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1巻
1-2
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「本当は凶相を……顔を隠せれば一番効果的なのだけれど、確か研修中は隠せないのよね?」
「ええ。規則で決まっているの」
メーシャは残念そうに呟いた。
国家試験合格者に行われる研修はとても厳しく、期間も一年と長い。そのせいか、身代わりを用意した貴族が沢山いたことが問題となり、ここ数年は顔を隠す服装は禁止されている。
病んだ男を惹きつける一番の原因である凶相を隠せない以上、メーシャは上手に立ち回って、できる限り好かれないように気をつける必要があった。下手に好かれてしまいご先祖様のような目に遭ったら、せっかく難関の国家試験に合格したのも水の泡である。
落ちた葉はもう、元の木には戻れない。枯れ葉は土の上で朽ちるだけだ。最悪の事態にならないよう、メーシャは気を引きしめる必要がある。落ちないよう、必死で枝にしがみつかねば。
「あなたには最高の教育環境を用意したわ。メーシャは賢い子だもの、大丈夫。上手く頭を使って、素敵な人生を送るのよ」
「……はい!」
「じゃあ、部屋にお戻りなさい。買い物をして疲れたでしょう? 夕飯まで休んでいるといいわ」
「わかったわ」
メーシャは買った服を持って、自分の部屋へと戻る。
きちんと服をしまったあと、鏡台の引き出しを開けた。そこには、白いハンカチと沢山の手紙が入っている。それらを愛おしげに見つめながら、メーシャは呟いた。
「わかってるわ。この容姿が、どんなに恐ろしいものなのか……」
◆ ◆ ◆ ◆
――遡ること、二年前。
当時、メーシャは十六歳になったばかりだった。少女から女性へと変貌してゆく年頃である。乳房も膨らみ、体つきも女性らしさを増した。顔立ちにはまだ幼さが残るものの、祖母譲りの美しさは花開いている。
メーシャには父親が決めた婚約者がいた。父親はメーシャの凶相を憂い、病んだ男を夫にするよりは、愛情がなくても普通の男性に嫁いで自由に暮らすべきだと考えていたのだ。
――凶相は、好かれれば好かれるほど相手の心の闇を深くする。既婚という立場が好意の抑止力になるのは確かなので、父親は娘を守るためにも早めに婚約者を決め、嫁がせたかったのだろう。しかも、妻を閉じこめたりしないような健全な精神の持ち主が夫なら安心である。父親は上級役人である祭司の伝手を生かし、問題ない相手を見つけてくれたようだ。
メーシャは初恋もまだだったけれど、父親の選んだ婚約者と結婚するものだと思っていた。閉じこめられるのも、足を切られるのも嫌だし、そういった可能性がない相手なら愛がなくても平穏無事な結婚生活を送れるはずと、軽い気持ちで考えていたのだ。
その婚約者とは、メーシャが十八になったらすぐに結婚する予定だった。相手は遠方の街に住んでいて滅多に会えないけれど、どうやら今度そこで大きな祭りが開かれるらしい。
この国は昔から祭りが好きで、毎日必ずどこかで祭りが開かれている。その各地の祭りを取り仕切る祭司は、難しい国家試験と一年に及ぶ厳しい研修を受けた選ばれし者であり、国中を飛び回って祭りを監督するのだ。どんなに小さな祭りでも国家行事であり、厳格に執り行う必要がある。
祭司である父親もその祭りに参加予定で、せっかくだから婚約者に会いに行こうと、メーシャも同行することになった。相手側に知らせたところ歓迎の返事がきて、なんだか嬉しくなったのを覚えている。
ろくに話したこともないけれど、婚約者に会うのだからとメーシャは精一杯着飾ってみた。……とはいえ、凶相を見せびらかすのは危険である。村の外に行く際には顔を隠すために、黒いベールのついた葬儀用の帽子を必ず被るようにと言われていた。
実は、メーシャの村には心を病んだ男性がおらず、普段は顔を隠す必要がなかったのだ。昔は病んでいる人がいたらしいけれど、祖母を魔の手から守るために祖父たちが暗躍したのだとか。具体的になにをしたのかまでは知らないが、結果、村の男性は健全な精神を持つ人だけになった。
ともあれ、村の外では、いつ心を病んでいる人間と遭遇するかわからない。余計な騒動を防ぐために帽子を被ると、せっかく綺麗に化粧をした顔が黒いベールで覆われて目立たなくなってしまった。
それでも、相手はメーシャの事情を知っているから、この姿で過ごさなければならないとわかってくれるだろう。そう考えながら婚約者のいる街へ行き、メーシャは婚約者との対面を果たした。そして、一緒に祭りに参加する。季節は秋で、木々が燃えるように真っ赤に染まっていたのが印象的だった。
婚約者と大通りを歩いていると、彼の知り合いに会う。そのたびに紹介されたが、皆が皆メーシャの姿を見て「喪に服しているのか」と聞いてきた。婚約者に帽子を取るように言われたけれど、凶相を見せびらかすわけにもいかず、メーシャは頑なに拒否をする。
それが、婚約者の癇に障ったらしい。しかも「顔が醜すぎて隠しているのか?」と不躾なことを聞いてくる者もいたから、自分が醜い女性と婚約していると思われることが嫌だったようだ。
婚約者はメーシャを気遣うことなく、一人でさっさと人混みの中を歩いていく。おかげでメーシャは彼とはぐれてしまった。彼の姿を探すけれど、土地勘がないので見つけることができない。
知らない街を歩き回り、ようやく婚約者を見つけた時、彼は見知らぬ女性の肩に手を回していた。女は胸元が大きく開いた派手な服を着ている。祭りでは浮かれて羽目を外す男性も多いので、全国の祭りを回る渡りの娼婦も多いのだ。
「あらぁ~。アナタ、さっき女の人といたの見たわよ~。お金持ちそうだけど、女連れだから声をかけなかったのに、あの子はどうしたの?」
女性は婚約者にしなだれかかりつつ、そう言う。
「適当に巻いてきた。顔は綺麗なんだが、あいつ、変わってるんだよ。凶相だかなんだか知らないけど、葬式みたいな帽子をずっと被りやがって……。それに、いくら綺麗でも俺は全然好きになれない。お姉ちゃんのほうが綺麗だよ」
「まあ、嬉しいわ! じゃあ、アタシとイイコト、する?」
婚約者は、娼婦と思われる女性と一緒に時間貸しの宿屋に姿を消してしまった。物陰からその様子を見ていたメーシャは、とても情けなくなる。
この凶相が惹きつけるのは、心が病んでいる男性だけということはわかっていた。それはつまり、病んでいない男性にはこの顔を好きになってもらえないのだ。
とはいえ、綺麗な恋人や妻は男性にとって一種の権威である。だから容姿を好きになれないなりに、せめて美人な連れを見せびらかしたいだろうに、それもできない。婚約者はメーシャといても、得にならないと思ったのだろう。
その心情は理解できても、メーシャは侮辱された気分になった。別に、婚約者のことは愛していない。ただ父親が決めた相手だという認識だ。それでも、この仕打ちはあんまりである。
愛されるあまり足を切られるのがいいか、愛されなくても五体満足がいいか。その答えはまだ出ていないけれど、メーシャはこの婚約は解消すべきだと思った。祖母のようにいい相手を見つけられる可能性だってあるし、愛がなくてもお互いを大切にできる相手と結婚できる可能性もある。なにも、焦ることはない。
とりあえず、婚約解消の意思を伝えるなら早いほうがいいと、メーシャはこの街のどこかで仕事をしている父親を捜し始めた。
もともと婚約者に恋心を抱いていなかったから失恋はしていないものの、酷く惨めな気分になって、はらはらと涙が零れていく。さらに、祭りのせいで混雑しており、人波に揉まれたメーシャは自分が帽子を落としてしまったことに気付かなかった。普通なら顔を覆うレースがなくなればすぐに気付くけれど、気分が昂ぶっていたせいで気が回らなかったのである。
メーシャはその凶相を露わにしながら、人混みの中を歩いた。泣いていたこともあって、すれ違う人が皆、メーシャの顔を見る。
(父さんはどこかしら……?)
祭司姿の男性を捜し回っていたメーシャは、建物と建物の間から伸びてきた手に掴まれて、物陰に連れこまれた。
「えっ!?」
突然現れた男の肩に担がれて、人通りの多い場所から裏路地へと運ばれていく。そこでようやく、メーシャは自分が帽子を被っていないことに気付いた。身の危険を察し、とりあえず大声で叫ぶ。
「だ、誰かっ! ねえ、誰か! 誰か助けてっ!」
この街には沢山の観光客がいるし、国の役人である祭司も、警備の騎士もいる。誰かが助けてくれるだろうと思っていた。しかし、自分を攫った男は土地勘があるのか、人通りのない裏道を選んで駆け抜けていく。叫んだところで、メーシャの声は誰にも届かない。
(え? ……えっ?)
とてもまずい状況ではないかと、メーシャは焦りを覚える。出店が並んだ賑やかな大通りに人が集中しているせいで、わざわざなにもない裏道を歩くような人がいないのだ。
「あ……っ」
ふと、メーシャの耳に女性の声が届いた。裏通りにも人がいたのだ。助かったとばかりに声を上げようとすると、メーシャは地面に下ろされた。乱暴な動作に、思わず舌を噛みそうになる。
「……っ」
男の足と地面しか見えなかった視界がようやく開けた。高い建物に囲まれた裏路地には、数組の男女がいる。助かったと思ったメーシャは、咄嗟に助けを求めようとした。
「た、助け……っ、……え?」
ふと、その男女たちの様子がおかしなことに気付いた。みんな服がはだけ、互いに腰を密着させている。荒い息づかいと、粘ついた水音が壁に反響していた。
(これって、まさか……)
そこにいた女性たちは、先ほど婚約者と一緒にいた娼婦たちと似たような服装をしている。通常、そういう行為は時間貸しの宿屋で行われるが、金がなく宿代が払えない男性を相手にするため、人目につかない場所で仕事をする娼婦もいるのだ。
「た、助けて! お願い、助けてっ!」
メーシャが声をあげるが、娼婦たちはちらりと横目で見ただけで、すぐに視線を逸らした。
路地裏で行為をする娼婦は訳ありで、まともな客が取れない者ばかりである。厄介事に巻きこまれたくないのだろう。
小娘一人が助けを求めたところで、誰も助けてくれない。しかも、ここまでメーシャを攫ってきた男性は体格もよく威圧感があった。下手に刺激したら、なにをされるかわからない怖さがある。
その男性は目の焦点が合っておらず、独特な匂いがした。しかも緩んだ口元から涎が垂れている。
(この人、様子がおかしいわ――)
ぞくりとして、冷たいものが背筋を走り抜けていった。恐怖のあまり腰が萎えてしまい、逃げることもできない。その男性は、呂律の回らない口で言う。
「あ、あんたが俺の運命の相手だって、ひ、一目見て、気付いたぞ。おおお俺の、嫁、だよな?」
「ひっ……」
彼の年は五十近くに見える。父親より年上の男がメーシャに運命を感じたという事実に、生理的嫌悪感がこみ上げてきた。
中年男性の太い指先がメーシャの頬に伸ばされる。触れられた瞬間、全身が怖気立った。
「俺がっ、こんなに運命を、かかか感じているんだ。あんたも、お、俺に運命を感じない、わけが、な、ないだろぉ? 今から、けっ結婚しよう」
「馬鹿なこと言わないで」
「ええええ遠慮する必要は、ない、ぞ」
中年男性が己の服を脱ぎ始める。しかし腰が抜けてしまったメーシャは逃げることもできなければ、助けてくれそうな人もいなかった。
(呂律も回っていないし、この人は祭りに浮かれて薬に手を出しているのね……)
焦りながらも、頭の中では状況を冷静に分析する。――否、他人事のように考えることで、現実逃避しているのかもしれない。
(まともな男性には嫌われるし、心を病んだ男性には襲われるし。いくら綺麗に生まれても、凶相なんてろくでもないわ……)
メーシャは自分の運命を呪う。中年男性は自分の服を脱ぎ終えると、メーシャの服を掴み、脱がせようとしてきた。
(いや――!)
