36 / 37
36 がらんどう⑦-2
しおりを挟む
「だれがこの私を止められる?」
自身に満ち溢れた女の声が、判子屋に響き渡る。
「あの男の品を手に入れた私は、力を得た。これから、このちっぽけな店を吸い込んでやろうか? それとも奥に隠れた向こうの店にしようか。いくらでも思い通りさ。ここにはあの、忌々しい結界がないのだからな!」
女は、さらに力を得ようと、大河のテラリウムを狙って腕を伸ばしてくる。
身をよじってそれを避けながら、大河は店先に飛び出そうと駆け出した。
「待て! そうはさせないよ!」
女があとを追ってくる。
鋭い爪が大河の腕をつかみかけ、奇妙なうめき声をあげた。
「なんだい、それは! あの男の強い力を感じる」
主さんに贈られた皮革のブレスレットを手でなぞり、大河は息を整えた。あらかじめこれを贈ってくれた主さんは、こうなることを想定していたのだろうか。
テラリウムをしまおうとポケットに手を入れ、気が付いた。何か小さくて硬いものがポケットの中に、ある。
「それは、あの男の結界!」
女が弾かれたように飛びのいて、大河から距離を取った。それを目視で確認し、大河は手の中の小さなものを女の前に掲げる。
「おまえはここにいるべき者ではない。帰れ!」
女がものすごい形相で大河をにらむ。思わず後ずさりそうになる大河の背を、小さな手がそっと支えた。
「ルゥ?」
チョコレート色の蒸気のコートを羽織って、小さな体で懸命に踏ん張っているのは、大河の大切な相棒だった。
「遅いじゃないか」
言いながら、大河は手の中の小さなものを、さまよい人に向けて投げ付ける。
「帰ってくれ!」
何か強い光が辺りを覆い、大河は片手を上げて目元をかばった。
まばゆい視界の隙間で、大河の前に背の高い男の人がふわりと割り込んできて、女に向けて手をかざしたのが、見えた。
自身に満ち溢れた女の声が、判子屋に響き渡る。
「あの男の品を手に入れた私は、力を得た。これから、このちっぽけな店を吸い込んでやろうか? それとも奥に隠れた向こうの店にしようか。いくらでも思い通りさ。ここにはあの、忌々しい結界がないのだからな!」
女は、さらに力を得ようと、大河のテラリウムを狙って腕を伸ばしてくる。
身をよじってそれを避けながら、大河は店先に飛び出そうと駆け出した。
「待て! そうはさせないよ!」
女があとを追ってくる。
鋭い爪が大河の腕をつかみかけ、奇妙なうめき声をあげた。
「なんだい、それは! あの男の強い力を感じる」
主さんに贈られた皮革のブレスレットを手でなぞり、大河は息を整えた。あらかじめこれを贈ってくれた主さんは、こうなることを想定していたのだろうか。
テラリウムをしまおうとポケットに手を入れ、気が付いた。何か小さくて硬いものがポケットの中に、ある。
「それは、あの男の結界!」
女が弾かれたように飛びのいて、大河から距離を取った。それを目視で確認し、大河は手の中の小さなものを女の前に掲げる。
「おまえはここにいるべき者ではない。帰れ!」
女がものすごい形相で大河をにらむ。思わず後ずさりそうになる大河の背を、小さな手がそっと支えた。
「ルゥ?」
チョコレート色の蒸気のコートを羽織って、小さな体で懸命に踏ん張っているのは、大河の大切な相棒だった。
「遅いじゃないか」
言いながら、大河は手の中の小さなものを、さまよい人に向けて投げ付ける。
「帰ってくれ!」
何か強い光が辺りを覆い、大河は片手を上げて目元をかばった。
まばゆい視界の隙間で、大河の前に背の高い男の人がふわりと割り込んできて、女に向けて手をかざしたのが、見えた。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
吉祥寺あやかし甘露絵巻 白蛇さまと恋するショコラ
灰ノ木朱風
キャラ文芸
平安の大陰陽師・芦屋道満の子孫、玲奈(れな)は新進気鋭のパティシエール。東京・吉祥寺の一角にある古民家で“カフェ9-Letters(ナインレターズ)”のオーナーとして日々奮闘中だが、やってくるのは一癖も二癖もあるあやかしばかり。
ある雨の日の夜、玲奈が保護した迷子の白蛇が、翌朝目覚めると黒髪の美青年(全裸)になっていた!?
