真の聖女と、多くのものが認めていたことを。 (書きたいネタが出てきてしまったゆえの、衝動的短編です) (少しだけタイトル変えました)

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

逆行令嬢は聖女を辞退します

仲室日月奈
恋愛
――ああ、神様。もしも生まれ変わるなら、人並みの幸せを。 死ぬ間際に転生後の望みを心の中でつぶやき、倒れた後。目を開けると、三年前の自室にいました。しかも、今日は神殿から一行がやってきて「聖女としてお出迎え」する日ですって? 聖女なんてお断りです!

聖女ですが、大地の力を授かったので、先手を打って王族たちを国外追放したら、国がとってもスッキリしました。

冬吹せいら
恋愛
聖女のローナは、大地の怒りを鎮めるための祈りに、毎回大金がかかることについて、王族や兵士たちから、文句ばかり言われてきた。 ある日、いつものように祈りを捧げたところ、ローナの丁寧な祈りの成果により、大地の怒りが完全に静まった。そのお礼として、大地を司る者から、力を授かる。 その力を使って、ローナは、王族や兵士などのムカつく連中を国から追い出し……。スッキリ綺麗にすることを誓った。

聖女の取り巻きな婚約者を放置していたら結婚後に溺愛されました。

しぎ
恋愛
※題名変更しました  旧『おっとり令嬢と浮気令息』 3/2 番外(聖女目線)更新予定 ミア・シュヴェストカは貧乏な子爵家の一人娘である。領地のために金持ちの商人の後妻に入ることになっていたが、突然湧いた婚約話により、侯爵家の嫡男の婚約者になることに。戸惑ったミアだったがすぐに事情を知ることになる。彼は聖女を愛する取り巻きの一人だったのだ。仲睦まじい夫婦になることを諦め白い結婚を目指して学園生活を満喫したミア。学園卒業後、結婚した途端何故か婚約者がミアを溺愛し始めて…!

神託を聞けた姉が聖女に選ばれました。私、女神様自体を見ることが出来るんですけど… (21話完結 作成済み)

京月
恋愛
両親がいない私達姉妹。 生きていくために身を粉にして働く妹マリン。 家事を全て妹の私に押し付けて、村の男の子たちと遊ぶ姉シーナ。 ある日、ゼラス教の大司祭様が我が家を訪ねてきて神託が聞けるかと質問してきた。 姉「あ、私聞けた!これから雨が降るって!!」  司祭「雨が降ってきた……!間違いない!彼女こそが聖女だ!!」 妹「…(このふわふわ浮いている女性誰だろう?)」 ※本日を持ちまして完結とさせていただきます。  更新が出来ない日があったり、時間が不定期など様々なご迷惑をおかけいたしましたが、この作品を読んでくださった皆様には感謝しかございません。  ありがとうございました。

処理中です...