メーシャはぎゅっと目を閉じる。すると、澄んだ声が耳に届いた。
「なにをしている」
若い男の声だ。咄嗟に顔を上げると、自分を襲おうとしていた男の背後に、祭司の服を着た青年が立っている。年は二十歳過ぎぐらいだろう。黒髪だが、光に当たった場所だけは紫色をしていた。切れ長の瞳も青みがかった紫色で、まるで宝石のように見える。綺麗に整った顔はどこか儚げで、人形みたいだ。
彼は男に短剣を向けていた。その背後には騎士たちがいる。
「な、なにって……。ううう、運命の、女性と、ちっ誓いの儀式を……」
「誓いの儀式? こんな路地裏でか? ……そこの娘、この行為に合意はあるのか?」
「な、ないです」
メーシャは涙目になり、ふるふると首を横に振る。
「そうか。さあ、この男を捕らえてくれ。呂律も回っていないし、強姦未遂の他に禁止薬物使用の疑いもある。よく取り調べるように」
彼の命令で騎士が動き、男が捕らえられる。引きずられながらも、獣のような眼差しを向けてくる中年男性の姿に、メーシャはぞっとした。
「大丈夫かい?」
助けてくれた男が腰を抜かしたままのメーシャに手を差し伸べてくる。
「は、はい……。助けてくださって、ありがとうございます」
「祭りの騒ぎに紛れて起こる犯罪を防ぐことも我々祭司の仕事だから、気にすることはないよ。見回りをしていたところ、君が路地裏に連れこまれるのが遠くから見えてね。人混みのせいでここまで来るのに少し時間がかかってしまったけれど、間に合ってよかったよ」
メーシャは彼の手を握り返す。しかし、腰は依然萎えており、立ち上がることができなかった。
「おや? 立てないのかい?」
「すみません……」
「わかった。僕が運ぼう」
「あっ」
彼は軽々とメーシャを抱き上げる。先ほどの中年男性に触れられた時は嫌悪感しかなかったのに、彼に触れられるとなぜか安心するような気がした。
「大通りは混雑しているから、裏通りを通っていこう。ところで、君は観光客かい? それとも、この街の住民かい?」
「別の村から来ました。観光というか、婚約者に会うために」
「婚約者……」
彼の目がすっと細められる。しかし、抱き上げられているメーシャは、彼の美しすぎる顔を直視できなかったので、彼が一瞬見せた冷たい眼差しには気付かなかった。
「でも、婚約は解消になると思います」
「……どうして、と、聞いてもいいのかな? 君はそれを話したい? それとも、言いたくない?」
優しい声色で訊ねられる。一連の出来事を一人で抱えこむのも辛いと思ったメーシャは、助けてもらった安心感もあって、初対面の彼に色々と話してしまった。
「実は、わたしは凶相持ちなんです。婚約が解消になるのも、先ほど襲われそうになったのも、この顔が原因で……」
「凶相? こんなに美しい顔なのに?」
「……っ!」
自分よりも美形の男性に美しいと言われて、メーシャの頬が赤くなる。しかし、メーシャの顔が一般的に「美しい」部類に入るのは事実だ。……もっとも、心が病んだ男にしか興味を持たれない無駄な美貌であるのだが。
だからこそ、メーシャはいくら褒められようと、自分の顔を好きになれなかった。それなのに、彼に美しいと言われて、初めて嬉しいと思ったのだ。社交辞令であっても、心が揺さぶられた。
メーシャはどぎまぎしながら、言葉を紡ぐ。
「わたしの家系の女性は――」
時折言葉を詰まらせつつも、自分の家系のことと、婚約者に裏切られたことを説明した。すると、彼は納得したように頷く。
「なるほど、そういうことか。……なるほどな」
「凶相なんて突拍子もない話、信じてくれるんですか?」
あっさり信じた彼に、メーシャのほうが驚いてしまう。
「信じるもなにも、実際、僕は……んんっ。……あの男の様子は異常だったしね」
咳払いをした彼はそう答える。確かに、あの中年男性の態度は尋常ではなかった。その様子を目にしたから信じてくれたのだろうとメーシャは結論づける。
彼は、憐憫の眼差しを向けてきた。
「世の中には僕の知らないこともあるのだな。凶相だなんて、君も大変だね。可哀想に」
「はい、大変です。凶相なんて持って生まれたから、こんな目にも遭いますし、顔を隠さなければなりませんし。……でも、不幸ではありません」
彼の言葉から哀れみを感じ取ったメーシャは、強い口調で答えてしまう。彼はメーシャの返答に驚いたように、片眉を上げた。
「おばあちゃんも、おじいちゃんたちも、父も母もわたしのために色々してくれます。こんな結果になったけれど、婚約だってわたしのためでした。大切にされているのがわかるから不幸ではないんです」
つい先ほど、自分の運命を呪ったばかりだ。しかし、この凶相を疎ましく思えど、メーシャ自身は決して不幸ではない。同情を受け入れてしまったら、自分がとても惨めになる気がした。
それにメーシャは一人ではない。支えてくれる家族がいる。彼らが自分に注いでくれた愛情を否定したくないので、きっぱりと不幸ではないと言い切った。
幸せだと断言できるほど達観していない。不幸ではないと宣言するのが精一杯だったが、それを伝えなければならないのだ。
メーシャの言葉を受け取った彼は、しばしの沈黙の後に口を開いた。
「……これは失礼した。謝罪して、先ほどの言葉を撤回しよう。君は可哀想ではない」
心からそう思っているのだろう、声が沈んでいる。
「す、すみません! 助けて頂いたのに、偉そうなことを言ってしまって……」
「勝手に君を可哀想だと決めつけた僕が悪い。反省している。……君の言葉は、胸に響いたよ」
そう言って彼が微笑むと、薄く端整な唇が緩やかな弧を描き、紫の目が細められた。その麗しい笑顔を間近で見て、メーシャは思わず息を呑んだ。
「もうそろそろ大通りに出そうだが、その前に顔を隠したほうがいいね」
彼は立ち止まると一度メーシャを下ろす。ハンカチを取り出して、彼女の顔半分を覆うようにして頭の後ろで縛ってくれた。
(わ……っ)
彼の指先が頬を掠めただけでどきどきしてしまう。しかも、ハンカチからはいい匂いがした。祖母の香水と似た香りである。
「うーん……。これは、本当に効果があるのかい?」
顔半分を覆ったメーシャを見て、彼は小首を傾げた。
「はい、大丈夫なはずです」
「そうなのか……?」
彼は納得がいかない様子だ。
「心を病んでいるわけでなければ、顔を隠しても隠さなくてもわたしへの印象が変わらないはずなので、わかり辛いかもしれませんね」
「……わかった。そういうことにしておこう」
そして彼は、再びメーシャを抱き上げる。
「そういえば、君の名前はなんていうんだい?」
「メーシャです。メーシャ・クリストフ」
「クリストフ? 珍しい名字だな。……もしかして、クリストフ祭司の娘さんかな?」
「はい、そうです」
同じ祭司ということで、父親を知っているのだろう。助けてもらったばかりだし、父親のことも知っているならと、メーシャの彼への警戒心はすっかりなくなってしまった。
彼は聞き上手で、色々と話を振ってくれる。気がつけば、生まれた村のことや、初恋もまだなこと、結婚の予定もなくなるので今後どうしようか悩んでいることまで話してしまった。