態度だけはやたらと偉そうな白蛇のあやかしは、玲奈のスイーツの味に惚れ込んで屋敷に居着いてしまう。その上玲奈に「魂を寄越せ」とあの手この手で迫ってくるように。
しかし玲奈の幼なじみであり、安倍晴明の子孫である陰陽師・七弦(なつる)がそれを許さない。
愚直にスイーツを作り続ける玲奈の周囲で、謎の白蛇 VS 現代の陰陽師の恋のバトルが(勝手に)幕を開ける――!
おきつねさんとちょっと晩酌
木嶋うめ香
キャラ文芸
私、三浦由衣二十五歳。
付き合っていた筈の会社の先輩が、突然結婚発表をして大ショック。
不本意ながら、そのお祝いの会に出席した帰り、家の近くの神社に立ち寄ったの。
お稲荷様の赤い鳥居を何本も通って、お参りした後に向かった先は小さな狐さんの像。
狛犬さんの様な大きな二体の狐の像の近くに、ひっそりと鎮座している小さな狐の像に愚痴を聞いてもらった私は、うっかりそこで眠ってしまったみたい。
気がついたら知らない場所で二つ折りした座蒲団を枕に眠ってた。
慌てて飛び起きたら、袴姿の男の人がアツアツのうどんの丼を差し出してきた。
え、食べていいの?
おいしい、これ、おいしいよ。
泣きながら食べて、熱燗も頂いて。
満足したらまた眠っちゃった。
神社の管理として、夜にだけここに居るという紺さんに、またいらっしゃいと見送られ帰った私は、家の前に立つ人影に首を傾げた。
【アルファポリスで稼ぐ】新社会人が1年間で会社を辞めるために収益UPを目指してみた。
紫蘭
エッセイ・ノンフィクション
アルファポリスでの収益報告、どうやったら収益を上げられるのかの試行錯誤を日々アップします。
アルファポリスのインセンティブの仕組み。
ど素人がどの程度のポイントを貰えるのか。
どの新人賞に応募すればいいのか、各新人賞の詳細と傾向。
実際に新人賞に応募していくまでの過程。
春から新社会人。それなりに希望を持って入社式に向かったはずなのに、そうそうに向いてないことを自覚しました。学生時代から書くことが好きだったこともあり、いつでも仕事を辞められるように、まずはインセンティブのあるアルファポリスで小説とエッセイの投稿を始めて見ました。(そんなに甘いわけが無い)
『非正規社員 石田三成』~ショートストーリー集~
坂崎文明
キャラ文芸
『非正規社員 石田三成』がチートなスキルで現場を切り拓く。短編連作ものですが、最後に真相が浮かび上がってきます。諸般の都合でタイトル変更です。noteなどに書いた300文字ほどのショートストーリー集です。
https://note.mu/sakazaki_dc
毎日1話ぐらい更新中。
◆妻が好きすぎてガマンできないっ★
青海
大衆娯楽
R 18バージョンからノーマルバージョンに変更しました。
妻が好きすぎて仕方ない透と泉の結婚生活編です。
https://novel18.syosetu.com/n6601ia/
『大好きなあの人を一生囲って外に出したくない!』
こちらのサイトでエッチな小説を連載してます。
水野泉視点でのお話です。
よろしくどうぞ★
地獄の王子サマ
犬丸大福
キャラ文芸
〝地獄〞 現世での悪行を基に導かれる死後の世界
その悪行(業)の深さにより8つのエリアに分かれ、筆舌にしがたい責め苦が行われる
その地獄を統括している閻魔大王。
しかし彼にはあまりに忙しすぎて息子たちに管理を一任
一応大王の息子と言うことで〝王子サマ〞である
そんな地獄の王子サマ達は罪人達をシバくため
今日もせっせとお仕事に励むのである
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
地獄設定はゆるふわです。
作者の独自設定がふんだんに盛り込まれております。
1話は短めなので、サクッとお読みいただけるかと。
R指定は一応、地獄なのでシバク表現もあります。
後宮にて、あなたを想う
じじ
キャラ文芸
真国の皇后として後宮に迎え入れられた蔡怜。美しく優しげな容姿と穏やかな物言いで、一見人当たりよく見える彼女だが、実は後宮なんて面倒なところに来たくなかった、という邪魔くさがり屋。
家柄のせいでら渋々嫁がざるを得なかった蔡怜が少しでも、自分の生活を穏やかに暮らすため、嫌々ながらも後宮のトラブルを解決します!
❇️安寧を求める余り絶叫する詩❇️
ノアキ光
エッセイ・ノンフィクション
ご覧いただき、ありがとうございます。
こちらでは、自分の作った詩を公開しています。
抽象詩です。
意味があるようでない、意味がないようである。
そんな作品です。
意味が無く、同時に意味のある詩をお楽しみください。
読者が様々な解釈にできる不可思議な自由律詩です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる