不可思議∞伽藍堂

みっち~6画

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36 がらんどう⑦-2

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「だれがこの私を止められる?」
 自身に満ち溢れた女の声が、判子屋に響き渡る。
「あの男の品を手に入れた私は、力を得た。これから、このちっぽけな店を吸い込んでやろうか? それとも奥に隠れた向こうの店にしようか。いくらでも思い通りさ。ここにはあの、忌々しい結界がないのだからな!」
 女は、さらに力を得ようと、大河のテラリウムを狙って腕を伸ばしてくる。
 身をよじってそれを避けながら、大河は店先に飛び出そうと駆け出した。
「待て! そうはさせないよ!」
 女があとを追ってくる。
 鋭い爪が大河の腕をつかみかけ、奇妙なうめき声をあげた。
「なんだい、それは! あの男の強い力を感じる」
 主さんに贈られた皮革のブレスレットを手でなぞり、大河は息を整えた。あらかじめこれを贈ってくれた主さんは、こうなることを想定していたのだろうか。
 テラリウムをしまおうとポケットに手を入れ、気が付いた。何か小さくて硬いものがポケットの中に、ある。
「それは、あの男の結界!」
 女が弾かれたように飛びのいて、大河から距離を取った。それを目視で確認し、大河は手の中の小さなものを女の前に掲げる。
「おまえはここにいるべき者ではない。帰れ!」
 女がものすごい形相で大河をにらむ。思わず後ずさりそうになる大河の背を、小さな手がそっと支えた。
「ルゥ?」
 チョコレート色の蒸気のコートを羽織って、小さな体で懸命に踏ん張っているのは、大河の大切な相棒だった。
「遅いじゃないか」
 言いながら、大河は手の中の小さなものを、さまよい人に向けて投げ付ける。
「帰ってくれ!」
 何か強い光が辺りを覆い、大河は片手を上げて目元をかばった。
 まばゆい視界の隙間で、大河の前に背の高い男の人がふわりと割り込んできて、女に向けて手をかざしたのが、見えた。
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