「今後について悩んでいるのか……。それでは、君もお父さんと同じく祭司を目指してみたらどうだい? 祭司は国中を飛び回る仕事だけど、どこかでいなくなった場合には国が捜してくれる。凶相という危険を持つ君には、かなり都合がいいと思うよ」
「え? 国が貴族でもない個人を捜してくれるんですか?」
「その通りだ。祭司の仕事は単純に祭りの監督だけではない。訪れた土地の人間と話し、治安の調査や、領主が横暴な政治をしていないか、経済状況はどうか、治水はどうかなど、国の様子を見て回るのも重要な仕事だ」
てっきり、祭司の仕事は祭りを取り仕切るだけかと思っていたので、メーシャは驚く。
「この国は一年中、どこかで祭りをやっているから、全国を回る僕たちは諜報員のようなものさ。今までも、祭司の報告で国が土地を整備してきたし、独裁的な領主を調査したり、貧しい村への支援を行ったりした。また、感染症の兆しが見えれば辺り一帯を封鎖して感染防止に努め、医官を派遣し治療をすることもあるんだよ」
「そうなんですか。わたし、知らなかったです」
「そして、もし祭司がいなくなれば、クーデター計画のような重要な情報を入手して事件に巻きこまれた可能性もあると、国は徹底的に捜す。君の場合、その凶相のせいで攫われて監禁される危険もあるのだろう? 今後そういうことがあっても、国が捜してくれると思ったら安心できないか?」
「……っ!」
凶相持ちの自分がまともな仕事に就けるとは考えてもいなかった。父親が早いうちから婚約者を決めていたこともあって、結婚して家庭に入り、子供を産むのが自分の人生だと思いこんでいたのだ。
だから、メーシャは新たな可能性を示してくれた彼の話に聞き入る。
「国家試験は難しいし、そのあとは一年にもわたる厳しい研修がある。それを乗り越えて祭司になれれば、顔をベールで隠しても問題ないよ。その凶相も、顔を隠せば問題ないのだろう? 僕は強面の祭司を知っているけれど、せっかくの祭りなのに空気を悪くしてしまうからと、彼は仮面をつけている。それでも、誰も文句は言わない。上級役人であり、祭りを監督する祭司は民草から尊敬されていて、顔を隠したくらいではなにも言われないからね」
彼の言う通り、祭司であるメーシャの父親は村でも尊ばれていた。祭りが多いこの国で、それを取り仕切る祭司の地位はとても高い。確かに、顔を隠したところで文句を言う人間はいないだろう。
(全国を飛び回る祭司になりたいなんて思わなかったわ。でも、顔を隠せるし、いなくなったら国が捜してくれるのは助かる。ご先祖様の中には、行方不明になったまま見つからなかった女性も何人かいるのよね……)
結婚という未来を失った今、祭司の仕事はとても魅力的に思える。
(それに、祭司になったら、この人とまた会えるかもしれない……)
メーシャはそっと彼の顔を見た。
元より美しい顔立ちの男性だが、危機を救ってくれたこともあって、よりいっそう素敵に見える。先ほど襲われそうになった際は心臓がばくばくと言っていたけれど、落ち着いたはずの今になっても、彼を見ると胸が早鐘を打った。その高鳴りは嫌な感じはせず、むしろ心地よく感じる。
もっと彼と一緒にいたいと思ったところで、彼は足を止めた。たどり着いたのは教会の裏口だ。
「クリストフ祭司は、今の時間はこの教会で仕事をしているはずだ。立てそうかい?」
「はい」
返事をすると、地面に下ろされる。今度はしっかりと自分の足で立つことができた。
これで彼とお別れかと思ったその時、メーシャは彼のことをなにも知らないことに気付く。自分についてはあれだけ話したというのに、彼のことは年齢も、名前すら知らないのだ。
「助けてくれてありがとうございました。お名前を教えてくださいますか?」
「名前……。そうだな、アルと呼んでくれ」
「アルさん……」
「じゃあ、僕はもう行くよ。やらなければいけない仕事が沢山あってね」
そんなに忙しいのに、わざわざメーシャをここまで運んできてくれた彼はとても優しい人だ。メーシャは改めて、深々と頭を下げる。
「本当にありがとうございました」
「ああ。……では、またね」
「……は、はい!」
アルの言った「またね」という言葉に、どんな意味がこめられていたのか、メーシャにはわからない。でも、「さよなら」ではなく「またね」と言われたことが、とても嬉しかった。
(アルさん……。また、会いたいわ。祭司になったら会えるのかしら?)
彼の後ろ姿が見えなくなるまで見送る。
そのあと、メーシャは父親にいきさつを話し、その日のうちに婚約は解消された。しかし、自分を助けてくれたアルについて訊ねてみても、そんな名前の祭司は知らないとか。
この街の祭りは規模が大きく、沢山の祭司が集まっているので、当然面識のない祭司もいるだろうと父親は言っていた。アルのほうは父親を知っていたというのに、父親のほうが知らないなんてと、がっかりしてしまう。
そして、祭司になりたいと伝えてみたところ、猛反対された。アルに教えてもらった利点を説明しても、メーシャは襲われそうになったばかりなのである。祭司にさせるのは心配らしい。
結局、その日は許してもらえなかった。
自分の村までは遠いので、メーシャは宿に泊まったが、翌朝、父親の態度が急に変わった。
「昨日は祭司になるのは反対だと言ったが、一晩よく考えてみて、それもいいと思い直した」
そう告げられて、あんなに反対していたのにと、父親の豹変ぶりに驚いてしまう。
「父さんはお前の凶相が心配だ。だからといって、メーシャを押さえつけ、自分の言う通りにさせるのも、妻を檻に閉じこめたご先祖様と変わらないと気付いたんだ。物理的な束縛か、精神的な束縛かの違いだね。……お前ももう十六だ。色々考えて祭司になりたいと思ったのなら、父さんは応援しよう」
「父さん……!」
父親から許しを得られて、メーシャの顔がほころぶ。
メーシャは村に戻ったあと、祭司になるための勉強を始めた。もともと、「いい女には教養も必要」という祖母の方針で家庭教師をつけられており、高度な教育を受けていたのだ。国試対策を始めたけれど、特に難しく感じず、難問もすらすら解くことができる。
しかも、アルからたびたび手紙が届くようになった。メーシャの父親と同じ祭司だから、簡単に住所を調べられたのだろう。
内容は凶相持ちのメーシャを心配するような文章と、こんな祭りをしたという些細な報告だ。封筒には送信元の住所は書いておらず、アルというサインしかない。返事を書くことはできなかったが、彼から手紙が届くたびに祭司になりたいという思いが強くなっていった。
「ええ。規則で決まっているの」
メーシャは残念そうに呟いた。
国家試験合格者に行われる研修はとても厳しく、期間も一年と長い。そのせいか、身代わりを用意した貴族が沢山いたことが問題となり、ここ数年は顔を隠す服装は禁止されている。
病んだ男を惹きつける一番の原因である凶相を隠せない以上、メーシャは上手に立ち回って、できる限り好かれないように気をつける必要があった。下手に好かれてしまいご先祖様のような目に遭ったら、せっかく難関の国家試験に合格したのも水の泡である。
落ちた葉はもう、元の木には戻れない。枯れ葉は土の上で朽ちるだけだ。最悪の事態にならないよう、メーシャは気を引きしめる必要がある。落ちないよう、必死で枝にしがみつかねば。
「あなたには最高の教育環境を用意したわ。メーシャは賢い子だもの、大丈夫。上手く頭を使って、素敵な人生を送るのよ」
「……はい!」
「じゃあ、部屋にお戻りなさい。買い物をして疲れたでしょう? 夕飯まで休んでいるといいわ」
「わかったわ」
メーシャは買った服を持って、自分の部屋へと戻る。
きちんと服をしまったあと、鏡台の引き出しを開けた。そこには、白いハンカチと沢山の手紙が入っている。それらを愛おしげに見つめながら、メーシャは呟いた。
「わかってるわ。この容姿が、どんなに恐ろしいものなのか……」
◆ ◆ ◆ ◆
――遡ること、二年前。
当時、メーシャは十六歳になったばかりだった。少女から女性へと変貌してゆく年頃である。乳房も膨らみ、体つきも女性らしさを増した。顔立ちにはまだ幼さが残るものの、祖母譲りの美しさは花開いている。
メーシャには父親が決めた婚約者がいた。父親はメーシャの凶相を憂い、病んだ男を夫にするよりは、愛情がなくても普通の男性に嫁いで自由に暮らすべきだと考えていたのだ。
――凶相は、好かれれば好かれるほど相手の心の闇を深くする。既婚という立場が好意の抑止力になるのは確かなので、父親は娘を守るためにも早めに婚約者を決め、嫁がせたかったのだろう。しかも、妻を閉じこめたりしないような健全な精神の持ち主が夫なら安心である。父親は上級役人である祭司の伝手を生かし、問題ない相手を見つけてくれたようだ。
メーシャは初恋もまだだったけれど、父親の選んだ婚約者と結婚するものだと思っていた。閉じこめられるのも、足を切られるのも嫌だし、そういった可能性がない相手なら愛がなくても平穏無事な結婚生活を送れるはずと、軽い気持ちで考えていたのだ。
その婚約者とは、メーシャが十八になったらすぐに結婚する予定だった。相手は遠方の街に住んでいて滅多に会えないけれど、どうやら今度そこで大きな祭りが開かれるらしい。
この国は昔から祭りが好きで、毎日必ずどこかで祭りが開かれている。その各地の祭りを取り仕切る祭司は、難しい国家試験と一年に及ぶ厳しい研修を受けた選ばれし者であり、国中を飛び回って祭りを監督するのだ。どんなに小さな祭りでも国家行事であり、厳格に執り行う必要がある。
祭司である父親もその祭りに参加予定で、せっかくだから婚約者に会いに行こうと、メーシャも同行することになった。相手側に知らせたところ歓迎の返事がきて、なんだか嬉しくなったのを覚えている。
ろくに話したこともないけれど、婚約者に会うのだからとメーシャは精一杯着飾ってみた。……とはいえ、凶相を見せびらかすのは危険である。村の外に行く際には顔を隠すために、黒いベールのついた葬儀用の帽子を必ず被るようにと言われていた。
実は、メーシャの村には心を病んだ男性がおらず、普段は顔を隠す必要がなかったのだ。昔は病んでいる人がいたらしいけれど、祖母を魔の手から守るために祖父たちが暗躍したのだとか。具体的になにをしたのかまでは知らないが、結果、村の男性は健全な精神を持つ人だけになった。
ともあれ、村の外では、いつ心を病んでいる人間と遭遇するかわからない。余計な騒動を防ぐために帽子を被ると、せっかく綺麗に化粧をした顔が黒いベールで覆われて目立たなくなってしまった。
それでも、相手はメーシャの事情を知っているから、この姿で過ごさなければならないとわかってくれるだろう。そう考えながら婚約者のいる街へ行き、メーシャは婚約者との対面を果たした。そして、一緒に祭りに参加する。季節は秋で、木々が燃えるように真っ赤に染まっていたのが印象的だった。
婚約者と大通りを歩いていると、彼の知り合いに会う。そのたびに紹介されたが、皆が皆メーシャの姿を見て「喪に服しているのか」と聞いてきた。婚約者に帽子を取るように言われたけれど、凶相を見せびらかすわけにもいかず、メーシャは頑なに拒否をする。
それが、婚約者の癇に障ったらしい。しかも「顔が醜すぎて隠しているのか?」と不躾なことを聞いてくる者もいたから、自分が醜い女性と婚約していると思われることが嫌だったようだ。
婚約者はメーシャを気遣うことなく、一人でさっさと人混みの中を歩いていく。おかげでメーシャは彼とはぐれてしまった。彼の姿を探すけれど、土地勘がないので見つけることができない。
知らない街を歩き回り、ようやく婚約者を見つけた時、彼は見知らぬ女性の肩に手を回していた。女は胸元が大きく開いた派手な服を着ている。祭りでは浮かれて羽目を外す男性も多いので、全国の祭りを回る渡りの娼婦も多いのだ。
「あらぁ~。アナタ、さっき女の人といたの見たわよ~。お金持ちそうだけど、女連れだから声をかけなかったのに、あの子はどうしたの?」
女性は婚約者にしなだれかかりつつ、そう言う。
「適当に巻いてきた。顔は綺麗なんだが、あいつ、変わってるんだよ。凶相だかなんだか知らないけど、葬式みたいな帽子をずっと被りやがって……。それに、いくら綺麗でも俺は全然好きになれない。お姉ちゃんのほうが綺麗だよ」
「まあ、嬉しいわ! じゃあ、アタシとイイコト、する?」
婚約者は、娼婦と思われる女性と一緒に時間貸しの宿屋に姿を消してしまった。物陰からその様子を見ていたメーシャは、とても情けなくなる。
この凶相が惹きつけるのは、心が病んでいる男性だけということはわかっていた。それはつまり、病んでいない男性にはこの顔を好きになってもらえないのだ。
とはいえ、綺麗な恋人や妻は男性にとって一種の権威である。だから容姿を好きになれないなりに、せめて美人な連れを見せびらかしたいだろうに、それもできない。婚約者はメーシャといても、得にならないと思ったのだろう。
その心情は理解できても、メーシャは侮辱された気分になった。別に、婚約者のことは愛していない。ただ父親が決めた相手だという認識だ。それでも、この仕打ちはあんまりである。
愛されるあまり足を切られるのがいいか、愛されなくても五体満足がいいか。その答えはまだ出ていないけれど、メーシャはこの婚約は解消すべきだと思った。祖母のようにいい相手を見つけられる可能性だってあるし、愛がなくてもお互いを大切にできる相手と結婚できる可能性もある。なにも、焦ることはない。
とりあえず、婚約解消の意思を伝えるなら早いほうがいいと、メーシャはこの街のどこかで仕事をしている父親を捜し始めた。
もともと婚約者に恋心を抱いていなかったから失恋はしていないものの、酷く惨めな気分になって、はらはらと涙が零れていく。さらに、祭りのせいで混雑しており、人波に揉まれたメーシャは自分が帽子を落としてしまったことに気付かなかった。普通なら顔を覆うレースがなくなればすぐに気付くけれど、気分が昂ぶっていたせいで気が回らなかったのである。
メーシャはその凶相を露わにしながら、人混みの中を歩いた。泣いていたこともあって、すれ違う人が皆、メーシャの顔を見る。
(父さんはどこかしら……?)
祭司姿の男性を捜し回っていたメーシャは、建物と建物の間から伸びてきた手に掴まれて、物陰に連れこまれた。
「えっ!?」
突然現れた男の肩に担がれて、人通りの多い場所から裏路地へと運ばれていく。そこでようやく、メーシャは自分が帽子を被っていないことに気付いた。身の危険を察し、とりあえず大声で叫ぶ。
「だ、誰かっ! ねえ、誰か! 誰か助けてっ!」
この街には沢山の観光客がいるし、国の役人である祭司も、警備の騎士もいる。誰かが助けてくれるだろうと思っていた。しかし、自分を攫った男は土地勘があるのか、人通りのない裏道を選んで駆け抜けていく。叫んだところで、メーシャの声は誰にも届かない。
(え? ……えっ?)
とてもまずい状況ではないかと、メーシャは焦りを覚える。出店が並んだ賑やかな大通りに人が集中しているせいで、わざわざなにもない裏道を歩くような人がいないのだ。
「あ……っ」
ふと、メーシャの耳に女性の声が届いた。裏通りにも人がいたのだ。助かったとばかりに声を上げようとすると、メーシャは地面に下ろされた。乱暴な動作に、思わず舌を噛みそうになる。
「……っ」
男の足と地面しか見えなかった視界がようやく開けた。高い建物に囲まれた裏路地には、数組の男女がいる。助かったと思ったメーシャは、咄嗟に助けを求めようとした。
「た、助け……っ、……え?」
ふと、その男女たちの様子がおかしなことに気付いた。みんな服がはだけ、互いに腰を密着させている。荒い息づかいと、粘ついた水音が壁に反響していた。
(これって、まさか……)
そこにいた女性たちは、先ほど婚約者と一緒にいた娼婦たちと似たような服装をしている。通常、そういう行為は時間貸しの宿屋で行われるが、金がなく宿代が払えない男性を相手にするため、人目につかない場所で仕事をする娼婦もいるのだ。
「た、助けて! お願い、助けてっ!」
メーシャが声をあげるが、娼婦たちはちらりと横目で見ただけで、すぐに視線を逸らした。
路地裏で行為をする娼婦は訳ありで、まともな客が取れない者ばかりである。厄介事に巻きこまれたくないのだろう。
小娘一人が助けを求めたところで、誰も助けてくれない。しかも、ここまでメーシャを攫ってきた男性は体格もよく威圧感があった。下手に刺激したら、なにをされるかわからない怖さがある。
その男性は目の焦点が合っておらず、独特な匂いがした。しかも緩んだ口元から涎が垂れている。
(この人、様子がおかしいわ――)
ぞくりとして、冷たいものが背筋を走り抜けていった。恐怖のあまり腰が萎えてしまい、逃げることもできない。その男性は、呂律の回らない口で言う。
「あ、あんたが俺の運命の相手だって、ひ、一目見て、気付いたぞ。おおお俺の、嫁、だよな?」
「ひっ……」
彼の年は五十近くに見える。父親より年上の男がメーシャに運命を感じたという事実に、生理的嫌悪感がこみ上げてきた。
中年男性の太い指先がメーシャの頬に伸ばされる。触れられた瞬間、全身が怖気立った。
「俺がっ、こんなに運命を、かかか感じているんだ。あんたも、お、俺に運命を感じない、わけが、な、ないだろぉ? 今から、けっ結婚しよう」
「馬鹿なこと言わないで」
「ええええ遠慮する必要は、ない、ぞ」
中年男性が己の服を脱ぎ始める。しかし腰が抜けてしまったメーシャは逃げることもできなければ、助けてくれそうな人もいなかった。
(呂律も回っていないし、この人は祭りに浮かれて薬に手を出しているのね……)
焦りながらも、頭の中では状況を冷静に分析する。――否、他人事のように考えることで、現実逃避しているのかもしれない。
(まともな男性には嫌われるし、心を病んだ男性には襲われるし。いくら綺麗に生まれても、凶相なんてろくでもないわ……)
メーシャは自分の運命を呪う。中年男性は自分の服を脱ぎ終えると、メーシャの服を掴み、脱がせようとしてきた。
(いや――!)
メーシャはぎゅっと目を閉じる。すると、澄んだ声が耳に届いた。
「なにをしている」
若い男の声だ。咄嗟に顔を上げると、自分を襲おうとしていた男の背後に、祭司の服を着た青年が立っている。年は二十歳過ぎぐらいだろう。黒髪だが、光に当たった場所だけは紫色をしていた。切れ長の瞳も青みがかった紫色で、まるで宝石のように見える。綺麗に整った顔はどこか儚げで、人形みたいだ。
彼は男に短剣を向けていた。その背後には騎士たちがいる。
「な、なにって……。ううう、運命の、女性と、ちっ誓いの儀式を……」
「誓いの儀式? こんな路地裏でか? ……そこの娘、この行為に合意はあるのか?」
「な、ないです」
メーシャは涙目になり、ふるふると首を横に振る。
「そうか。さあ、この男を捕らえてくれ。呂律も回っていないし、強姦未遂の他に禁止薬物使用の疑いもある。よく取り調べるように」
彼の命令で騎士が動き、男が捕らえられる。引きずられながらも、獣のような眼差しを向けてくる中年男性の姿に、メーシャはぞっとした。
「大丈夫かい?」
助けてくれた男が腰を抜かしたままのメーシャに手を差し伸べてくる。
「は、はい……。助けてくださって、ありがとうございます」
「祭りの騒ぎに紛れて起こる犯罪を防ぐことも我々祭司の仕事だから、気にすることはないよ。見回りをしていたところ、君が路地裏に連れこまれるのが遠くから見えてね。人混みのせいでここまで来るのに少し時間がかかってしまったけれど、間に合ってよかったよ」
メーシャは彼の手を握り返す。しかし、腰は依然萎えており、立ち上がることができなかった。
「おや? 立てないのかい?」
「すみません……」
「わかった。僕が運ぼう」
「あっ」
彼は軽々とメーシャを抱き上げる。先ほどの中年男性に触れられた時は嫌悪感しかなかったのに、彼に触れられるとなぜか安心するような気がした。
「大通りは混雑しているから、裏通りを通っていこう。ところで、君は観光客かい? それとも、この街の住民かい?」
「別の村から来ました。観光というか、婚約者に会うために」
「婚約者……」
彼の目がすっと細められる。しかし、抱き上げられているメーシャは、彼の美しすぎる顔を直視できなかったので、彼が一瞬見せた冷たい眼差しには気付かなかった。
「でも、婚約は解消になると思います」
「……どうして、と、聞いてもいいのかな? 君はそれを話したい? それとも、言いたくない?」
優しい声色で訊ねられる。一連の出来事を一人で抱えこむのも辛いと思ったメーシャは、助けてもらった安心感もあって、初対面の彼に色々と話してしまった。
「実は、わたしは凶相持ちなんです。婚約が解消になるのも、先ほど襲われそうになったのも、この顔が原因で……」
「凶相? こんなに美しい顔なのに?」
「……っ!」
自分よりも美形の男性に美しいと言われて、メーシャの頬が赤くなる。しかし、メーシャの顔が一般的に「美しい」部類に入るのは事実だ。……もっとも、心が病んだ男にしか興味を持たれない無駄な美貌であるのだが。
だからこそ、メーシャはいくら褒められようと、自分の顔を好きになれなかった。それなのに、彼に美しいと言われて、初めて嬉しいと思ったのだ。社交辞令であっても、心が揺さぶられた。
メーシャはどぎまぎしながら、言葉を紡ぐ。
「わたしの家系の女性は――」
時折言葉を詰まらせつつも、自分の家系のことと、婚約者に裏切られたことを説明した。すると、彼は納得したように頷く。
「なるほど、そういうことか。……なるほどな」
「凶相なんて突拍子もない話、信じてくれるんですか?」
あっさり信じた彼に、メーシャのほうが驚いてしまう。
「信じるもなにも、実際、僕は……んんっ。……あの男の様子は異常だったしね」
咳払いをした彼はそう答える。確かに、あの中年男性の態度は尋常ではなかった。その様子を目にしたから信じてくれたのだろうとメーシャは結論づける。
彼は、憐憫の眼差しを向けてきた。
「世の中には僕の知らないこともあるのだな。凶相だなんて、君も大変だね。可哀想に」
「はい、大変です。凶相なんて持って生まれたから、こんな目にも遭いますし、顔を隠さなければなりませんし。……でも、不幸ではありません」
彼の言葉から哀れみを感じ取ったメーシャは、強い口調で答えてしまう。彼はメーシャの返答に驚いたように、片眉を上げた。
「おばあちゃんも、おじいちゃんたちも、父も母もわたしのために色々してくれます。こんな結果になったけれど、婚約だってわたしのためでした。大切にされているのがわかるから不幸ではないんです」
つい先ほど、自分の運命を呪ったばかりだ。しかし、この凶相を疎ましく思えど、メーシャ自身は決して不幸ではない。同情を受け入れてしまったら、自分がとても惨めになる気がした。
それにメーシャは一人ではない。支えてくれる家族がいる。彼らが自分に注いでくれた愛情を否定したくないので、きっぱりと不幸ではないと言い切った。
幸せだと断言できるほど達観していない。不幸ではないと宣言するのが精一杯だったが、それを伝えなければならないのだ。
メーシャの言葉を受け取った彼は、しばしの沈黙の後に口を開いた。
「……これは失礼した。謝罪して、先ほどの言葉を撤回しよう。君は可哀想ではない」
心からそう思っているのだろう、声が沈んでいる。
「す、すみません! 助けて頂いたのに、偉そうなことを言ってしまって……」
「勝手に君を可哀想だと決めつけた僕が悪い。反省している。……君の言葉は、胸に響いたよ」
そう言って彼が微笑むと、薄く端整な唇が緩やかな弧を描き、紫の目が細められた。その麗しい笑顔を間近で見て、メーシャは思わず息を呑んだ。
「もうそろそろ大通りに出そうだが、その前に顔を隠したほうがいいね」
彼は立ち止まると一度メーシャを下ろす。ハンカチを取り出して、彼女の顔半分を覆うようにして頭の後ろで縛ってくれた。
(わ……っ)
彼の指先が頬を掠めただけでどきどきしてしまう。しかも、ハンカチからはいい匂いがした。祖母の香水と似た香りである。
「うーん……。これは、本当に効果があるのかい?」
顔半分を覆ったメーシャを見て、彼は小首を傾げた。
「はい、大丈夫なはずです」
「そうなのか……?」
彼は納得がいかない様子だ。
「心を病んでいるわけでなければ、顔を隠しても隠さなくてもわたしへの印象が変わらないはずなので、わかり辛いかもしれませんね」
「……わかった。そういうことにしておこう」
そして彼は、再びメーシャを抱き上げる。
「そういえば、君の名前はなんていうんだい?」
「メーシャです。メーシャ・クリストフ」
「クリストフ? 珍しい名字だな。……もしかして、クリストフ祭司の娘さんかな?」
「はい、そうです」
同じ祭司ということで、父親を知っているのだろう。助けてもらったばかりだし、父親のことも知っているならと、メーシャの彼への警戒心はすっかりなくなってしまった。
彼は聞き上手で、色々と話を振ってくれる。気がつけば、生まれた村のことや、初恋もまだなこと、結婚の予定もなくなるので今後どうしようか悩んでいることまで話してしまった。
「今後について悩んでいるのか……。それでは、君もお父さんと同じく祭司を目指してみたらどうだい? 祭司は国中を飛び回る仕事だけど、どこかでいなくなった場合には国が捜してくれる。凶相という危険を持つ君には、かなり都合がいいと思うよ」
「え? 国が貴族でもない個人を捜してくれるんですか?」
「その通りだ。祭司の仕事は単純に祭りの監督だけではない。訪れた土地の人間と話し、治安の調査や、領主が横暴な政治をしていないか、経済状況はどうか、治水はどうかなど、国の様子を見て回るのも重要な仕事だ」
てっきり、祭司の仕事は祭りを取り仕切るだけかと思っていたので、メーシャは驚く。
「この国は一年中、どこかで祭りをやっているから、全国を回る僕たちは諜報員のようなものさ。今までも、祭司の報告で国が土地を整備してきたし、独裁的な領主を調査したり、貧しい村への支援を行ったりした。また、感染症の兆しが見えれば辺り一帯を封鎖して感染防止に努め、医官を派遣し治療をすることもあるんだよ」
「そうなんですか。わたし、知らなかったです」
「そして、もし祭司がいなくなれば、クーデター計画のような重要な情報を入手して事件に巻きこまれた可能性もあると、国は徹底的に捜す。君の場合、その凶相のせいで攫われて監禁される危険もあるのだろう? 今後そういうことがあっても、国が捜してくれると思ったら安心できないか?」
「……っ!」
凶相持ちの自分がまともな仕事に就けるとは考えてもいなかった。父親が早いうちから婚約者を決めていたこともあって、結婚して家庭に入り、子供を産むのが自分の人生だと思いこんでいたのだ。
だから、メーシャは新たな可能性を示してくれた彼の話に聞き入る。
「国家試験は難しいし、そのあとは一年にもわたる厳しい研修がある。それを乗り越えて祭司になれれば、顔をベールで隠しても問題ないよ。その凶相も、顔を隠せば問題ないのだろう? 僕は強面の祭司を知っているけれど、せっかくの祭りなのに空気を悪くしてしまうからと、彼は仮面をつけている。それでも、誰も文句は言わない。上級役人であり、祭りを監督する祭司は民草から尊敬されていて、顔を隠したくらいではなにも言われないからね」
彼の言う通り、祭司であるメーシャの父親は村でも尊ばれていた。祭りが多いこの国で、それを取り仕切る祭司の地位はとても高い。確かに、顔を隠したところで文句を言う人間はいないだろう。
(全国を飛び回る祭司になりたいなんて思わなかったわ。でも、顔を隠せるし、いなくなったら国が捜してくれるのは助かる。ご先祖様の中には、行方不明になったまま見つからなかった女性も何人かいるのよね……)
結婚という未来を失った今、祭司の仕事はとても魅力的に思える。
(それに、祭司になったら、この人とまた会えるかもしれない……)
メーシャはそっと彼の顔を見た。
元より美しい顔立ちの男性だが、危機を救ってくれたこともあって、よりいっそう素敵に見える。先ほど襲われそうになった際は心臓がばくばくと言っていたけれど、落ち着いたはずの今になっても、彼を見ると胸が早鐘を打った。その高鳴りは嫌な感じはせず、むしろ心地よく感じる。
もっと彼と一緒にいたいと思ったところで、彼は足を止めた。たどり着いたのは教会の裏口だ。
「クリストフ祭司は、今の時間はこの教会で仕事をしているはずだ。立てそうかい?」
「はい」
返事をすると、地面に下ろされる。今度はしっかりと自分の足で立つことができた。
これで彼とお別れかと思ったその時、メーシャは彼のことをなにも知らないことに気付く。自分についてはあれだけ話したというのに、彼のことは年齢も、名前すら知らないのだ。
「助けてくれてありがとうございました。お名前を教えてくださいますか?」
「名前……。そうだな、アルと呼んでくれ」
「アルさん……」
「じゃあ、僕はもう行くよ。やらなければいけない仕事が沢山あってね」
そんなに忙しいのに、わざわざメーシャをここまで運んできてくれた彼はとても優しい人だ。メーシャは改めて、深々と頭を下げる。
「本当にありがとうございました」
「ああ。……では、またね」
「……は、はい!」
アルの言った「またね」という言葉に、どんな意味がこめられていたのか、メーシャにはわからない。でも、「さよなら」ではなく「またね」と言われたことが、とても嬉しかった。
(アルさん……。また、会いたいわ。祭司になったら会えるのかしら?)
彼の後ろ姿が見えなくなるまで見送る。
そのあと、メーシャは父親にいきさつを話し、その日のうちに婚約は解消された。しかし、自分を助けてくれたアルについて訊ねてみても、そんな名前の祭司は知らないとか。
この街の祭りは規模が大きく、沢山の祭司が集まっているので、当然面識のない祭司もいるだろうと父親は言っていた。アルのほうは父親を知っていたというのに、父親のほうが知らないなんてと、がっかりしてしまう。
そして、祭司になりたいと伝えてみたところ、猛反対された。アルに教えてもらった利点を説明しても、メーシャは襲われそうになったばかりなのである。祭司にさせるのは心配らしい。
結局、その日は許してもらえなかった。
自分の村までは遠いので、メーシャは宿に泊まったが、翌朝、父親の態度が急に変わった。
「昨日は祭司になるのは反対だと言ったが、一晩よく考えてみて、それもいいと思い直した」
そう告げられて、あんなに反対していたのにと、父親の豹変ぶりに驚いてしまう。
「父さんはお前の凶相が心配だ。だからといって、メーシャを押さえつけ、自分の言う通りにさせるのも、妻を檻に閉じこめたご先祖様と変わらないと気付いたんだ。物理的な束縛か、精神的な束縛かの違いだね。……お前ももう十六だ。色々考えて祭司になりたいと思ったのなら、父さんは応援しよう」
「父さん……!」
父親から許しを得られて、メーシャの顔がほころぶ。
メーシャは村に戻ったあと、祭司になるための勉強を始めた。もともと、「いい女には教養も必要」という祖母の方針で家庭教師をつけられており、高度な教育を受けていたのだ。国試対策を始めたけれど、特に難しく感じず、難問もすらすら解くことができる。
しかも、アルからたびたび手紙が届くようになった。メーシャの父親と同じ祭司だから、簡単に住所を調べられたのだろう。
内容は凶相持ちのメーシャを心配するような文章と、こんな祭りをしたという些細な報告だ。封筒には送信元の住所は書いておらず、アルというサインしかない。返事を書くことはできなかったが、彼から手紙が届くたびに祭司になりたいという思いが強くなっていった。
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